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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜第三章〜悠樹√〜
254/384

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  「んんーーっ」

 ララと真弓が同時にノビをする。フロントで鍵を借り、部屋へ。ララはそのまま、まっすぐ部屋の大窓の方へ足を運び、窓を大きく開けて今に至る。

  「気持ちいい、ですね」

 そんな二人のあとにランも続く。

 ……着いた……。

 やっと着いた。青春部の皆がいるところに。護のいるところに。

 参加していない。参加しない道を選んだ。あえて、この三人での道を。真弓には感謝である。

  「さて……どうする? 」

  「真弓さんは何がしたい? 」

  「そうだねぇ……………………」

 顎に手を当て、目をつむり、考えを巡らせている真弓。そんな真弓を隣で見つめる。

 ……厳しいよ……。

 わかっている。理解している。

 だが、どうだろう。ここで結果を出せれば、護との距離はもっと縮まるだろう。告白もした。キスもした。

 ……足りないのは……?

  「二人は何したい? 」

 質問に質問で返された。


 ……ま……。

 私はね……。心の中でそう呟く。

 優先されるべきはこの二人だ。ララとランだ。自分は後でいい。

 ララとラン。極めて、ララの方。ララの護に対しての想いは、自分にはないものだ。

 気に当てられる。ララにも、そして、佳奈にも。

 ララのことはそこまで知らないけれど、佳奈のことなら知ってる。小さい時から知ってる。何でも分かる、とは言わない。

 真弓だって、護のことは好きだ。それなりに。だがしかし、負ける。それを確信している。近くにいたいとか、側にいたいとか、当然思うことある。

 ……でもねぇ……。

 それだけといえばそれだけなのだ。

 護のことを知って、時間が経っている。何も知らない。佳奈から護のことを聞いていただけの時とは違うのだ。ちゃんと関わりがある。小さな小さな関係だけれど。

  「護君といたい。それはまちがいないです」

  「だねぇ。僕もそう。遊びたい」

  「ふむふむ」

 ……当然だよねぇ……。

 会えない可能性。ここに来る前も来てからも、その可能性について危惧しているところではあるけれど、いってしまえば、考えていても仕方がない。

 今、少しの間くらいは、嫌なこと考えないようにしたい。都合のいいことだけ考える。そんな時があってもいいはずなのだ。

  「護がどこの部屋にいるか、まずそれを確認しないとね」

 真弓は案を出す。自分が引っ張っていかないと。一応、一番年上だ。

  「護君以外、他の人の部屋も……確認しといてもいいかもしれません」

 ララも乗ってくれる。

  「そうだね。他の人にも気を付けないと」

 会うのは護だけでいい。

 護を呼び出す。そういう手も。

 ……ん……呼び出す……?

  「……………………」

 ……呼び出せばいいんじゃん……。

 何とかして会えれば、それとなく護の部屋を確認し、タイミングを見計らって突撃。それでも良かった。でも、もっと簡単な方法がある。

 ……なんで思いつかなかったかなぁ……。

 一番簡単で、一番楽な方法だ。色々と、無駄に考えていた。

  「今思ったんだけどさ、護を呼び出せばいいんじゃないかな? 」

 真弓は言葉を続ける。

  「こちらであれこれ策練って護を動かすより、単純に呼び出す」

 これなら誰にも怪しまれない。他の人たちには言わないで、と口止めをしておく必要があるが、それだけで済む。簡単なことだ。

  「どう? 」

 なんとなく、胸を張る。いや、胸を張れるようなことではないのだけれど。

  「僕もそれには気づかなかったよ」

  「私もです」

 頑張りすぎて、周りに目が行かなくなる。簡単なことを見落とす。よくあることだ。気を付けていても、いろいろ失敗したりもするのだから。

  「じゃぁ、まずこれで決定だね」

 護を呼び出す。決定事項。後は、いつ、どのタイミングで呼び出すか。あまり長い時間護を拘束すると他にバレるから時間も考慮しないといけない。

 それに加え、内容も必要だ。ただ単に呼び出すだけではいけない。それでは意味がない。何のために護を呼び出すのか。護と会うのか。他愛もない話、でもいいかもしれなけれど、それでは不満だ。真弓はそう思う。

