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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜第三章〜悠樹√〜
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再会

「あっつい……………………」

つかの間の休憩が、花蓮に与えられる。時間は十六時まで。三十分あるかないかといったところだ。

「んもー……………………」

結構汗をかいてしまった。あまり無駄な動きをせずにあまりかかないように努力していたのだが、それは意味のないものになった。

自分のロッカーから鞄を取り出し、その中から自分が今着ている長襦袢と同じ柄のタオルを取り出す。

「ふぅぅ…………」

疲れた。

大学生活をおくり、ここに帰ってきた。高校生の時は毎日のように手伝いをしていたから何も気付かなかったが、久しぶりに他の人の仕事ぶりを見ていたり自分でやったりすると、違うことが見えてくる。

「外の空気空気」

……ぐだーとのんびりするのもいいけど……。

外に出たい。それくらいの休憩時間があるのだから。

休憩室から廊下へ。ぐるっと右に回ればすぐにフロントに出れる。フロントに出るだけで、外の空気がこの旅館内に流れ込んできたりする。

「懐かしいなぁ………………」

少し離れていただけなのに。昔はずっとここにいたのに。懐かしいと感じてしまう。この感覚をずっと感じていたいと思ってしまう。

足を外に向ける。風を浴びたい。この身体に。

「やっぱり気持ちいい」

自動扉を開けた途端、ビュウと潮風が起きた。強め。帰ってきたという感覚がさらに強くなる。

「すぅぅぅ…………………………」

その潮風を身体いっぱいにすいこむ。

「はぁぁ…………」

そして、吐き出す。

……懐かしい……。

何もかもが、だ。大学生活で忘れていた感覚が戻ってくる。

「戻りたくなくなるじゃんか……」

仕事を手伝うのは大変だけど、達成感がある。大学生活では絶対に感じられないものだ。今のところは。

「んんっっ…………ふぁぁ……」

大きく伸びをする。太陽は夕方になろうともまだまだ元気である。

「ちょっとは休みなさいよ。ほんとに」

暑いのはあまり好きではない。春、夏より、秋、冬が好き。一番好きなシーズンはもちろん冬である。旅館の仕事の手伝いだって、夏より冬がいい。汗をたくさんかくのが嫌。いってしまえばそれだけのことだ。

……夏終わらないかな……。

夏がくるたびにそう思ってしまう。まだ始まったばかりだというのに。年々暑くなってきているし、花蓮の楽しみだって減っていく。

「ほら、いくぞっ!! 」

「うん。お兄ちゃん! 」

花蓮の左右を兄妹と思われる二人が通り抜けていく。

「元気だねぇ……」

元気すぎる。その二人の汗はとても輝いてみえた。楽しんでいる。この時間を。この場所で。それが伝わってくる。

「楽しむ、か…………」

それは大切なことだろう。学校生活においても、この手伝いにおいても。

楽しくない。決して、そういうことではない。それの強さが、ベクトルが違うだけ。ただそれだけのことだけれど、その些細な違いが意識の差を生み出す。

「まぁ、そうだよねぇ」

……頑張りますか……。

弱音は吐いてはいけない。

「戻ろ」

休憩時間はまだ少しあるけれど、戻っておこう。

……うん……。

気持ちを入れ替えよう。集中しよう。


フロントに戻ると、外とはまた違う賑やかさが響いてる。

チェックインをする人、チェックアウトをする人。さっき走っていった兄妹も楽しそうに親と話している。

「ん……? 」

入り口から左右、それぞれにかなりの数のソファやテーブルなどが設置されている。部屋だけではなくこのフロントも休憩場所になり得る。

「あれは………………………………」

どこかで見たことのある、そんな女の子がソファに座っている。座ってるだけで自分の方が身長が低いということは分かるが、胸は自分の方が大きい。

……そんなことはどうでもよくて……。

なんか知っている。その子個人を知っているわけではない。その親か、もしくは兄妹か、そっち側と会ったことがあるような感じがする。

……どうしようか……。

声をかけてみるか、かけまいか。もし、花蓮の予感が的中すると、ここに残りの休憩時間を割くことになる。それほどその時間も残っているわけではない。

「…………えと……」

名前。その子の名前。苗字でいい。

「なんだっけ……? 」

名前を思い出せれば後でも話に行くこともできる。誰がどの部屋に泊まっているのか、ある程度なら頭の中に入っている。仕事のためだ。

少し離れた位置から見つめる。完全に不審者。気付かれてはいけない。

「思い出せない…………」

すぐそこまで来ている。しかし、あと一歩届かない。

……はぁ……。

仕方ない。思い出せなかったけど、名簿だけはもう一回見よう。知り合いであるならば挨拶は必要だ。個人的にも。




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