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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
257/384

ナイト・メア #1

  「ふぃ……………………」

 ドサっと、力を抜きながら成美が布団に向かってダイブしている。俺もそんな成美につられそうになるが、そんな気持ちはセーブしておく。

  「お腹いっぱいだよぉ……」

 どれくらい、宴会場にいただろうか。晩御飯のバイキングの時間が始まるのは一律、皆、七時からだった。杏先輩から連絡をもらってそれから準備やらなんやらをしていたため、全員が宴会場に集まれたのは十五分過ぎだったか。今はもう九時前。一時間以上、あそこにいたことになる。

 当然それぞれがまとまった席を取れるようなことはなく、それぞれの部屋で集まった、程度のことだった。

 まぁ、それでも、料理を取りに行くときにすれ違ったり同じ食べ物を取ったりして、成美以外の誰とも喋らない、なんてことはなかった。もちろん、ちょくちょく悠樹には声かけたりかけてもらったりしたし、みんな近い席ではなかったことに反論したメンバーはいなかった。

  「食べ過ぎましたね」

  「うん」

 ぐでー、と俯けのままの成美。

 定食とか、そういったものであれば量が決まっているからそこでやめておこう、となる。だが、バイキングだから、無限にそこに料理がある。かなりの人数がいたから減ったり無くなったりしたりも当然するが、それは次取りに回る時には、もう補充されていたりするのだ。

 海が近いため、刺身だとか、そういったものがメインに並べられていたが、ステーキだとか、カレーだとか、肉じゃがだとか、そんなものももちろんあった。高級に見えるものから、家でも味わえそうなものまで、何種類くらいあったのだろうか。多すぎて、数えようという気は起こらなかった。

  「ねむい……………………」

 うつぶせになっているから、さっきから、成美の声はこもっている。余計に眠く聞こえる。俺も眠くなってくる。

  「まだ九時ですよ」

  まだ、というのか、もう、というのか、そこは難しいところではあるが。

  まだ……? 護はこれから何するつもりなの? 」

  「特に何かあるわけではないですけど」

 俺はなくても、ほら、杏先輩がいる。ここまで何もない。全ては明日からなのかもしれないが、しばらく休憩でもしたら何か連絡がくる可能性だってある。

 当然、連絡がきたとしても寝てしまっていたりしたらそれを回避できるわけではあるが、まぁ、それはそれで良かったりするかもしれないが、全体的に考えるとそれは避けておきたい。

  「杏先輩のことだよね。分かってる分かってる」

  「えぇ」

 俺的にはまだ数ヶ月だけど、成美にとってはもっとあるわけで、俺よりも杏先輩のことをわかっているだろう。まぁ、俺でもこうなるんではないか、って分かってしまうんだから。

 


 ……いやはや……。

 眠い。とても。

 初日の疲れというのか、ご飯をたくさん食べ過ぎてしまったからか。少しばかり護の肩を借りて昼寝をしていたというのに、あれでは足りなかったようである。

  「ぬー……………………」

 こんな自分を見て、護は何を思っているのだろうか。なんとなく、ゴロゴロと引かれている二つの布団の間を行き来してみる。

  「成美はどちらの布団で寝ますか? 」

  「私? そうだねぇ……」

 もちろん、どっちでも変わらない。どっちでもいい。

 二人部屋だから、もちろん、引かれている布団の数は二つ。成美と護の分。入り口側と少し距離が置かれて奥の方に一つずつ。一回転がったとしても双方の布団を行き来できないくらいの距離があいている。

  「こっちにするよ」

 成美は奥のほうを選ぶ。転がった先にあった方。それは、今いる位置。

  「分かりました」

 そういうと、護は腰を下ろす、それは、自分がさっき倒れこんだ位置。

 ……さてと……。

 何かを考えていないと寝てしまいそうだ。暑さからか、身体が少し火照っている。そんなことを言うのであれば一旦布団から離れるという手もあるわけだが、今は睡眠欲がそれに勝っている。

  「あー……………………」

  「どうしました? 」

  「大浴場、使えるの何時までだったっけ? 」

  「十時半ですね。杏先輩が言ってましたよ」

  「そうだったね……」

 あと一時間ちょっとくらい。早めにいかないといけない。部屋にはバスルームが設置されているから大浴場を使わなくても風呂には入れるが、開放感溢れた浴場でのんびりしてみたい。

