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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
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お泊り会 第二弾 #2

 スーパーで最初に足を運んだのは計画通り、焼きそばの麺が売っている場所。そこで、俺たちは思いもよらなかった人物に出会った。


 「ゆう姉ちゃん?」


 その俺たちの背後から呼びかけられた声は悠樹先輩の声と、とても似ていたがその声のトーンは高かった。


 「しぃ? どうしてここに?」

 「それはこっちのセリフだよぅ」


 しぃと呼ばれた娘の隣にはもう一人いた。


 「ゆう姉。どうして朝、帰ってこなかったの?」


 その声はさっきのしぃという娘と同じように悠樹先輩と似ていたがこの娘は、悠樹先輩の喋り方に冷徹さを足したような感じだ。


 「ひぃまで…………」

 「その隣にいるのは?」


 ひぃと呼ばれた娘の視線は俺に向いた。その視線には、「あなたは誰です?」という冷たい感情が孕んでるようだった。

 その目線に少しばかり怯んだ間に、悠樹先輩が答えていた。


 「この人は護。同じ部活のメンバー」

 「あなたが護さんですか……………」

 「うん。そうだけど……」

 「ゆう姉から話は聞いてます」

 「悠樹先輩から? 話を?」


 一体どんな話をしているのだろうか。


 「しぃ。ひぃ。それは言わない約束」

 「ゆう姉ちゃんがそう言うなら言わないけど……」

 「先輩。この二人は?」


 ある程度、この二人の事は予想が出来たが確認のためだ。


 「二人は私の妹でこっちが氷雨で、その隣にいるのが時雨」


 それぞれが会釈をしてくれる。氷雨ちゃんが声のトーンが低いほう。時雨ちゃんが高いほう。名が体を成している感じだった。


 「それじゃ、私たちはもう行くから」

 「うん。分かった」


 二人は俺の横を通り、レジのほうへ向かった。


 時雨ちゃんはきちんと礼をしていってくれたが、氷雨ちゃんは素通り。初対面でいきなり嫌われたのだろうか。


 「ひぃの事は気にしなくていい。大体みんなにあんな態度をとるから」

 「そうだったんですか。嫌われたかと思いましたよ」

 「それは無いから安心して」

 「はい」

 「私たちも早く買って帰ろ?」

 「そうですね」



 家に帰ると、すぐに料理へと取り掛かった。もうすでに、時計の針は十二時半を差していた。早く作った方がいいだろう。俺の腹はとっくに限界をむかえているし、悠樹先輩だって同じなはずだ。


 「分担はどうします?」

 「私が切ったりするから護はそれを炒めてくれればいい」

 「分かりました」


 悠樹先輩は、早速野菜を取り出し切り始めたので、俺は時間短縮のために食器を並べることにした。


 「いた……………………っ!」


 食器を並べ終わったとき、キッチンの悠樹先輩のいるところから小さな悲鳴が聞こえた。


 「先輩! 大丈夫ですか!?」

 「だ、大丈夫…………」


 悠樹先輩はそう言うが、指を切ったらしく少し血が流れていた。


 「血が出てるじゃないですか!?」

 「少しだから、大丈夫……」

 「絆創膏持ってきますんで待っていてください」

 「ま、護!」

 「何ですか」

 「これくらいの傷、気にしなくていい」

 「そんなわけにはいきません」


 俺はできる限り早く走り階段を駆け上り、自分の部屋にある救急箱から絆創膏を取り出し、悠樹先輩の元へと戻った。


 「そんなに急がなくても良かったのに」

 「心配だったんですから。あ、手を出してください。俺が巻きますんで」


 俺は先輩の手を取り、その指に絆創膏を巻く。


 「ん。ありがと」

 「いえ。気にしないでください」


 それからは悠樹先輩が指を切ることもなく、無事に完成した。



 二人が作った焼きそば(主に悠樹先輩が野菜を切り俺がそれを炒め、最後に麺と野菜を炒める作業は悠樹先輩がやってくれた)は中々のできばえだった。

できることなら、羚にも食べさせてやりたかったと思える程だった。


 「おいしかった」

 「そうですね」

 「これから護はどうする? 部屋に戻って勉強する?」

 「そうですね。それも良いとは思うんですけど……」

 「何か案があるの?」

 「はい。昨日、葵の家に行く途中に、それなりの規模の商店街があったじゃないですか」

 「そこに行くの?」

 「気分転換には良いかなと思いまして」

 「ん、分かった。護に任せる」

 「ありがとうごさいます」



 俺と悠樹先輩は、昨日にも来ていた御崎駅に降り立った。


 「暑いですね」

 「うん」


 まだ五月の初旬だというのに、俺たちに照りつけられている光は夏ではないかと思えるほどに暑かった。


 朝に天気予報を見た時に、今日は気温が上がるみたいなことを天気予報士が言っていたが、ここまで暑くなっていると、夏が前倒しして来たのかと思う。


 「ちょっとだけ、あそこのファミレスに入ろ?」

 「はい。分かりました」


 悠樹先輩は、俺と違って暑いというのをあまり表情には出してはいなかったが、悠樹先輩も流石に暑いと感じているはずだ。


 今でこんなに暑ければ七月、八月になればどんだけ暑くなるのだろうか。考えるだけで嫌になる。


 「いらっしゃいませ」


 入ったファミレスで聞き慣れた声を聞いた。


 「心愛か?」

 「護…………? それに悠樹先輩まで」


 こんな場所で会うなんて思ってなかった。


 「どうした? こんなところで」

 「バイトしてるのよ。と言っても今日からなんだけどね」


 心愛の用事というのは、このバイトの事だったのだろう。ファミレスの制服を着ている心愛は、見慣れている学校の制服や、昨日着ていたような私服とはまた違って、別の可愛らしさがあった。


