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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
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お泊り会 第二弾 #4

 しぃが出来上がった料理をテーブルの上に置いてくれるまで、俺と氷雨とで悠樹先輩をじーっと見ていたのだが、飛んで行ってしまっている悠樹先輩の魂が戻ってくる気配は全く無かった。氷雨が、悠樹先輩の耳元にふーっと息を吹きかけたりしても反応は無かった。


 しぃと氷雨いはく、ここまで放心状態になっているのはとても珍しいらしく、それほど嬉しかったということらしい。


 俺としては、出会った当初の頃から思っていたことを口に出しただけだったんだが。


 小さい頃薫にも似たようなことを言った記憶があるものの、ここまで魂が飛んで行ってしまうほど喜ばれたという記憶はない。


 そういえば薫が活発になったのはその頃からだったなぁ、と思い出しにみる。


 もし、悠樹先輩が薫や心愛みたいに元気で活発でボーイッシュ(心愛は少し違うが)になったのならどういった感じになるのだろうか。


 そういう感じの悠樹先輩の姿も見てみたいような気もするが、悠樹先輩は静かであるために先輩の良さが際立っているのだと思う。


 「護さん。先に食べますか?」

 「いや、良いよ。皆で食べた方が美味しいからね」

 「そうですよね。そろそろゆう姉を元に戻しますので一回、後ろ向いてもらっていいですか?」

 「いいけど、方法あったの?」

 「えぇ。まぁ最終手段という感じですけどね」

 「なるほどね」


 俺は後ろを向いてと言われたので悠樹先輩が視野に入らないように向く。


 「ひぃ。あれやるよ」

 「了解」


 どうやら二人で悠樹先輩に何かをやるらしい。


 それほど壮大なものなのだろうか。


 「いっせいのーでっ!」


 二人の声が合わさる。


 「ひゃぁう……………………っ!」


 悠樹先輩の俺がこれまでに聞いたことのないくらい大きい声での悲鳴が聞こえる。


 まぁ、しぃと氷雨が何をしたのかは分からないし知らなくてもいいと思う。


 ともあれ、悠樹先輩の魂は無事に戻ってきたようだ。


 悠樹先輩の顔はかなり赤陽しており、肩を上下させていた。


 一体、あの二人はなにをしたんだか……。


 「悠樹先輩、大丈夫ですか?」

 「はぁ………………。だ、大丈夫…………」


 それからは悠樹先輩が落ち着くまでしばらく待ち、落ち着いたところでしぃが作ってくれた夕飯を食べ始めた。


 来た時に、氷雨が卵が焦げるみたいな事を言っていたので卵料理なんだなぁと思っていたし、実際にオムライスだったから当たりだ。


 しぃの作ってくれたオムライスはとても美味しく、自分が作ったものより何倍も美味しかった。


 食べ終わった後は悠樹先輩の部屋に集まった。


 悠樹先輩の部屋というか、しぃ、氷雨、悠樹先輩、三人一緒部屋らしい。


 ここの部屋に入るまでに二個三個の部屋を見たのだが一体何に使っているんだろうか。


 「ここの部屋はどういう用途で使ってるの?」

 「この部屋は三人で勉強したりする時とか寝る時はここです」


 かなりの広さがあったし、言うなれば俺の部屋よりも少し広いのかもしれない。