 目をこすりながら身体を起こす。いくら眠たいからといって、お風呂に入らないのは論外である。汗をかいているし、このまま寝てしまったらどうなるか、想像もしたくない。

  「護はいつ頃いく? 」

  「俺……、ですか? 」

  「うん」

 少しだけ、きょとんとしている護。

  「今すぐでも俺は行きますよ。どっちみち、俺は一人ですからね」

  「あ…………………本当だ」

 時間を合わせて一緒に大浴場に向かったところで、どうせ男湯と女湯に分かれることになる。護以外、女。必然的に一人になる。

 ……混浴とかあるのかな……。

 杏が露天風呂もあるとか言っていたような、そんな気がする。

  「えぇ」

 ……まぁ……。

 混浴があったとしても、それを使うかと言われれば。

 ……使わない……。

 そこのハードルは高い。高すぎる。

 さすがに、そんなところまでは望まない。というか、望まなくていい気がする。

 ……ふむ……。

 もし、そうしたところで何が変わるのか。その先に何があるのか。自分にとってプラスとなるのか。マイナスとなるのか。

 色々考えてみても、そこまでやろうとは思えない。

  「じゃ、一緒にいこ」

 一緒には入らないけれど、その場所までは一緒に行きたい。それくらいは普通に。同じ部屋だし、目的地は同じだし。

  「さってと…………」

 目をぱっちりと、いつまでも眠たいとか言ってる場合じゃない。

 行動再開だ。

 ……のんびりはしていられない……。

 何回も、何回も、自分に言い聞かせている。これまでにしよう。これからは。

 ……これからは……?

 自分の思った通りに。この期間でケリをつける。終わりにする。

 ……うん……。

 これもさっき思っていたこと。もう答えは出ている。成美は自覚する。

 なら、もう。

 迷う必要がどこにあるというのだろうか。



 寝巻きというかジャージをまとめ、それを脇にかかえる。基本的にあんまりジャージをで寝ることはなかったりするが、持ってくるものを間違えてしまった。別に、館内にいるだけならこれで出歩いたとしてもなんらおかしいことはないから、そっちにも使うことにする。

  「行きましょうか」

  「うん」

 位置的に、俺が先導してるみたいになる。場所が分からない、ということはないから問題はない。大浴場は二階からいける。二階には誰の部屋もないから、お風呂に行くときしか使わない。悠樹達の部屋は一階。後は、二組ともは三階だ。

  「あ、鍵……………」

  「大丈夫、持ってるよ」

 クルクルと、輪っかに指をとおしてまわしている。

  「ありがとうございます」

 部屋に置いたまま外に出てしまったら面倒なことになる。まぁ、フロントにいけばいいだけではあるが、余計な迷惑はかけたくない。当然だ。

  「二階、だよね」

  「えぇ」

 部屋を出、鍵を締めると、成美がすぐに俺の横に並んでくる。少々その距離は近いが。

  「廊下もちょっと涼しいね」

  「言われてみればそうですね」

 部屋にいてもあまり冷房の必要性は感じなかった。窓を開けていれば風が入ってくるから。廊下に風が流れ込んできているわけではないが、少しばかり風調が効いているのかもしれない。

 廊下の奥、左右にそれぞれ、階下に降りる階段がある。

  「あっちから降りましょう」

 登ってきた方とは逆方向。

  「あっちから降りた方が近いですから」

 必然的に、葵や心愛達がいる部屋の前を通り過ぎることになる。

  「どんな感じなんだろうねぇ」

 パンフレットとかを見た覚えはない。杏先輩が決めて、俺達はそれについてきた。言ってしまえば、こうまとめることができる。

 今日一日の疲れを。

 お風呂からあがったらそのまま寝てしまいそうだ。



  「それじゃ、ここでいったんお別れだねー」

 男、女。その文字の書かれた暖簾が、自分達の目の前にある。はっきりと、区別されている。

  「護はすぐ出る方? 長風呂? 」

  「どうでしょう。家だとすぐですが、こんな機会はめったにないですし、ちょっとは長くいますよ」

  「おっけー。私もそれに合わせるよ」

 歩を合わせてここまで一緒にきたのなら、もちろん、帰りも。そう思うのは当然のことである。

  「何時頃? 」

  「長いといっても二十分とかそれくらいですから、十時にはここで待っていますよ」

 ……十時……。

 ちょっとはやい。成美はそう思う。

  「うん、わかった。十時ね」

 はやいけれど、急げば多分間に合う。うん、うん。

  「はい。それじゃ、また」

 スッと成美から視線を外した護は、スタスタと男湯の方へ。そんな護もすぐに角を曲がって見えなくなってしまう。のんびりしている時間はない。十時。遅くても十時十分くらいか。護を待たせてはいけない。

