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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
259/384

絆 #1

 何かが上に乗っている。

 いや、乗っているというか、なんというか、触れているだけか。あんまりよく分からない。まだ眠い。少し目が覚めいるだけの状態。

 かなり眠い。何時だろうか。それすら確かめる気力がない。まだ寝ていたい。その思いが先行する。

 いつもならすっきり起きれるのだが、合宿で変に力が入っていたということなのだろうか。特別なことはまだ起きてはいないんだけど。

 ……いや……。

 むしろ、逆か。まだ起きてない。これから確実に起こる。だから、いつもより眠気が、先のことに少しの不安があるのかもしれない。

 ……まぁ、いいか……。

 俺が何か考えていたとしても、それは突然、不意にやってくる。予想の斜め上をいったりもする。考えるだけ無駄になるかもしれない。

 ……あ……。

 ねむい。ねむすぎる。まだ時間あるかな。寝れるかな。もし、時間が近づいてきたら成美が起こしてくれるだろう。その成美も起きれなかったら二人で寝坊だ。

 ……まぁ……。

 それはそれでいいのかもしれない。全体的にはダメだったりするが、気にしないことにしよう。

 うん。ここは、この眠気に身をまかせる。そうしよう。


「……………………む」

 ……何時……?

 目が覚めた。成美は布団にもぐったまま顔だけをあげ、昨日自分がつけていた腕時計に目をやる。

「あー、まだ七時にもなってない……」

 六時半。それが今の時間だ。

「ねむい……………………」

 気が付いたら寝ていたというか、隣に護がいるからあまり寝たという気にならないというか。

 ……あはは……。

 護が、好きな人が隣にいて、おちおち寝てはいられない。

「まだ寝てる………………」

 視線を時計から護に移す。成美が寝る前に見た、その時と同じ護の寝顔。いつもの護。

「ごめんね、護」

 ……なんとなく……。

 いつも振り回してる気がするから。自分のせいで困らせてることがあるから。それは自分だけではないことだけれど、ごめん、と、そう謝りたい。

「ふふ……」

 成美は身体を動かす。その先は護の隣。護の布団。

「ちょっと邪魔するよー。護」

 少しの隙間に、成美は自分の身体を滑り込ませる。

「はは、護がかなり近くにいる」

 ほぼゼロ距離。身体を少し縮めれば、収まるようなそんな形。護に包まれているような感覚になる。

 ……少しくらい……。

 成美は手を伸ばす。護の髪へ。護の頬へ。サラサラツンツンとした感じからプニプニへ。

「まーもーるー。まーもーるっ! 」

 プニプニ、プニプニ。楽しむ。プニプニ、プニプニと。

「ねぇ、まもるぅ」

 呼びかける。当然起きるわけはないのだけれど、返して欲しくて声をかけたわけではない。

 プニプニと、護の頬を触ることはまだやめない。

 護が自分を包んでくれている。護の胸に、顔をうずめる。

「ふわぁー」

 護だ。護だ。

 護の匂いが、護の全てが、成美を揺さぶる。行動力の源となる。

「いつになったら起こしてあげようか」

 護の近くに携帯が置いてある。寝る前にアラームをかけていた、そんな気がする。わざわざ成美が起こす必要はないけれど、成美がこうして今起きている以上、機械の無機質音で起こされるより。

 ……私に起こされる方がいいよね……。

 当然だ。成美だって、護に起こされたい。毎日でもいい。

 ……私がもう一回寝れば……。

 どちらにするか。護を起こすか。護に起こしてもらうか。

 ……いや……。

 悩むことはない。まだ旅行は始まったばかりだ。まだまだ、護は自分のものだ。自分の隣にいる。

「いやはや……………………」

 ……恥ずかしくなってきた……。

 護が近くにいる。いすぎる。この距離感。

 ずっと、護の隣にいたい。護を独占したい。

 護がほしい?

 当然だ。

「どうすれば、護の隣にずっといれるのかな」

 護を引き込まなければ。自分の元に。他ではいけない。自分で、自分の魅力を、前に押し出していかないといけない。

「んもぅ……」

 ……答えは出てるのにな……。

 同じことを、繰り返し繰り返し考えている。その度に出る答えはいつも同じだ。それなのに、何回も考えてしまう。

「好き……だけじゃ……駄目なの……? ねぇ、護……………………? 」

 好きだけの気持ちなら、他のみんなと何も変わらない。同じ場所に立っている。

 だが、完全に同じではない。それぞれに差がある。好き以外の何かが、護の答えの先にあるのかもしれない。

「それはなんなのかなぁ、いったい」

 それが何なのか。護が答えを出してくれるまで分からないんじゃなかろうか。そんな気がしなくもない。ただ、そこが分からないと、おそらく、ずっと隣にいることは難しいのだろう。

「あはは……。護は……」

 成美は言葉を続ける。

「護は誰が好きなの……? 」

 薫? 心愛? 葵? 悠樹? 成美? 渚? 佳奈? 杏?