 「護さん。お風呂湧いてますけど、入りますか?」

 「いいよ。そこまでは」

  「そうですか。別に遠慮しなくても良いんですよ」

 「遠慮してないよ。俺より三人の方が疲れているだろうし」

 「分かりました」

  「じゃ、じゃんけん」


 後に氷雨から聞いた話だが、 何でじゃんけんをするのかと思い聞いたみたところ、お風呂の入る順番を毎回これで決めているらしい。


  じゃんけんの結果、一番に入ることになったのは悠樹先輩。その次にしぃ、氷雨という感じだ。


 「早めに出てくる」


 そう言うと、悠樹先輩はすぐお風呂場へと向かった。



 「私、準備してきますね。ゆう姉お風呂あがるの早いので」


 「了解」


 まだ悠樹先輩がこの部屋を出て行ってから五分くらいしか経っていないが、それなのにしぃが準備をするということは余程早いのだろう。


 早いといっても、女の子がどれだけ時間がかかるのかが分からないから、早いというのも決めかねないが。


 「勉強道具取って来ます」


 しぃに続くように氷雨も部屋から出ていった。


 まぁ、氷雨の順番は最後だから、それまでの時間を有効に使おうということだろう。


 氷雨は左手に教科書はノートといった勉強道具。右手にパジャマを持って戻ってきた。


 何でパジャマと思ったもののそこは突っ込まないでおこう。氷雨には氷雨なりの考えがあるとして。


 部屋の片隅に置いてあった丸い形状をしたつくえを引っ張り出して来て、氷雨は勉強を始めた。


 なら、俺も氷雨に見習って勉強をしようか。


 こういった時間を使ったほうが、点数の向上に繋がるだろう。


 「俺もノートとか取ってくるね」

 「分かりました」


 一旦リビングへと戻る。


 ここで俺は気付いた。この悠樹先輩の家には勉強をするために来たのではなくて、晩御飯を頂くために来たんだと。


 「しくじったな………………」


 こういうことになるのが分かっていたら、勉強道具を持ってきたんだが。


 元々、晩御飯を食べ終わればすぐに帰る予定ではあったが、考えてみればそれだけで帰るのは少し憚られたからだ。


 勉強道具を持ってこなかったことに少しの後悔を覚えつつ、俺は部屋へ戻った。


 「はぁ…………」


 俺はため息を吐きながら氷雨の対面に座る。


 「どうしたんですか? もしかして勉強道具を忘れたとかですか?」

 「その通り……」

 「そうだったんですか。護さんもテスト勉強を?」

 「そうだね。明後日から始まるから少しだけ勉強したかったんだけど……」

 「私もテスト明後日からです」

 「そうなんだ。 氷雨は勉強、得意な方?」

 「自分としてはあまり得意ではないと思うんですけど、よくしぃには教えてと言われます。護さんはどうなんですか? 」

 「俺? それなりには出来るようには心掛けてるけどね。俺もよく教えてくれって言われるから」

 「一緒なんですね」


 そう言いながら少し微笑む氷雨の表情と言葉からは、以前に感じていた冷たさというものを感じなくなっていた。


 「ここ、教えてもらってもいいですか?」


 氷雨は俺の横にストンと座る。


 その反動でふわりと舞い上がった髪からは、悠樹先輩とは違う香りが俺の鼻腔をくすぐった。違うといってもベースになってるものは一緒かな、と思わせるようなものだ。 まぁ、そんな事を考えていても俺にはシャンプーやリンスなんてものはどれも一緒に見えてしまうため無駄かもしれない。


