絆 #2
……一緒にシャワー……。
そんなことは当然無理なことで。一緒に入ったところで何かあるかといえば何もないのだけれど、一緒に入りたくないわけではない。
……だって……。
薫とかは幼馴染みであるから、そういう経験もあるだろう。小さい時で、さすがに中学とかの頃ではないだろうが、羨ましい。普通に、そう思ってしまう。
ただそれだけの話。
自分が経験してないことを、他の人が経験している。それだけ。
「部屋、出ときましょうか? 」
「んー、いや。別にいいよ。ここにいて」
そう。これには二つの意味がある。待っていてほしい。後は、言わずもがなであろう。
「了解です」
「うん」
……さてと……。
「…………………………ふぅ」
一息いれる。
……ここからだよ。成美……。
ここからだ。頑張らないと。
そろそろ、決着をつけよう。
「おはようございます。杏様。心愛様」
気持ちいい朝だ。窓を少し開けていたから、暑いというわけでもない。清々しい朝だ。
「うん」
「お……、おはよう…………ございます………………」
杏はいつも通りのスッキリとした感じ。心愛は眠そうである。
「心愛様。大丈夫ですか? 」
「ごめんなさ………………ふわぁ……」
ごめんなさい、そう言い切る前に、欠伸が。
「そんなんじゃダメだよっ。心愛」
その眠そうな、まだ半分寝ているような心愛の頬をプニプニしている杏。杏はとても元気そうである。
……杏様はいつも通り……。
杏だって、そんなにすぐに寝ていたわけではない。携帯を見て一人で色々考えているように見えた。
心愛は三人の中で最初に寝ていた。なのに、眠そうである。
「杏先輩…………なにするんですか………………にゅぅ…………」
「やっわらかいねー」
「……………………」
微笑ましい光景がそこにある。
ここにいなければ見ることができなかったものだ。関わりをこうして持っているからこそ、今、これを見ることができている。
……どうして私はここにいるのでしょうか……。
それは佳奈の執事であるから。佳奈が青春部に入っているからだ。
といっても、これまでは関わりはなにもなかった。急に、活発になったといえるだろう。
……護様……。
護の影響だ。葵と心愛と薫が、護を連れてきた。これで、要因だろう。
……護が……。
護によって、新たな関係がそこに生まれた。直接的には関係がない咲夜まで、この合宿に参加している。部屋を共にしている。
……ありがたいことですよね……。
……………………。
杏にされるがままの心愛。その杏の行動になんの意味があるのか分からないが、別にとめる理由が心愛にはないので。
「ふぅ……………………」
数秒? 数十秒? 杏のプニプニ攻撃が終わった。
「満足」
杏が心愛の頬に触れて、一体、何に満足したのかは分からないが、それを聞いたりはしない。聞いたところで、返ってくる答えは、「なんとなく」だと思ってしまうからだ。
「眠気とれたかな? 心愛」
「………………まぁ、少しは」
杏のもとに振り返り、なんとなく、心愛もやりかえしてみる。
少し背伸びをして、人差し指で杏の左頬をさしてみる。身長差は不利である。
「あらら……」
そんな光景を、咲夜が見ている。混ざりたそうにしている、といえば失礼になってしまうが、そんな感じがしなくもない。
「ささ………………」
二回三回押したところで、杏がさっと後ろに下がる。
「………………っと」
次、と思ったところで、その先の対象がなくなってしまったので、少し前につんのめってしまう。
もふ。
思ったより前に倒れ気味になった心愛。当然、それを支えたのは杏である。杏の胸に、もふり、と。
「大丈夫? 心愛」
慌てて、心愛は仰け反る。さっきとは逆方向への移動だ。今度は後ろに倒れそうになってしまうが、なんとか踏みとどまる。目はもう覚めているつもりだったが、まだ寝ぼけているのかもしれない。
「はい」
ちゃんとしないと。頑張っていかないと。
……昨日は……。
昨日は何も出来なかった。それは全員ではあるが、昨日は何も起きなかった。否、誰も行動を起こさなかった。平和であった。
……だから……。
今日は、何か特別な日になるのかもしれない。
「そろそろ、護とかも起きているかな」
「起きてるんじゃないですか? 」
護は、寝過ごすようなことをあまりしないと思う。断言はできない。そんなとこまで護のことを知っているわけではないからだ。
「成美が起こしたりしてるのかも」
その可能性はある。だって、同じ部屋だから。心愛だって、もし、同じ部屋になっていたら、そういう行動をおそらく取る。
「成美先輩は……、かなり……」
「んー? 」
「成美先輩、羨ましいです」
言葉をかえる。
「だねー」
これから、こういう風に旅行できる機会がどれだけあるのだろうか。年に一回? 二回? その時に、同じ部屋になれるとは限らない。そして、今回のように二人の部屋になるとは限らない。
確実に、護と同室になる方法。ならざるを得ないようにする方法。
……ないわけではないよね……。




