到着
「ついたよー。二人とも」
どれくらい電車に乗ってただろうか。四時間? 五時間? おそらく、それくらいは揺られていたと思う。街中を走っていたから、景色を楽しめたわけではなかった。少々暇だと言えば暇な時間だった。
「ねむ……………………真弓先輩……」
「もー、ララちゃんは」
前日楽しみで寝れなかったりしたのだろうか。ララは結構すぐ寝てしまっていた。暇になった原因はここにもある。
「私も寝てしまって……、ごめんなさい…………」
「いいよ。昨日寝れなかった? 」
「少し…………」
「やっぱりそうなんだね」
かくいう真弓だって、いつもより寝れてない。楽しみだったのもあるし、どういう風に行動しようか、それを考えていた。
バレないように行動。なおかつ、護に会う。成功するか分からない。もしかしたら、何も出来ず日が過ぎていくかもしれない。護を遠くから見るだけ、そんなことになってしまうかもしれない。
「ここから歩くの? 真弓先輩……」
「そうだよ」
まだ眠そうである。ランはもう大丈夫そう。
「ほら、ララ」
「んー、眠い…………」
……双子っていいねぇ……。
というか、姉とか妹とか兄とか弟とか、そういうのが良い。一人っ子より、それはもう楽しいものだろう。自分のことを理解してくれる人がそれだけ増えるということだ。
「ランのほうがお姉ちゃんって感じだね」
微笑ましい。笑みがこぼれてくる。
「はは、お母さんのお腹から出てくるのは数分、ララのほうが早いんですけどね」
何かとお姉さんぶるところあるんですよ、と、ランが付け足す。
「そんなことないよー、むー」
眠そうに、目をこすりながら反論する。
「むー、じゃないです」
ララの口真似をしながらにっこり微笑むラン。姉妹の良い在り方だろうか。
「じゃ、行くよ? 」
目的地、さざなみまではもう少し。そこには、青春部のメンバーがいる。護がいる。
予定通りにはいかないかもしれない。いかせられるかどうか、そこは真弓次第。ララとランの二人に、自分についてきて良かったと、そう言わせられるかどうかも真弓次第。
どこまでやれるか。
時間が過ぎていく。何もせずに。といっても、誰も何もしていない。杏から何も連絡がないというのもある。
……護は……。
何してるのだろうか。
「座ったら? 」
「あ、はい」
突然の悠樹の声。佳奈がまだ部屋に戻ってきていないから、当然、声をかけられているのは薫だ。
悠樹の隣に。携帯をいじっている悠樹。そのまま声をかけたのだろう。その画面に集中しているように見えるから。
「………………あ」
「ん? 」
「な、なんでもないです」
悠樹が見ている画面、そこに護の名前があった。本文は真っ白。今から書くところなのだろう。
……ん……。
何を送ればいいのだろうか。
今から会える?
部屋行ってもいい?
あんまり思いつかない。
携帯を持っていっていれば、これは護と成美がいる部屋の前で送っているはずだった。しかし、今、悠樹がいるのは自分たちの部屋。忘れて部屋を出てしまった数十分前の自分に言ってやりたい。
持っていっていれば、おそらく、護と一緒にいれただろう。成美も一緒にいたかもしれないが。
……あーあ……。
時間を無駄にしている。切実にそう思う。こんなことで悩んでいる時間もいってしまえば無駄なのである。
悩む必要はない。他の人とは違って、自分は勝者だ。敗者ではない。
だから、悩む必要はない。自分が思う、そんな行動をすればいい。他者にへつらうことなく、堂々と。それが勝者だ。
「………………………………」
そうは思う。思っていても、これが結びつかない。行動に移せない。思うだけで終わってしまう。それが駄目だということが分かっていてもだ。
「やるしかない」
携帯を閉じる。メールは送らない。それでいい。
「何を……ですか? 」
隣に薫がいるのを忘れて声を出してしまった。
「なんでもない」
そう返しておく。自分の問題。薫には関係ない。