 「分かった。教科は?」

 「国語です」


 なにやら教えて欲しいといわれる教科は国語が多いような気がする。


 昨日の勉強会の時も国語を教えたし、今日の朝、羚に教えたのも国語だったと思う。


 それほど得意だということはないんだが、得意そうに見えるのだろうか。


 「ここの傍線部のこの表現を具体的に言い表している部分を抜き出しなさいってやつなんですけど…………」

 「なるほどね。少し時間くれる?」

 「はい」


 軽く本文全体を読んでみる。


 羚もそうだったが、傍線部やそれに近い行だけを読んで考えようとするから分からないというものが多い。一回さっと本文に目を通すだけで分かりやすくなるものだ。


 「この傍線部のところとその前の文と関係があるのは分かるよね」

 「はい」

 「それなら、もう大丈夫だよ。傍線部の近くだけじゃなくてもう少し読み進めるとすぐに分かるから」

 「分かりました」


 このような教え方をすると羚からはブーイングを受ける。答えだけを教えてもらってもその過程がわかってないと次に似たような問題が出た時に分からなくなると思うんだが。


 羚曰く、その時は直感で解くと。


 まぁ、羚はそれで当ててくるのだからある意味凄い。 何となく真面目に勉強している俺たちが阿呆らしく思えなてきたりするのだが。


 「解けました。これで合ってると思います」

 「うん。そうだね」

 「はぁ、良かった。ありがとうございます」



 氷雨に教えていると、すぐに悠樹先輩が部屋に戻ってきた。


 丁度俺としてもする事が無くなっていたので、悠樹先輩が戻ってきてくれてよかったと思う。


 悠樹先輩が部屋から出て行ってから帰ってくるまで約二十分くらい。


 俺はこの時間が早いかどうかは分からないが氷雨やしぃが言うのであれば早いのだろう。


 中学を卒業した後、俺の家族と薫の家族とで旅行に出かけた時は俺が風呂を出てから薫を三十分くらい待った覚えがある。いや、もっと長かったかもしれない。


 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 「おかえり」


 白と水色の水玉模様のパジャマを身につけ先輩は戻ってきた。


 悠樹先輩は机の上に出してある教科書やノートを見て。


 「勉強?」

 「うん。テスト近いから」

 「教えようか?」

 「いいよ。ゆう姉だってテスト近いんだから。それに、今は護さんに教えてもらったから」

 「護に?」

 「うん。教え方はゆう姉と似てるから分かりやすかった」


 氷雨にそう言ってもらえると、俺と悠樹先輩の教え方は似ているのかなぁと思うが、朝、羚に教えた時に俺の説明で分からないといったものを悠樹先輩が教えると分かったと言って嬉しそうにしていたから、まだまだ教え方としては十分ではないのだろう。


 「護? 何考えてるの? 」


 悠樹先輩がこちらの顔を覗き込んでくる。


 それで考えは現実に戻された。


 こちらを見てくる悠樹先輩の顔が小さくて可愛いのは言うまでもないし、その胸は残念なことに膨らんでいないように見えるけど、そのスレンダーな体型は誰もが認めるもの。


 しかも風呂上りのパジャマ姿で、ちょこんと座る悠樹先輩は可愛いの一言で言い表すことができる。


 「い、いえ。何でもないですよ」

 「そう?」


 悠樹先輩はすぐに引き下がった。


 てっきり今回も突っかかってくるのかと思ったけどそんな事はなかった。


 何故かそれがないと少し残念な気持ちになる。


 頑固に俺の口を割ろうと覆いかぶさるようにして本音を吐かせようとする先輩を、下から見るのが意外と好きだったのかなぁと思う。


 「私も勉強する」


 俺は少し横にずれ、悠樹先輩の座る場所を空ける。


 「ありがと」

 「いえ」

 「護は勉強しないの?」

 「しなくてはいけないと思ってるんですけど、家に置いてきてしまって…………」

 「なら、何かする?」

 「いえ。悠樹先輩たちは勉強していてください」

 「でも、そうしたら護は暇になる」

 「そんなこと気にしなくても……」

 「護が気にしなくても私は気にする」

 「で、でも……」


 氷雨から紙に書かれた通達が回ってくる。


 「こういう時ゆう姉は絶対に譲ろうとしませんよ」という内容。


 まぁ、そんなことは言われなくても分かっていたのだけれども……。


 「はぁ…………。分かりました。でも俺何も持ってきてませんよ」

 「大丈夫。トランプならあるから」


 悠樹先輩は微笑みながら言う。


 もしかすると、俺はこの場面での悠樹先輩の笑顔が見たいだけなのかもしれない。


 「何するんですか? ババ抜きや七並べだったら時間がかからなさすぎたり、かかりすぎたりしますし……」

 「うーん。氷雨は何したい?」

 「ポーカーとかどう?」

 「なるほど。 護はそれで良い?」

 「良いですよ」


 こうして、葵の家でやったようにその時より人数はかなり少ないもののトランプ大会? が始まった。



 氷雨の考案で始まったポーカーは、またしても氷雨の考案で罰ゲームも行われることになった。


 十回行った結果で勝敗を決める。


 一位になった人は残りの二人に罰ゲームを与えるというものだった。


 罰ゲームといえば、昨日の成美先輩とのポッキーゲームを思い出してしまうが、杏先輩みたいに持ってるということはないだろうし心配はしなくてもいいかもしれない。


 もしポッキーがあったとしても、悠樹先輩は俺が昨日やっていて恥ずかしいということを分かっているはずだから、それをしようとは言ってこないはずだ。


 氷雨が一位を取った場合はどうなるのか分からないが……。


 「それで、罰ゲームはなにするつもり?」

 「全部終わってから考えれば良いかなって思ってます」

 

