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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
264/384

raison #1

 ……終わった……。

護の隣にいれる時間が終わった。一時間ほどであっただろうか。昔のような、懐かしい感覚。

 「…………んんっ……」

 でも、だからといって悲観するようなことではない。いられなくなった。それは一時的なものだ。部屋が違うから結局のところ、こういう場所か、自分からせめていかないと隣にはいられないわけではあるけれども。

 ……それに……。

 合宿が終われば、いつもの生活に戻れば、また護は自分の元に帰ってくる。幼馴染。お隣さん。いつも通りの、これまで通りの生活に戻れるはずだ。

 「……………………いや」

 はずだ、では困る。戻らないといけない。

 いつも通り。それは、これまでもずっと想っていたこと。これからも考えないといけないこと。いつも通りに護と接し、いつも通りの時間を護と過ごす。

 必要なこと。小学生の時のような、中学生の時のような、その時の関係を取り戻すわけではないけれども。

 ……大丈夫……。

 幼馴染。些細なことでは崩れない。崩れるわけがない。ここまで培ってきた関係が、簡単に、こんな合宿を境にして崩れるわけがない。当然、崩したくはない。

 ……もし……。

 もしも、護が自分を選んでくれなかったとしても、自分に振り向いてくれなかったとしても、その答えに文句は言わない。だって、それは、大好きな護が出した答えだから。

 ……でも……。

 だが、その護が選んだ相手が、この関係を、ただの幼馴染という関係を、これまで築いてきた関係を崩そうとするのならば、薫だって黙ってはいない。反撃にでる。

 それはもう、必然。


「おっと……」

まだ誰も部屋にいなかった。一番最初に戻ってきたのは佳奈ということになる。

「早かったか…………」

 早い、という認識は自分にはなかったけれど、自分以外、悠樹と薫がまだ戻ってきていないことを考えると、早かったと思わざるを得ない。

 「ふぅ……」

 もう布団は仕舞われている。食べ終わったあと皆で直すつもりであったが、その必要はなくなってしまった。

 ……さてと……。

 「考えるか……………………? 」

 ここにいる理由を。もう一度、考える。

何故、佳奈はここにいるのか。この合宿に参加しているのか。それは、杏を監視するため。青春部の一員のため。護と少しでも一緒にいたいため。主に、突き動かしている理由は三番目だ。

 何故、そう思うか。それは護のことが好きだからだ。好きだから、そして、こういう特別な機会を生かしたいと思う。

 「上手くはいかないんだがな……」

 笑いが漏れる。メンバーが集まりすぎると上手くいかない。逆に、二人きりになればある程度は頑張ることができる。それもう、佳奈自身、植物園に行った時に自覚している。

 「真弓に感謝だな」

 真弓がいなければ、あの時、護を好きでいる、ということに自信を持てなくなっていたかもしれない。諦める、という道を選んでいたかもしれない。

 自分一人では頑張れない。重々承知しているつもりではある。だが、これは、自分の問題である。自分の恋なのである。一人で頑張りたくもなる。

 「まぁ……、青春部のメンバーに相談は出来ないがな」

 全員、想う相手は同じだ。恋は戦争。言ってしまえば、全員敵なのである。

全員が敵であるという、四面楚歌の状態であるというのに。

佳奈がここにいる理由はなんだ?

護を好きでいる理由はなんだ?

この恋の戦争に参加している理由はなんだ?

ここにいる理由。それはもう答えが出ている。もう一度言う必要はないだろう。残りの二つ。それらに関しては、はっきりとした答えは出せない。どうしてこの状況でも好きでいられるのかと言われても分からないし、好きでいるからこそ参加している、ということになる。

「ははは………………………………」

 畳の上にドサッと寝転がる。誰もいないからできる体勢であろう。まだ、薫も悠樹も戻ってきていない。

「…………はぁ……………………っ」

 伸びを一度。目を閉じる。

 自分のことが時々分からなくなる時がある。どうして護を好きでい続けるのか。

 ……杏がいるからか……。

 杏。昔から知っている。昔からの関係。ずっと杏を見てきた。突拍子もないことをするからそれを見張っていた。杏と一緒にいるのが楽しい、というのも理由として挙げられるだろうか。

 杏が護のことを気にしている、好意を寄せている、というのは案外すぐに分かった。それは杏のことを見続けてきたから。だから些細な変化に気づくことができた。

 順番でいえば、この二人の間だけなら、先に護を好きになったのは杏である。佳奈は当然その後である。

 それなのに、佳奈は護のことを好きでいる。杏ほどの積極性があるわけでもない。行動力があるわけでもない。それなのに、杏に勝とうとしている。他のメンバーにも勝とうとしている。

 「でもな」

 勝算があるわけでもない。確実に護を振り向かせる方法を知っているわけでもない。

 早急にその方法を見つけないといけない。

 ……いや……。

 勝つためには必要なことである。当然、勝ちを望むのなら。

 どこまで自分はやれるのか。このメンバーの中で。それは分からない。このメンバーの中で一番になれるのか。それは、これからの佳奈の頑張り次第であろうか。

 ……私には……。

 これまで積み上げてきた功績があるわけでもない。何もないわけではないが、他と比べれば、恐らくそれは微々たるもの。幼馴染のような強力なものでもない。

だから、自分がどこまで出来るのかが分からない。一番になれるのかが分からない。

 一番にならないといけいない。好きだから。護のことが。想っているだけ。もうそれではダメだ。やっていけない。周りに流されてしまう。

 「弱くなったか……」

 昔から、杏には流されてきた。というか、振り回されてきた。だが、それは杏だけ。他の人に影響を受けることはあまりなかった。が、今は、その危険性がある。

 「はぁ………………。どうしたものかな」


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