 「髪留め、変えたのか?」

 「うん。このバイトの時だけだけどね」


 心愛の髪留めはいつも付けていたピンク色をした花の髪留めではなく、白のレースのリボンであった。ここの白を基調とした服に合わしているのだろう。


 「席は、一番奥が空いてるからそこに座っといて。後でオーダー取りに行くから」

 「了解。じゃ、行きましょうか先輩」

 「うん」


 心愛に指定された席に着く。


 店内を見渡して見ると人は沢山いた。


 まぁ、客の中には、俺たちの様に外の日差しに負けてこのファミレスに入ってきた者もいるかもしれない。大半がそういう可能性もあるのだが……。


 「お待たせ。メニューもう決めた?」

 「ちょっと待って。先輩はどうしますか」


 席に座ってからずっとメニューを眺めていた悠樹先輩は。


 「アイスコーヒー」

 「じゃ、俺もそれに」

 「わかった。それじゃ、すぐに持ってくるから」


 心愛は、オーダーを取るとすぐに戻っていってしまった。


 少しくらい話そうと思っていたのだが、やはり忙しいのだろう。仕事途中だし、あまり私情を挟んで話すのは良くないのかもしれない。


 この店内にいる限り、心愛と話す事は出来ないだろう。悠樹先輩は、その心愛の後ろ姿をずっと見ていた。


 「悠樹先輩? どうしました?」

 「護はあの制服どう思う?」

 「可愛いとは思いますよ」

 「そう」


 悠樹先輩はここの店でバイトでもするつもりなのだろうか。


 「私にあの服似合うと思う?」

 「似合うと思いますよ」

 

