さざなみ #2
「ほんとに、しばらくはのんびりしてていいからねぇ」
さざなみの三階、三一三の部屋の前で一度止まる。他の人達は、もう部屋の中に入っていることだろう。
「はい」
杏先輩がそう言うのであれば、ゆっくり休憩することにしたほうがいいだろう。この後に何が待っているのか、それが分からないからこそ、今はのんびりきままに部屋でのんびりしたほうがいいと思う。
「それじゃ、また後で。心愛も咲夜さんも」
部屋は成美と一緒。二人部屋。避けたかったことではあるが、成美がじゃんけんに勝ったのだから仕方がなかった。
まぁ、決める前に成美が言っていた通り、俺以外の皆が女の子のわけだから、二人部屋になろうと三人部屋になろうと、どっちに転んでも女の子と同じ部屋になるということになる。
でも、二人部屋か三人部屋か。その一人の差は、大きかった。気の持ちようが違う。色々と違う。
「じゃ、入ろっか」
ガチャ、と部屋の鍵が開けられる音がする。どうやらオートロックらしいので、鍵を中に忘れてしまったら外から開けることは出来ない。ということは、他の人が中に入るためには、俺か成美が鍵を中から開けなければならない。
他の人の邪魔が、ほぼ入らないということだ。
本当に、そこだけの空間が出来上がる。本当に。
そのことについて特に困ることはないだろうが……。
……ふぅ……。
ドアノブを手前に引く前に。心の中で一息つく。
……緊張するなぁ……。
何に?
これからの三泊四日に。
護と同じ部屋ということに。
部屋割りの話を聞いてから、護と同じ部屋になれれば、と望んでいた。二人部屋が一番いいけれど、三人部屋でもいいと。気持ち的には三人の方が楽。
嬉しい誤算というべきだろうか。護と二人部屋になれた。自分のじゃんけんの強さに、運の強さに感謝せざるを得ない。
手を引く。片方の空いた手で、護の手も引く。
……おっと……。
扉を開ければすぐに部屋が見れるかと思ったが、目の前には襖が。
「靴はこの棚の中にいれておきましょうか」
「そだね」
大きめの荷物も自分の前に置き、ローファーを脱ぐ。真ん中にリボンがついている、可愛らしいローファーだ。結構お気に入り。
……さぁ……。
ちょっと肩透かしをくらった気分だけれど、これからだ。これから。
「頑張ろう」
護に気付かへないように、そう呟いた。
「あ………………………………」
凄い。その言葉しか出てこない。成美のほうをちらっと見てみると、成美も同じように窓の外に視線が動いている。
「きれい……だね。護」
「はい」
海。漣の町。海がメイン。これほどまでのものだとは思っていなかった。
荷物を適当なところに置いて、窓の先へ。
「海……」
窓の向こうに蒼い海が広がっている。一面が海だ。水平線まで見えるほどだ。ここからでもその光り輝く蒼さが確認できる。
この景色。他の皆の部屋からでも見れるのだろうか。見れないところもあるだろう。こういったものが見えれば一段と雰囲気もよくなるが、廊下を挟んで左右に部屋があるので、この部屋の反対側は見れなかったりするのだろう。
「いいものだねぇ」
「見ているだけで落ち着くというか、ここまでの疲れが飛んでいきますね」
この部屋に戻ってくるだけで、この感覚がくる。
部屋の一番隅っこにさっき入口のところに置いた荷物を移動させる。あそこに置いておくのは邪魔だ。
「落ち着くねぇ……………………」
ドサっと、壁をつたうようにして、成美がペタッと座り込む。
和室の部屋。畳の数をかぞえてみると、二十畳くらいはあるのだろうか。どう考えても広さは二人部屋ではない。三人でも四人でもいける。でも、部屋の真ん中に黒色の机が置いてあるのだが、置いてある脚のない椅子は左右に一つずつで、二人部屋なんだなぁと思わされる。
「立ってないでさ、護も座ろうよ」
トントン、と成美が合図する。もちろん、私の隣にってことなのだろう。
成美と同じように座り込み、足を伸ばす。車の中で何時間も座っていたから、結構身体が固くなっている。
身体もんーっと前に伸ばす。ほぐしておかないと。
「んん…………っ!! 本当にいいねー、この部屋は」
体育座りをしてた成美だったが、俺に倣うような形に。同じ行動を繰り返す。
「和室和室」
ツンっと畳をつつく成美。成美の家に行ったことがないからどういった構造になっているかは分からないが、基本的にフローリングの洋室ばかりなのだろう。俺の家だって、薫の家だってそうだ。悠樹の家もだし、葵の家の、勉強会で最初に寄った部屋が和室だったくらい。
「こういう部屋にはさ、当然だけど旅行とかしないとこれないから堪能したくなるよね」
「分かります」
俺の家も広いとよく言われるが、またそれとは違う。広ければ良いってものでもないし。
「ふぁぁぁぁ………………んなぁ」
ごろん、と成美が体制を崩す。仰向けに。成美の、悠樹ほどではないが白い肌が映り込んでくる。ふむ。少々危険である。