 ……まぁ……。

 待ってもらうのに退屈しそうな場所ではない。このあたり、広く、開放的な空間になっていて、自販機や、マッサージチェアーなどといったものが置かれている。チラっと視線をズラしてみれば、ゲームコーナーらしきものもみえる。

 ゲームコーナーがあったとしても、それを護が遊びとして使うかは疑問である。携帯ゲーム機でゲームをしているイメージはあるが、こういうところにはあまり出向かないイメージがある。

  「おっと、こんなことしてる場合じゃないね」

 時間はあんまりない。急ごう。



  「お」

 脱衣所で着替え、サウナを横目で見ながら浴場に繋がる扉を開ける。

 開けると熱気がやってくる。それは暑苦しいとか、そんな感じではなく、温かく包んでくれそうな、そんな感覚だ。

  「へぇ……、やっぱり広い」

 後手で扉をしめ、一歩一歩中へ足を進めていく。

  「って、中にもサウナ………………」

 二つ。入る前と、入り口近く。そのガラス扉から中にどれだけの人がいるかは分からない。大浴場の使用時間の終わりは近づいているし、あまり使っている人はいないのかもしれない。成美自身、使おうとは思わないから、逆に人がたくさんいるかもしれない。

  「こりゃ、大きいねぇ」

 目の前に広がっている。一番奥の方に、おそらくメインだと思われる、この大浴場の横幅とおなじくらいの横幅、十メートルは超えるだろう、広すぎる湯船がそこにあった。それとは別に後三種類くらいあるが、それらの大きさは全てそのメインの三分の一くらいの大きさ。時間が時間だから混んでいるということはない。いや、広すぎるからそう思うだけかもしれない。

  「とりあえず、あそこで」

 シャワーも十台後半くらいは設置されている。見知らぬ人の隣になるのは嫌なので、端の方、空いてる方に成美は足を伸ばす。

  「んんっっ…………………………………………」

 シャワーを浴びる前に大きく伸びをする。開放感に満たされている。成美を見ているものは誰もいない。

  「若木の湯、だっけ…………」

 脱衣所からここにくる間に、そんな文字を見たような気がする。

 全体が緑っぽいと言われればそんな感じがしなくもない。電光の影響もあったりするのだろうか。

  「あー、時間が」

 時計なんてものは掛けられていないし、腕時計を持ち込んでいるわけでもない。自分の時間の感覚を頼りに、護を待たせないようにしないといけない。

  「ふぅ……」

 シャワーの蛇口をひねる。シャワーヘッドの先端の数十の穴から、湯水が成美にへと降り注ぐ。

  「あったかい……」

 落ち着く。夏でも、冬でも、こういう時は落ち着ける。そういった感覚に浸れる。



  「む……………………」

 置いていかれた。素直に、悠樹はそう思う。夜ご飯を食べ終えた後、悠樹は、そのまま睡魔に身を任せてしまっていた。寝るつもりはなかったのだが、佳奈と薫は、起こしても起きなかったと と言う。

  「む………………………………」

 大浴場を使わず、部屋にあるお風呂を使うという手も考えられたが、折角だから使うことに。まだ日はあるから明日も明後日も入れるんだけど。

 階段を上り、二階に。一階に部屋が割り振られたのは悠樹達だけだ。悠樹、佳奈、薫。

  「護の部屋………………」

 まだ行けてない。いつ行こうか。どのタイミングで行こうか。考えることはいっぱいある。

 ……お風呂の後……?

 修学旅行ではないのだから、これといった就寝時間などは決まっていない。全部自由だ。全部、自分達の常識によって決定される。

  「後で…………」

 後にしよう。とりあえず、お風呂。それが先だ。


 

  「あ………………、悠樹」

  「成美」

 のんびりと、のんびりと湯に浸かり、時間になったので外へ。出ようとしたところ、向こう側から扉が開き一瞬驚いたが、それが悠樹だと気付き、驚きは静まっていく。

  「これから? 」

  「うん」

 佳奈と薫がいる気配はない。悠樹だけ。

  「邪魔になるから」

 そういうと、悠樹は成美の手を握って扉から離れる。他の利用者の邪魔になっていたようだ。

  「ありがと」

  「ん」

 ……ん……?