 悠樹先輩は心愛とそんなに身長は変わらないし、どちらかというと先輩にはそういう白色の服の方が似合うと、俺は踏んでいる。


 「そう」


 悠樹先輩は顔を赤らめている。


 そんなにこの店内は暑くないし、それでないとするならば、自分でここの制服を着ているところを想像して恥ずかしがっているのだろうか。


 俺自身、悠樹先輩がここの制服を着た姿を見てみたいものだし、いずれそう言ってみてもいいかもしれない。


 「護。お待たせ。悠樹先輩もお待たせしました」

 「サンキュー」



 オーダーを取って数分後、心愛は戻ってきた。


 「心愛は何時までシフト入ってる?」

 「三時までだけど、どうして?」

 「これからこの辺を悠樹先輩とぶらぶらするんだけど、心愛もどうかなって思って」


 心愛は少しの間悩んだ様な素振りを見せ。


 「うーん。ちょっとやめとく。ゴメンね」

 「そっか……」

 「また今度誘って」

 「うん。了解」


 心愛はそれだけを言うと、カウンターの奥へと行ってしまった。


 最後は笑顔で戻っていったものの、内心は「あたしも行きたい」と思っていたのかもしれない。


 「護、もう行こ?」


 悠樹先輩は、心愛と俺が喋っていた間にアイスコーヒーを飲み終えたらしい。


 俺は慌てて、まだ半分以上残っているコーヒーを飲み干す。


 「あ、はい。分かりました」


 先に席を立った悠樹先輩の横に並ぶように、歩幅を合わせる。


 悠樹先輩の身長を正しく知っているわけではないが、おそらく三十cmくらいの差があるのかもしれない。


 さっきも歩いている時にも思ったが、気を付けておかないとかなりの差が空いてしまう。


 「会計は三百五十円になります」

 「はい」


 肩から掛けている鞄の中から財布を取り出し小銭を取ろうとすると、悠樹先輩がその上から背伸びをして抑え込むようにして俺の手を抑えてくる。


 「ここは俺が払いますから」

 「護、お金ないってさっき言ってた」

 「そうですけど…………。ここは俺が」


 またいつもの様に引き下がらないのかと思ったが、今回は下がってくれた。


 おそらく背伸びをしてる分、大変だったのだろう。


 「ありがとうございました」


 定員の挨拶を背に、俺たち二人は店を後にした。



 それからしばらくの間、どこかの店に留まるわけでもなく、本当にうろうろとしているだけだった。


 悠樹先輩が一年だった頃の話を聞いたり、あの先生はテストであんな問題をだしてくるから、そこに注意しておけばいいとか、ためになる話も聞けた。


 気が付くと、さっきのファミレスの近くへと戻ってきてしまっていた。


 「護。あそこの店、見てきてもいい?」


 そう先輩が指差したのは、そのファミレスの隣にあったアクセサリーといったような雑貨物や小物が売っているような店だった。


 「えぇ。良いですよ」


 飛ぶように行ってしまった悠樹先輩を追いかけるように、俺も店に入る。


 悠樹先輩は、目をキラキラと輝かせながらアクセサリーなどを見ている。悠樹先輩のテンションがここまで上がっているのを見るのは始めてだった。


 そういう先輩も良いな、と俺は思えた。


 なにやら楽しそうな悠樹先輩の後ろ姿を横目に見ながら、他の部活のメンバーに合いそうな物を探す。


 まだ先輩達の誕生日は知らないが、いろいろとお世話になっているからプレゼントを送るのが普通だろう。


 服の袖が引っ張られる。


 「どうしました?」

 「これ、似合う?」


 そう言い、悠樹先輩は白い花の髪留めを自分の髪につけて見せてくれる。


 系統としては心愛がいつも付けているようなものと同じ物だろう。あまりそういう物に関しては疎いので良く分からないが…………。


 「はい。とても似合ってます!」


 やはり、先輩には白い色のものがよく似合う。


 「ありがと。なら、買う」

 「値段どれくらいですか? 俺が出しますよ」

 「良いの?」

 「はい。いつもお世話になってますし」

 「ありがと」

 


 今、買ったばかりの髪留めをつけて楽しそうに笑っている悠樹先輩を見ていると、お金が無い状況での出費は痛かったが、そんなことはどうでも良くなってくる。


 先輩が嬉しそうにしてると、俺も晴れやかな気分になってくる。


 「どうしたの? 護?」


 悠樹先輩は俺の横へと並び、上目遣いでこちらを見上げてくる。


 悠樹先輩のその笑顔には、恐ろしいほどの破壊力があった。俺はその笑顔にドキッとさせられてしまう。


 「先輩がそんなに嬉しそうにしていると自分が選んだわけではないですけど、なんか良かったなぁって」

 「そう」


 御崎駅の前にそびえ立っている大きな時計台を見る。


 時刻はとっくに五時を過ぎており、もう六時に差しかかろうとしている。


 「そろそろ戻りますか」

 「そうだね」



 家へ着いた頃にはもう外は暗くなっていて、先輩と一緒に歩いていると、いつも見ているはずの星空も綺麗に見えた。


 俺の部屋に入りしばらく母さんの帰りを待っていたのだが、いっこうに帰ってくる気配がない。


 帰ってからすぐにメールを母さんにへと出したのだがその返信もない。


 「メール、まだ帰ってこない?」

 「はい。そうですね」


 そう言った途端、携帯が鳴った。画面に映し出されている名前は母さんだった。


 「すいません」


 先輩に断りをいれてから電話に出る。


 「もしもし、護? 母さんだけど今日ちょっと帰れそうにないのよ」

 「なんだって?」

 「急に仕事が入って……」

 「それじゃ、晩御飯はどうするんだよ…………」

 「隣の薫ちゃんにでも作ってもらえればいいんじゃない?」

 「薫の家も用事でいないんだよ」

 「なら、自分で作ったらいいんじゃない? 護だって料理出来ないわけではないでしょ」

 「それはそうだけど……」


 さてこれはどうしたものか…………。


 「護の母さん、帰ってこれないって?」


 悠樹先輩はこっちの顔を心配そうに見上げてくる。


 「はい…………。。晩御飯をどうにかしないといけません」

 「それなら、私の家に来ればいい」

 「本当ですか?」

 「うん」

 「ありがとうございます!!」


 この時、悠樹先輩が天使のように見えた。



 悠樹先輩を先頭にして家へと向かう。


 俺の家からも見えるあのマンションだということらしいのだが……。


 そのマンションの下に着いた時俺は悠樹先輩に尋ねた。


 「このマンション。何階まであるんですか?」

 「五十階」


 自分の部屋からこのマンションを眺めても、周りにあるビルなどの建物より幾分飛び抜けて見えていたから、そのくらいはあるのかもしれないと思っていたが、実際こうやって下から見上げるとそのあまりの高さに驚かされる。


 「入ろう?」

 「あ、はい」


 そのロビーの壁には、何枚かの絵が飾られていたり花が生けられていたりして、その事だけでも豪華さがうかがえる。


 「こんばんは」

 「こんばんは」

 「はい。どうも。こんばんは」


 管理人室から顔を出していたおばちゃんに挨拶を交わし、エレベーターへと乗り込む。


 「先輩の家は何回なんですか?」

 「三十五階」

 「結構高いんですね。 これエレベーターとか故障したら大変じゃないですか」

 「大変だと思う。でも、まだ故障した事はないって話」

 「そうなんですか……」


 エレベーターのランプが、三十五階に着いたと教えてくれる。


 その廊下は幅も広く、一階のロビーと同じように花が生けられていた。


 一体家賃とかはどうなのだろうかとか思いながら、案内してくれる悠樹先輩の後ろをついていった。

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