夏だ!海だ!合宿だ! #3
……はぁ……。
「杏は……、何を考えているの……? 」
「どういうこと……? 」
唐突な質問だ。意味が理解できない。
「杏は、この旅行に……何を求めてる………………? 」
「え……………………? 」
「護と一緒にいたいだけ…………? 」
「それは皆同じじゃない? 」
「ん……………………」
……びっくりしたぁ……。
突然過ぎた。本当に。心に刺さった。それはもう。
護と一緒にいたい。間違いない。間違いないこと。でも、それだけじゃダメなのだろう。少なくとも、悠樹はそう思っている。そう伝わってくる。
「杏……? 」
「何? 」
「なんでもない」
「そう」
こっちを見るのをやめ、視線をまっすぐ先に向ける悠樹。悠樹の見る視線の先、まだ他の人は来ていないはそこから来る。
「もうそろそろかな……」
もう十分前。
出発の時間も近づいてきてる。
「あっちぃ……………………」
学校に行くだけで体力が奪われる。春だとこの辺りは桜満開で心が癒されるわけだけど、夏だとそんなことは全くなく、木々からは蝉の姿をたくさん確認できる。うるさい、蝉が。
「走る? 」
「? 」
隣を一緒に歩いていた薫が、俺の背中をポンッと叩きながら言う。暑いのに走るのか。そんなに走りたいのか。
「結構揃ってるみたいだしね」
薫は指をさす。
「だな」
杏先輩がこっちに向かって手を振っているのが見える。その隣に悠樹。成美と渚先輩も、心愛も葵も来ている。
「走ろ? ね」
「へいへい」
薫が先に前へ出る。仕方ない。追いかけようか。
「おはよーっ。護、薫」
一歩前へ出て、杏先輩が挨拶をしてくれる。
「おはようございます」
「おはようです」
「佳奈と咲夜さんがまだ来てないみたいですね? 」
「だね」
咲夜さんも一緒に来ることになっている。保護者的位置。まぁ、一番の理由は、咲夜さんも参加したいって言ったからだと、俺は佳奈から聞いた。
「車で来るって。二人は」
すぐに携帯を確認したらしい杏先輩は、俺らに言うように連絡してくれる。
咲夜さんを含めると十人。咲夜さんが俺達を送ってくれるとも聞いている。十人も乗れる車となるとワゴン車かな。まぁ、咲夜さんが運転するとなると、スピードの出し過ぎで何か起こったりしないか、そこが不安だったりするけれど。
「あ、来たみたいだね」
車のエンジン音がかすかに聞こえてくる……と思ったら、すぐにその音は大きくなり、咲夜さんが運転しているクルマが結構なスピードでこちらに向かってきているのが確認できた。咲夜さんも、いつも通りである。
「もう、咲夜は………………………」
いつも通りのスピード。警察に見つかってしまえば、一発でアウトである。
「すいません。用意が………」
咲夜の運転するワゴン車。その助手席にいる佳奈。もちろん、スピードメーターが目に入ってくる。気にしないことにしておこう。
……まぁ、間に合うか……。
もう五分前。遅れては意味がない。こういうイベントに遅れるわけにはいかない。楽しみなのだから。
「楽しみだな」
「えぇ、佳奈様」
咲夜が漣町まで送ってくれると申し出て来た時はもちろんそれに乗ったわけだが、一緒に参加したいと、その旨を聞いた時はびっくりした。
「なぁ、咲夜……? 」
「はい? 」
「咲夜は、どうして参加しようと思ったんだ? 」
「絶対楽しいじゃないですか、合宿」
……その通りだ……。
間違いない。
「杏と一緒だぞ? その考え方は」
「そうかもしれませんね」
クスッと笑みを浮かべる咲夜。杏と似ている。いや、似てきたのだろうか。なんか違う気もする。分からない。
「皆と一緒に何かをする。とてもいいことだと思います。私も、そこに混ざりたいのです」
「そうか」
「はい」
……経験です……。
一夏の思い出。そういったもの。
……なかった……。
あったといえばあったのだろうが、思い出せない。遠い過去だからではない。
あまり外には出たくない。夏だし、なおさら。でも、この皆でなら、青春部の皆でなら、楽しむことが出来る。楽しませてくれる。そう思える。
「で、何でそんな準備に時間かかっていたんだ? 」
「秘密です」
遅れたのは自分のせい。準備に手間取ってしまったから。思いの外、自分が楽しみにしていることを知ってしまったから。あれもこれしたいと思っていると、あっという間に時間が経ってしまっていた。あまり寝ていない。
……小学生みたいです……。
でも、裏を返せば、それだけ楽しみだということ。もうすぐ始まる。
「ギリギリに着きそうか? 」
「はい。そうなります。スピード、上げましょうか? 」
「やめてくれ。これまでに前の車を何回抜かしている……」
もうすでに急いでいる。それは間違いない。ただ、時期も時期だ。夏休みだし、当然、車が走っている数だって多い。
「皆を乗せた後にこの距離はやめてくれよ……………………」
「分かっております。そんなことはしません」
「それならいいんだが…………」
隣で、佳奈がはぁぁ、とため息をこぼす。心配はしているものの、慣れているから必要以上にはしてない感じだ。
「そろそろです」
この角を曲がれば、集合場所まで一直線。まっすくだ。




