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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
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れっつ、ごー #2

 無言を貫く。悠樹はその行動を選んだ。何か言いたげにこちらを見ている成実。だが、成実はそれだけ。ずっとこちらを見ているだけである。


  「…………」


 護を返して欲しいと、成実は思っているのだろう。だって、ふたりきりになれるチャンスなのだから。護と同じ部屋。時間は有効に使いたいものだろう。


 だがそれは、悠樹も同じである。同じ部屋になれなかったのだから、今ここでやるしかない。だから、こうして護を待っていたわけであるし、護のことを堪能しているわけである。


 護も何も言わない。されるがまま、こちらに腕を回してくれるわけでもない。こちらが、一方的に抱きついている。自分だけが満足している、おそらく、そうだと思う。満足の度合い。


  (ん……)


 そろそろ良いだろう。十分に補給した護の成分を。これで今日は大丈夫。成実に渡す。


  「それじゃ」


 離れるのは簡単だ。こっちが一方的だったから。


  「…………………………うん」


 また明日、同じことをしよう。


 今度はバレないように?


 いや。そんなことは一切気にしない。自分のことを優先させる。それだけのことである。



 悠樹が去っていく。護からようやく離れてくれた。ようやく満足したということなのだろう。


 なにはともあれ、護が帰ってきた。自分のもとに。


 なら、言うことがあるだろう。


  「おかえり」

  「遅くなりました」

  「いいんだよ」


 部屋にもどろう。そうすれば、もう、誰にも邪魔はされない。物理的に。護は、成実のものだ。


 護の手を取る。護の感覚を確かめるために。


  「成実…………」

  「ん?」


 入り口で止まり、そこから動こうとしない護。


  「まぁ、私は何も気にしてないよ」


 仕方がないことだからね、と付け足しておく。


 護を手に入れるためにはどんなことでもする。それが悠樹だ。分かる。だって、そうでもしないと、護を自分のものには出来ない。護を好きなのは成実だけではないのだ。沢山いるのだ。


 ずっと、思っていることだ。のんびりはしていられないと。でも、悠樹に先手を取られた。


 後手に回る形になってしまった。遅れをとってしまった。


  「あーあぁ」


 結局のところ、こうなってしまうのだ。意識していても、この有り様だ。どうしようもない。


 どうするべきなのだろうか。何が最善なのだろうか。


  (うーん……)


 成実は少し考える。これまで、何をすればいいか、それを考える時、一番良いことが何かを考えてきた。当然のこと。優位に立つためにやってきたことだ。


 だが、それが裏目に出たことだってあった。今回もそうだ。同じ部屋になること。それが、この合宿においての前提となっていた。だから、少しだけ、そのことに満足してしまっていた。


 護がいつでも近くにいるものだと勘違いしてしまった。


 そうだ。これは勘違い。いつまでもそばにいてくれるだろう、という勘違い。そんなわけがないのに、そう思ってしまう。離れることはないだろうと思ってしまう。


 離れないのはこちら側。護はどうなのかは分からない。だって、護は一人を選ばないといけない。それは、必然的に選ばなかったものから離れてしまうことになる。


 どれだけ、こちらがどれだけ護の隣にいたいと願っても、選ばれなかったら意味がない。隣にいることが出来なくなってしまっては意味が無い。


 だから、ずっと隣にいないといけない。


  「ずっと」


 護の隣にいるためには、もちろん、彼女になるしかない。


 自信があるわけではない。そう。そこが問題なのかもしれない。絶対的な自信が成実には、今の成実にはない。最初の頃はあったのか、と問われたら、それはそれで反応に困ってしまうのだけれども。


  「護」


 護の肩をトンと叩く。それは振り向かせるため。


  「はい?」

  「ちょっとだけいい?」


 確認なんていらなかったのかもしれないが、なんとなく。


  「……………………」

  「優しい、ですね」


 護からはそんな言葉が返ってきた。


 ぎゅっと、護を抱き寄せた。ただそれだけのこと。さっきまで悠樹がしていたことと何も変わらない。一方的なのも変わらない。


  (悠樹の……)


 少しだけ、悠樹の匂いがする。それは、さっきまで悠樹がそうしていてから。気になることではあるけれど。今、護とこうしているのは成実だ。悠樹ではない。紛れもない事実。


 どうすれば、護は自分のものになるのだろうか。それを確実にするための方法は何なのだろうか。


  「ぎゅぅ」


 悠樹がどれくらいこうしていたのかわからないけれど、上書きするために、それ以上のことを。


  「成実?」

  「少し、寂しくなって」


 護が離れてしまうような気がした。


 寂しい。純粋にそう思ってしまう。


 たった数ヶ月の付き合い。たったそれだけの付き合い。それなのに、ちょっとこういったことがあってしまえば、そういう感情がわいてきてしまう。


  (それだけ)


 護のことが好きだ、ということではあるが、ここまで思ってしまうのも珍しい。でもそれは護にだけではないし、その感情の対象は青春部の全員に広がる。ララもランも真弓も。


 時間の短さは関係ないそういうことになるだろう。


 何故か、離れたくないと思ってしまう。ずっと、このメンバーでいたいと思ってしまう。


 特別な存在。それは間違いない。

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