「あ……………………でも……」

 ランが、ゆっくりと、少し申し訳なさそうに手を挙げた。まっすぐ伸ばしているわけではない。自分の顔の横に手を添える感じだ。

「三回も…………、護君を呼び出すのですか………………? 」

「あー……、えっと…………………、どうしようか。そのあたりは……………………」

 三回。真弓の分。ララの分。ランの分の、合計三回。

 正直、真弓的にはどちらでもいい。一人一人で行っても、皆で行っても。

 ……まぁ……。

 想いは一緒でも考えていることは違うのだろう。どこまで求めるのか。妥協するのかしないのか。それだけでかなりの差が生まれる。

 ……私は……。

 真弓はどこまで考えているのだろう。どこまでが自分の領域なのだろうか。

「護のことを考えると、皆で行くほうがいいと思うけれど……」

 これは妥協案だ。会えればいい。それを考えただけの話し。

  「そうですねぇ……………………」

 頷いているランであるが、その顔は不満そうだ。やはり、それだけ時間が欲しい。濃厚な、親密な、時間が欲しい。

 その気持ちは分からなくはない。何度も言う。分からないわけではないのだ。

  「僕は別々がいい」

 きっぱりと、みんなに聞こえる声で、はっきりとした意思を持ってララが言う。

  「チャンスは今日一日っではないよ。真弓先輩っ! 」

 その目は輝いている。

 ……まっすぐだよ……。

 本当に。佳奈もララも。

  「僕は頑張るよ」


 ……うん……。

 頑張る。頑張らなくちゃいけない。そう自分に言い聞かせる。

 逆に言えばこうだ。

 そうしていかないと気分が保てない。負けそうになってしまう。気持ちで。ここで負けてしまえば意味がない。気持ちで負けるとか言語道断。考えられない。だから、頑張る。やるしかない。真弓の提案に乗った意味もない。

  「じゃ、私、ラン、ララ。バラバラで護と。おっけー? 」

  「うんっ」

  「はい」

 二人でタイミングを合わせて頷く。いな、勝手に合ったというべきだろう。

 ……ふむ……。

 ララは少しだけ考える。ランのことを。双子。何をするのにも一緒。それだけ仲が良いということ。

 でも、当然、分からないことだってある。

 ララとラン。ララは護が好きだ。しかし、ランは?

 あの時決めたこと。護を好きにならない。そう決めていた約束。それを一方的に破ったのはララだ。破ったからここまでこれた。青春部にも入ることができた。

 もし、約束を忠実に守っていたら、今、二人はどうなっていたのだろうか。

 ……羚君……。

 羚と護。友達。言ってしまえば、だ。羚から護に乗り換えた。羚に彼女が出来てしまったから、護を好きになった。自分のことをそう捉えることもできる。

 ……結局のところ……。

 好きだから。好きになったからといって、護と付き合えるわけではない。むしろ、逆に、そんな簡単に付き合えるわけがない。

 恋敵が、単純に、敵が多すぎる。

 自分の立ち位置を確立するために何をしないといけないか。なんのために青春部にまで入って、ここに来ているのか。考えないといけない。




  「ほぅほぅ…………」

 部屋を出、誰かの部屋に行くでもなく、旅館内を歩き回っている杏。もちろん、理由もなく、そんなことをしているわけではない。そんな時間はない。

 ……把握把握……。

 この旅館を把握することは大切だ。どこになにがあるか、食事をするところや、大浴場。知っておくことは必要だ。部屋の配置数。この道はどこに繋がっているか。自分だけ、他人より多めに知っておけばいい。

  「どうしようかなぁ……………………」

 いつから行動をするか。もう夕方。時間的に、ゆっくりしていたら晩ご飯の時間にもなる。

  「お風呂の後………………? 」

 本格的に何かをやるのは明日から。まぁ、それはそれでいい。杏が決めればそれでいい。

 ……一応、部長だし……。

 青春部の部長は誰か。杏だ。実際的に、生徒会長の佳奈がいるから成り立っているような部活だ。

 ……これからも……。

 何かをしていかないといけない。存続のために。

 ……まぁ……。

 これは今関係ない。もっともっと先の話だ。今、このタイミングで考えるような話ではない。

 ……置いといて……。

 合宿に集中しよう。青春部の部室でもない、学校内でもない。この離れた地。

 青春部のことだけを考えよう。護のことだけを考えよう。

 ……うん……。

 どれくらいなのだろうか。杏が護に選ばれる確率は。こっちから告白した。その後のアプローチはこちら次第。答えを出すのは護次第だ。

 ……護は……。

 どこまでら考えているのだろうか。もう答えは出ているのだろうか。はたまた、もう出してしまっているのだろうか。

 ……もし……。

 出した後だったならば。

 ……考えないように……。

 そんな後向きなことは考えてはいけない。邪魔になる。想いの邪魔になる。そういうの排除していかないといけない。あたりまえだ。徹底的に排除だ。少したりとも考えてはいけないのだ。そんな時間は、杏にはない。

 ……さすがに……。

 それくらいのことは、杏でも分かっている。

 時間がない。無さすぎる。

 全体的に。優位に立っている気もしない。しなければならないことはたくさんある。

 ……そろそろ……。

 終わりだ。結果を出さないといけない。誰のために? 自分のために? 護のために? 青春部の他ののために?

 全部だ。全員だ。悩む。それをどれくらいやってきただろう。

 そろそろ、解放されてもいい頃だと、杏はそう思うのだ。思ってしまうのだ。

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