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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜第二章〜悠樹√〜
243/384

共有の必要性 #2

今はない。

葵から返事が返ってきた。

ない。ない、ということは今に満足をしているということだ。これまでに満足しているということだ。

でも、裏を返せば。これから先、満足のいっているこの状況が続くとは分からない。そう考えているともとれる。

……そう……。

その通り。先のことなんて分かったりはしない。

……勝者の余裕……?

悠樹は思う。これから先も護の隣にいたいと。自分はずっといれる存在だと。何故なら、もう勝ったから。試合に、恋の戦争に。

……うん……。

勝ったからこそ、他の人とは違う。優先順位がこれから変わってくる。

……いや……。

どうなのだろうか。案外、そうとは言い切れないだろう。護は、これまで、そういう風にして自分たちと接してはきていない。むしろ、そういうのをしてこなかった、したことがないとも取れる。これまでの、青春部に入ってからの護を見ているだけで、そう思ってしまう。

優先順位が変わらないということは、護が悠樹だけに固執しないということだ。他の子に流れてしまうということだ。

護は優しい。気もきくし、話も聞いてくれる。これ以上のものはない。そう思える。

だからこそ、だ。だからこそ、今に満足することなく、先を見ていかなくてはならない。それは、自分だけではない。葵だって一緒だ。それくらいのことは、葵だって分かってるはずである。


ちらちらと、交互に視線を動かしている悠樹。俺の隣で、前の方と自分の携帯の画面を。

「悠樹…………………? 」

「何? 」

「何、してるんです? 」

「メール」

端的に答えが返ってくる。メールをしている。それは分かっている。

前の方に視線を送っているということは、麻依さんとかとメールをしているということではないだろう。俺達より前にいる誰か、とやっているのだろう。

どっちが先にメールを出したのかそれは分からないが、何か急ぐことでもあったのだろうか。

「誰とメールを? 」

「内緒」

内緒といっても、何かを隠している、という感じの内緒ではない。後から分かるというか、なんというか。そういうのではないのだ。

「護」

囁くように、距離をつめて、悠樹が俺の名前を呼ぶ。車に乗り込んだ時から近かった物理的な距離が、もっと近付いた。

悠樹の声が耳朶を刺激する。こそばゆい感覚がくる。

「まもるー」

いつものクールな凛とした感じではない、少し甘えた感じの声。めったに聞くことはできない。






「うー………………………………」

なんとなく甘えてみる。この後ろの席は、自分と護だけが座っている。他の人はいない。だが、声を出し過ぎると気付かれる。

「悠樹? 」

「何もない」

ただ近くに、護を感じたい。いつものことだけれど。

護がすぐそこにいる。数センチ。肩と肩を完全に密着させることも可能だ。

……したいなぁ……。

でも、やめておく。今は。後で出来る。今は二人きりではない。車の中だ。誰かが後ろを振り返ったりすると、すぐに見つかってしまう。

「そろそろ海、見えるよ」

アナウンス的な感じで、佳奈がこちらの方を見て教えてくれる。くっついていたら危なかった。

海。そう海。

漣町の左側一帯が海に面している。

御崎市を出発し、漣町の一番上端に。そして、左側に。海が見えてくるということは、もうすぐ目的の場所に到着だ。

「……………………あ」

見えた。見えてきた。海が。自分のいる側の窓から、蒼い綺麗な、太陽の光に照らされて輝いている海が見える。

「わぁ……、綺麗……」

歓声が上がる。自分みたいな適当な感動ではない。この景色を見て、その言葉通りのことを思っている。悠樹は、その言葉すら出てこなかった。

……ん……。

思わなかったから、出てこなかった。それだけのことなのだ。

「あの海に入りたいですよね? 悠樹」

「ん」

いつも通りに声を返しておく。


「もうすぐか………………………………」

咲夜の向こう側、そこに海が広がる。

運転をしている咲夜も、自分の右側にあるものを見たいと思っているのか、チラチラと視線が動いている。

……予定通りか……。

腕時計で時間を確認しつつ、携帯を開ける。宿泊先への連絡。漣町には一度も行ったことがないが、泊まる場所は自分の知り合いが経営をしている。杏も言っていた。本当は貸切が良かったけれど、時期的にそれは無理だったと。

知り合いが、といっても、それだけで関わりがほとんどなかった。家族としての付き合いではなく、部活動の一環として、青春部での付き合いで、関わることとなる。

「…………よし」

後三十分ほどだ。

もう少し。どういったものが待っているのだろうか。全ては自分次第だ。自分達次第なのだろう。







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