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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
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絆 #3

 あるといえばある。簡単な話だ。

 ……二人で……。

 そう。二人で。二人で、旅行に行けばいい。それだけのことだ。

「はは……」

 簡単。確かに、簡単。護に、旅行に行きたいと、二人で行きたいと、そう言えばいいだけだ。そうすれば、護からはオッケーの返事が返ってくるだろう。

 だが、それを言えるか。言うのは難しい。

 ……矛盾してるのかな……。

 思うだけは、想うだけは、簡単。行動に移すことは難しい。ただ、それだけのこと。

 でも、思いとは裏腹に、身体は動かない。

 ……あたしは……。

 今日まで、何をしてきたのだろう。護の隣にいれるような努力をしてきただろうか。

 ……してない、よね……。

 してない。多分、してないはずだ。

 その程度の想い。なんてことはない。絶対に。

 あの頃の、護に目をつけた時の自分は間違ってはいない。絶対に。

 ……うん……。

 おそらく、ここで勝負に出る。これが、正解だろう。心愛は考える。

 ……うーん……。

 しかし、そこまでの下積みが心愛にあるかと言われれば、そこは首を傾げざるを得ない。

 勝ちに行く。それは、心愛だけが思っていることではない。葵だって、薫だって、杏だって。終わりを望んでいるはずだ。

 最初の行動。告白をしてから、どれくらい経っただろう。思ったより、時間は経っていない。まだ一学期が終わったところ。夏休みが始まったところ。

 これからといえばそうなのかもしれない。これから、頑張ればいいのかもしれない。

 ……難しいよね……。

 それでは、取り残されてしまう。置いていかれてしまう。食らいついていかないといけない。他のみんなに。そうしなければ、自分の勝ちはない。

 自分は何番目なのだろう。下から数えた方が早いのだろうか。同学年だから、同じクラスだから、というのは、この際、あまり意味をなしてないように、心愛は感じる。

 実際、そうだ。ただ、それだけのこと。

 ……まぁ……。

 他の人に比べれば、護と一緒にいる時間は長い。席もすぐ近くだ。同じクラス内だけでみれば、それは有利に働くのかもしれない。

 青春部の、他のメンバーに対してそれは有利ではない。

 ……だって……。

 それぞれが頑張っているから、席が近いだとかそういうことは、とても些細なことだ。アドバンテージにはなりえない。

 ……なんだろう……。

 自身の、アドバンテージとなり得るもの。一体、何があるというのだろうか。

 他より、抜きん出ている部分。それが自分にあるのだろうか。

 ……何がある……?

 考える。考えなくてはならない。自分が優位に立てるようなことを。

 ……そうじゃないと……。

 厳しい。

 ……いや……。

 もうすでに厳しいか。

 そんな考えが、心愛の脳裏をよぎる。

「……………………もぅ……」

 好き、という気持ちだけでは、もうどうにもならない。それだけではダメ。そんな抽象的なもの。そこに何か、一つ加えないといけない。それが、自分の強みになるものであるのならば、それにこしたことはない。

「……だめだめ…………」

 後ろ向きな考えではいけない。みんなに失礼だ。護に失礼だ。だって、この護を好きだという気持ちは嘘ではないから。葵や薫が好きになったから自分も、というわけではない。それぞれが手紙を出した。そして、それは、全員が、自分の意思で出したものだ。他者はそこに介入していない。

 ……はっきりと……。

 気持ちをはっきりと。想いをはっきりと。確定させよう。そろそろ、

 ……終わりにしよう……。


 心愛が何か思っている。

 杏はそう感じた。

 ……ダメダメ……。

 心愛の口から発せられたその言葉。これは何を意味しているのだろうか。

 ダメ。今の自分の状況を見て、自分のことを駄目だと思っているのか。何かを否定する意味での駄目なのか。どっちかは分からない。無論、それが分かるのは、心愛だけである。それだけの言葉尻。前後の言葉だけでは判断が不可能だ。

 ……ねぇ、心愛……?

 そう呼びかけようとしたが、やめておく。

 ……みんなは……。

 どういう思いで、ここにいるのだろうか。この合宿に、ただの旅行に参加した意味はなんなのだろうか。

 楽しそうだから? 面白そうだから? 青春部の皆がいるから? 護がいるから?

 どれか一つに理由が絞られることはない。その全てが理由になる。最終目標は、もちろん護を手に入れることになってしまうが、そこまでの過程で何を主とするか。そこは、それぞれ違う。積み上げて、積み上げて、その場を目指す。

「ふふ………………………………」

 だんだんと、本気になってきている。そういうことなのだろうか。だからといって、これまでが本気ではなかった、ということではない。より、力をいれる。それだけのこと。

「さってと……………………」

 発案者は自分だ。杏だ。他の誰でもない。いつも通り、自分が案を出した。

 ……いつも通り……。

 やることはただ一つ。もう決まっている。





 ピリリ。ピリリ。

 葵が寝ている左隣の位置に置いてある目覚まし時計が、六時半ということを教えてくれる。

 大きな音ではない。どちらかというと、小さめの音である。それは、葵が設定をしたから。自分だけがその音で起きれるように。渚を起こさないようにしよう、という配慮でもある。

「……………………んん……っ」

 ……渚先輩は……。

 大丈夫。起きていないようだ。目をつむっている。寝息が少し聞こえている。

「二日目……、です」

 まだ二日目か、もう二日目か。どっちに取るかは人それぞれであるが、葵は、後者の方を選択する。

 なにも、この旅行だけに限ったことではない。春に御崎高校に入学して、もう夏休みに入ってしまっている。

 あっという間。時間の流れは早い。

 こんな調子でこの先も流れていくのだと思うと、ちょっとだけ憂鬱になる。

 朝起きて、学校に行って、授業を受けて、青春部に行く。確立された、そんな日常。

 学校にいる間は、近くに護がいる。護を感じていられる。触れ合っている時間は長い。

 同じクラス。クラス単位で動く時は常に一緒だ。二学期が始まれば、文化祭や体育祭などがある。

 ……まぁ……。

 そこまで延ばすことはできない。葵はそう思う。決着は、はやめにつけないといけない。それがどういう結果であったとしても。護が選んだ答えなのであれば、それに従うしかない。

「さてと……」

 考えるのは一旦おしまいだ。渚を起こそう。

 目覚まし時計があった側とは反対の右側、そっち側に渚が寝ている。

「渚先輩」

 近寄り、囁くように。大きな声を出さない。アラームの音と同じように、ギリギリ聞こえる程度の声を。

「……起きてください」

 反応がなかったから、声のボリュームをあげる。段々と大きくすればいい。それだけのこと。

「……………………っ。……葵ちゃん……? 」

「はい。おはようございます」

 いつもの大きさに。

 

 ……葵ちゃんか……。

 名前を呼ばれ、薄ら目を開けると、そこには葵がいた。

  「おはよう」

 二度目のおはよう。今度ははっきりと。

 ……あぁ……。

 もし、葵が護だったら。護に起こされていたら。どれだけそれは良い寝起きになったことだろう。葵には悪いが、葵に起こされる、護に起こされる、その二つを比べると、当然、護に起こされる方を選んでしまう。仕方のないこと。

「何時……かな? 」

「はい。六時半を回ったところです」

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