 自分は、護にとって特別な存在になり得るのだろうか。

「ぐるぐるぐるぐるぅ…………」

 ……分からないねぇ……。






「……………………む」

 ……目が覚めた……。

 起きた。

「…………むぅ」

 隣に護がいない。それは紛れもなく、本当のことである。

 今、護の隣には、成美がいる。悠樹ではない。

「護は……」

 起きているのだろうか。まだ寝ているのだろうか。成美に起こしてもらったりしているのだろうか。

「…………っしょっと……」

 身体を起こす。まだ布団を身体にかけたままだ。暑い気がしなくもない。

「護のとこ…………」

 護のところにいかないと。護が待ってる。

 ……いや……。

 自分が、か。護は待っているだけなのかもしれない。

「そんなことは………………」

 ……ない……。

 あってはならない。

 護は悠樹の何だ?

 悠樹は護の何だ?

 自ずと答えは出てくる。

 再度、自分に問う。自分は何をすべきか。簡単だ。護の隣に、側にいるだけでいい。問題ない。普通のこと。

 ……ふぅ……。

「護を好きになったのはいつ? 」

 分からない。気付いたら好きになっていた。

「護のどこが好き? 」

 愚問だ。特定できるものではない。

「いつまでも護のことを好きでいれる? 」

 当たり前だ。

 当然だ。隣を、離れるわけがない。離れたくない。もし、護から離れるようなことがあったとしても、自分は追いかける。結ばれた今のように。

「ん………………………………」

 気合いを入れ直す。再び。

 彼女になれたから。そこが終わりではない。そこからがスタート。まだ、悠樹はスタート時点に立ったにすぎない。この先の未来は、自分にかかっている。自分が引っ張っていくことにより、その先に自分の望むものが待っているはずだ。


「………………る。あ………だよ」

 何か声が聞こえる。近くからか。

「まーもーるーーっ!! 」

 とてつもない大音量で自分の名前が呼ばれる。一瞬で目がさめる。寝ぼけている状態がどっかにいった。

「おはよ。護」

 鼻がぶつかりそうな距離に成美がある。おそらく、ここは驚くところなのだろうが、何故か、びっくりする、という行動がとれなかった。成美の顔が近すぎたからだろうか。

「な…………」

 いやいやいやいやいや。声が出せない。近すぎる。うん、近すぎる。

「んーー? 」

 成美の声が耳に届く。成美の息が顔にかかる。

「おはようございます……」

 あまり、大きな口をあけないように、できるだけ最小限の行動で声を成美に届ける。

「うんっ。おはよ」

 まぶしい。太陽光がまぶしいのではない。成美が、まぶしいのである。キラキラしたその笑顔。成美の笑顔は、いつも俺を元気付けてくれる。それは成美だけではないけれど。

 近い。

「まだ七時になったところだよ。護」

 そろそろ起きたほうがいい、という時間ではある。まだ寝ていたい、そう思わなくはないが、眠気は、今眼前にいる成美によって吹き飛ばされている。

「どうしたの? 護? 」

「成美はいったい……何を? 」

「んー? 」

 成美は首をかしげる。

 俺も今思った。この状態は、不思議である。当然、同じ布団で寝ていたわけはない。ある程度距離を離して寝ていたはずなのだ。

 ……だけど……。

 今、成美の位置は自分の隣。寝始めの、その位置にはいない。ズレている。

 どうして、俺の隣にいるのだろうか。

「護の寝顔を見てた……かな? 」

 少し間があった。それだけじゃない、そういうことだろう。安易に想像することができる。

  そろそろ起きようか。護」

「え、そうですね……」

 んー。起きようにも起きられないというか、位置的になんというか。成美がそこにいると。

「成美がそこにいるとですね……………………」

「ん……? あぁ、ごめんごめん」

 眼前にいた成美が、すぐに後ろに下がってくれる。素早い。

 部屋の窓を開けたままだとか、クーラーをつけたまま寝たわけではないら、少しだけ汗ばんでいる。暑い。だからといってシャワーを浴びるほどのものでもないし、この後、まぁ、何かしらするだろうし、それから入ってしまった方が時間を無駄にしなくてすむ。

「ねぇ、護」

「はい。なんですか? 」

「シャワー、浴びてきてもいい? 」

 汗かいたから、成美はそう付け足した。俺とは逆だ。後でもいいとは思うけど、成美は女の子だし、俺よりかはそういうとこは気になるだろう。

「いいですよ。俺に確認とらなくても」

「いや。護も入るかなって思って」

「俺は大丈夫です」

「分かったよ」

 

 

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