 悠樹は手を離そうとしない。それに、悠樹の視線はずっと成美に固定されたままだ。

  「どうかしたの? 」

  「ん………………………………む」

  「……………………? 」

 頭の中にはてなマークが浮かぶ。何が言いたいのか全く分からない。

  「あ、そうだ。佳奈先輩と薫は? 」

 こちらから言葉をかける。

  「先に入った」

  「そうなんだ。悠樹は一人で入りたかったの? 」

  「そういうわけではない。寝てた」

  「寝てたら先に行かれたわけね」

 少し笑ってしまう。成美も、あそこで寝てしまっていたら一人で入る羽目になっていた。結局、入るのは一人だが、ここまでくるのは護と一緒だった。

  「そういうこと」

  「早めにでてきなさいよ」

 残り時間は三十分くらいか。

  「私はいつもはやい」

  「そうなの? 」

  「うん」

 こんな会話したことがない。いってしまえば、こういう姿、お風呂場で、何かを話す、というのも初めてだ。

 合宿、旅行。何かを見つけないといけない。

  「成美」

  「どうしたの? 」

 悠樹はことばを続けない。かわりに、空いてるほうの手を前に突き出し。

  「ひゃうっっっ!!? 」

 ……なななな……っ。

  「急になにするのさ……っ!!!! 」

 慌てて後ろへとステップ。悠樹の手を振りほどく。

  「なんとなく…………」

 悠樹は何もないところでさっきの動作を繰り返している。その位置にもう成美はいない。

  「んもー…………………………」

  「大きくなった? 」

  「え……………………? 」

 悠樹は言葉にすることなく、指をさす。それだけ。

 ……もぅ……。

 こんなことを聞いてくるような子だったか、成美は首を傾げざるを得ないが、女の子同士、青春部のメンバー同士、同学年、同じ想いを持つもの同士だから、気にしないことにしておく。

  「そ、それは、どの時期から、になるのかな? 」

  「ん………………」

 ……んー……。

 いつからか。悠樹が、他人のことを気にするようになったのはいつからだろうか。他の青春部のメンバーのことを考えるようになったのはいつからだろうか。

 ……護……。

 もちろん、護が来てからだ。護が来て、青春部が変わった。

 それまでは、ただ、そこにいる、という感じだった。何をしてても良かった。のんびり、それぞれがしたいことをする、そんな部活だったし、それだけの部活だった。

 護が変えていった。

  「護が来てから」

  「ど、どうかな……それは……。分からない。別に測ってもいないし……」

  「そう……」

 別に、悠樹にとって、成美の胸が成長しようがしまいが、それほど重要なことではないだろう。だったら自分も、と思う。

  「…………………………」

 護は気にしない。そうだろう。それは確かなことだろう。だが、あって困るものではない。無くて困るものではない、とも言いたいところだろうが、そこに確証は持てない。

 少しくらいは、と、悠樹だってもちろん思う。女の子であるから、それは、女の子の特権だ。

 自分のを見てから悠樹のを見ればそれなりに落ち込む。同じ学年であるというのに、そこも、身長も、かなりの差がある。

 ……一番下……。

 おそらく、自分が一番下だ。真弓、ララ、ランを除いて考えると。一年生の、心愛、薫、葵にさえ負けてる。

  「もういいかな、悠樹。時間ないよ? 」

  「ん、分かった」

 ……そうだった……。

 いくら早めに出られるからといってもある程度の時間が無ければ時間をオーバーしてしまう。



 ……びっくりした……。

  「ふぅ……………………」

 びっくりした。単純にそれだけ。

 ガラス戸を隔てて脱衣所と大浴場。扉一枚向こうにいる悠樹。いつもと違うというか、かなり違う悠樹を見れた、一年くらい経って仲間の違う一面を見れたということは良いことなのかもしれない。

  「嘘、ついちゃったなぁ…………」

 分からない。成美はそう答えた。答えてしまった。だが、それは違う。事実はそれに反している。

  「ん………………ん…………」

 別に測らなくても、自分の身体がどうなっているかくらい分かる。だって、自分のものなのだから。





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