 ということは、どんな罰ゲームが行われるのか戦々恐々としながらポーカーを行わなければならないということだ。


 まぁ、そっちの方がスリルがあって面白いかもしれないが、そのことばっかりに気がいってしまって、ゲームに集中出来ないかもしれない。


 「いや………………でしたか?」


 氷雨は申し訳なさそうに覗き込んでくる。


 「大丈夫だよ」

 「良かった……。ゆう姉もそれで良い?」

 「いい」



 こうして始まったポーカーも第十回戦。ラスト一回となった。


 結果は俺三勝。悠樹先輩三勝。氷雨三勝という結果になっている。何とも言えない展開である。


 全員が一位を取るチャンスがあるというわけだ。


 「これで最後です」


 氷雨、悠樹先輩、俺の順でカードを五枚ずつ取る。


 俺だって一位になれるかもしれないんだから今ここで罰ゲームを考えても良いかもしれない。


 氷雨と悠樹先輩の二人にどんな罰ゲームをしてやろうか、うっしし、という邪な考えを持ちつつカードを引く。


 「なぁっ………………」


 ここにきてここ一番の引の悪さである。


 悠樹先輩の方をチラッと見てみると元々白い肌がもっと白く、顔面蒼白になっている。


 まぁ、俺と一緒の境遇にあるということだろう。


 「どうしたんですか? ゆう姉、護さん?」


 なんだこの余裕感はというのがその言葉から伝わってくる。


 その氷雨の顔は自分が一位になるということを確信している顔だ。


 「……………………」


 俺は何も答えなかったがニヤニヤしている氷雨を見ると俺たちがどういう状況になってるかは分かっていることだろう。



 もう一度自分の手札を見てみる。


 ノーペアであるから全部交換して次にくるカードに自分の運にかけるという手もある。


 しかしここで引いてきたカードで揃わないということになれば一緒である。


 スペードのカードが三枚あるから、残り二枚を取り替えてフラッシュを狙っても良いかもしれない。


 隣で俺と同じように固まっていた悠樹先輩は全部を取り替えたらしい。


 取り替えた後でも悠樹先輩の表情が変わることは無かった。


 俺は二枚取り替えたがフラッシュになることもなくワンペアになることもなかった。


 十戦目の結果、氷雨がフルハウス。悠樹先輩はワンペア。俺はノーペア。俺と悠樹先輩の敗北がここに決まった。


 「はぁ…………」

 「護はまた罰ゲーム」

 「そうですね……」

 

 どうも運には見放されてるらしい。


 まぁ、成美先輩とのポッキーゲームは罰ゲームではなかったような気がするが。


 「なら、二人にはハグしてもらいましょうか」


 What? 何だって?


 「どうして? それが罰ゲームなのか?」


 いや、どう考えてもご褒美にしか思えない。悠樹先輩は可愛いと評判になってるらしいし、そんなことをしようものなら、クラスの男子、はたまた学校中の男子から何をされるか分かったもんじゃない。


 「別に良いじゃないですか。それにゆう姉もそれを望んでるはずです」


 悠樹先輩が? 望んでいる?


 「ひぃ!」


 悠樹先輩の言葉が飛ぶ。


 「これ以上は禁句のようです。お二人さん早く。しぃが戻ってきますよ」


 氷雨のキャラが変わっている。


 「悠樹先輩……」


 顔を赤らめている悠樹先輩を見ているといくらゲームだといえどもドキッとさせられてしまう。


 「するなら…………早くっ」

 「すいません」


 断りを入れてから悠樹先輩の肩を抱く。


 悠樹先輩の鼓動をこんなに近くで感じてしまうと、こちらとしても何とも言えない気持ちになる。


 自分自身の鼓動も早くなっているのが分かる。こんなに密着しているのだから、俺の鼓動も悠樹先輩に伝わってることだろう。


 悠樹先輩の手が腰に回ってくる。


 「悠樹先輩……………っ!?」


 すぐさま、悠樹先輩を見たものの悠樹先輩は俺の胸に顔を埋めているため、どういう表情をしているか分からない。


 そろそろ俺の身体が反応しそうで耐えられない。


 「氷雨。いつまでやるの?」

 「嫌なんですか?」


 その氷雨の言葉に少し悠樹先輩の力がこもる。


 「そう言うわけではないけど………………」


 その時。


 「ひぃ。早く入って。お湯が冷めちゃうから」


 扉が勢いよく開かれ、しぃが部屋へと入ってくる。


 その突然のしぃの帰還に氷雨を含め三人は固まった。


 そして俺と悠樹先輩を見たしぃは。


 「失礼しました……………………っ!」


 そう言い扉を開いた時と同じくらいの力で扉を閉じたのだった。

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