ゲット・チャンス #3
「ふぅ……………………」
乱れている鼓動を落ち着かせようと息を吐く。
「少しびっくりしたな」
何に? 悠樹の言葉に。
何か用事があるというわけではない。少し、あの場に居辛くなったから。
「彼女、か…………」
悠樹はそう言った。小さい音だったが、口は確実にそう動いていたし、佳奈の耳には届いた。
護の彼女。その目標。
それは悠樹だけの目標ではない。佳奈の目標でもあるし、薫の目標でもある。
「まぁ…………」
普通なら諦めてる。関わりの少なさ。看病をしてもらったことがあったが一度だけだし、一度だけ、というのは明らかに不利だ。同級生には必ず劣るし、高校生活は今年度で終わりである。
可能性がないとは思わない。思えない。ただ、それは限りなく低いものであろう。自分でそう思っている。
「笑えるな……」
自分でハードルを低くしている。佳奈は気付いた。
可能性が低いから、自分が選ばれなかったとしても仕方ない。そういう考えになってしまう。逃げ道がある。作ってしまっていた。無意識に。
「駄目だなぁ。私は……」
変わってきている。自分でも分かる。護に対しての自分。これまでの自分。これからの自分。
フロントの方に足を運ぶ。人が旅館に訪れるたび、風が流れる。
自分達と同じように学生同士でこの旅館を使用してる人達。浮き輪を持って外に駆け出していく小さな小学生。顔に喜色が溢れている。賑わっている。
「ふぅ……」
入り口近くのソファに身体をおろす。
「どうしたものか……」
自分のことも、護のことも、この合宿のことも。
考えることが多すぎる。そういう風に追い込んでいるのは自分だとも言える。後回しにしてきた。自業自得。
「まぁ、でも……、それは護も同じなんだよな……」
結果の先延ばし。それが招いたものはなんなのだろうか。護自身はきちんと把握しているだろう。答えを出そうとしているだろう。
一学期も終わり、夏休みになった。合宿も始まった。
「そろそろか……」
完璧なタイミングだ。どちら側においても。
自分に何ができるか。何をすればいいか。自分から行動すべきか。
準備の時間がなかった。していなかった。なら、従うしかない。そこで答えを見つける。答えを出す。そうするしかない。
「戻ろう」
自分の問題は、やはり自分でしか解決できない。今回においてなんて特にそうである。
全ては自分次第である。




