お泊り会 第二弾 #1
高坂先輩が俺の横で同じ様に電車を待っているのを見た時は、驚いた。
ここに来た時、佳奈先輩、杏先輩と一緒にいたから、てっきり、家の方面は佳奈先輩たちと一緒だと思っていたのだ。どうやら違うかったらしい。
「高坂先輩も家、こっちなんですか?」
「うん。後、悠樹でいい」
「分かりました。それにしても悠樹先輩も家こっち側だったんですね。知らなかったです」
「そう? 私は護の家知ってる」
「何でですか?」
「毎朝、護の家の前を通るから」
ということは、悠樹先輩の家は俺の家。そして薫の家と近いということになる。
「護は、今日暇?」
「暇といえば暇ですけど……」
「じゃ、護の家。行っていい?」
「まぁ、別に大丈夫です。けど、何するんですか…………?」
「勉強。私が教える」
また勉強するんですか。まぁ、テスト前だから仕方ないのかもしれない。
「分かりました。一応、親に連絡しておきます」
俺はポケットから携帯を取り出し、母さんにメールを打ちつつ、電車が来るのを待った。丁度打ち終わった頃に、電車はやって来た。
俺の家へと近付いて来た時、俺はおもむろに口を開いた。
「家が近いってことですけど、悠樹先輩の家はどこにあるんですか?」
「あそこ」
悠樹先輩が指差したのは、俺の家からも良く見えていたマンションだった。
「そんな近いところだったんですか」
「うん」
「ん?」
腕に何かが落ちてきたと思い、目線を上に向けると雨が少し降ってきていた。
「すぐそこですから急ぎましょうか」
俺と悠樹先輩は、早足で家へと向かった。
そうこうしているうちに、雨はだんだん勢いを増していた。俺はおもむろに悠樹先輩の手を掴み、急いで自分の家へと駆け込んだ。
「はぁはぁ。凄い雨ですね」
「護。手」
そう言われ、まだ自分が悠樹先輩の手を握っていたことに気付いた。
「す、すいません…………」
「別に、いい」
悠樹先輩は雨に濡れ、服が少し透けて見えていた。
俺は慌てて、悠樹先輩から目を逸らす。
「タオル持ってきますから、少しの間待っていてください」
急ぎ足で俺は洗面所へと向かい、タオルを取り出して玄関へと戻った。
悠樹先輩の姿をあまり見ないようにして、タオルを渡す。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
「服の替えとか持ってきてますか?」
「持ってない」
そりゃ、持ってないですよね……。
「じゃ、服貸しますから部屋に行きましょう」
「私はこのままでも良い」
それだけは止めてください。
俺がもたないです。
「駄目です。風邪引きますから」
俺がそう言うと悠樹先輩は納得したようで、
「分かった」
服を貸すと言ったものの、今この家には俺しかいないのである。
それについては、さっき気付いた。断じて、それを狙っていたわけではない。
母さんの服を勝手に拝借するわけにもいかない。それ以前に、俺は母さんの服がどこにあるか知らない。
「悠樹先輩。俺の服しかないですけど…………、良いですか」
「私は、構わない」
「分かりました」
そう言ってクローゼットを開けたものの、俺と悠樹先輩とは数十センチの身長差があるため、どの服を着てもぶかぶかになってしまう。
俺は適当に見繕って、悠樹先輩に渡す。
ズボンはどうしようかとも思ったが、ここは仕方ないし俺のズボンじゃ合わないというか履けないだろう。
まぁ、俺の予想ではTシャツだけでも膝上くらいまでは隠れてくれるだろう。
そうしてくれないと、俺が大変なことになる。
「護。後ろ向いて」
「す、すいません……………… 」
悠樹先輩が着替えている音が聞こえる。
濡れた服のままでいられると、風邪を引いてしまったりするから服を貸したわけだが、一体どんな格好になるのだろうと思う。
以前に、羚が彼女が出来たら、一度は自分の服を着せてみたいなことを言っていた気がするが、これはそういうことなのだろうか。
ん? 羚…………?
成り行き的な感じで家へと呼んでしまったが、羚との約束があったことを思い出した。
まぁ、悠樹先輩なら羚が居ても気にしないような気もするし、悠樹先輩が羚の勉強を見てくれるのであれば、俺は凄い楽である。
「護。濡れた服どうすればいい?」
「洗濯して帰るころには返します。 あっ、洗濯機の場所教えますね」
「いい」
「いいって…………」
「護に付いて行くから」
「分かりました」
俺は、後ろから悠樹先輩の視線を感じつつ、洗面所へ向かうため階段を下りる。
洗濯機に服を入れてスイッチを押す。
「いつ頃、返せる?」
「まぁ、そこまで時間はかからないと思います」
「そう」
部屋に戻り、カーテンを開けて外の様子を確認する。
さっきより雨がきつくなっており、当分止むような雰囲気ではない。
天気予報を見ていたかぎりでは雨が降る予想は無かったのだが。
「雨、止みませんね…………」
悠樹先輩は頷く。
前から少し思っていたが、悠樹先輩とは会話が長続きしない。
一番最初に部室で会ったときも、ずっと何かを編んでいたような気がする。
「そういえば、一番最初会ったとき何を編んでいたんですか?」
「秘密」
この答えも最初の時と一緒である。
そんなに秘密にしておきたいものなのだろうか。
悠樹先輩は俺をじろじろと見てくる。
「な、何ですか…………?」
「何でもない」
二人の間、この部屋に時計が時間を刻む音と、雨の音だけが響く。
どうやら俺は。このような空器があまり好きではない。
悠樹先輩は、しばらくの間ぼーっとしたいたが、鞄からふでばこやらノートやらを取り出し勉強を始めた。
まあ、勉強をするためにこうやって二人でいるわけであるが、昨日の勉強会の時は、こんなに静かでは無かった。
それはそれで普通なのかもしれない。
俺も悠樹先輩を見習い、勉強をしようと雨で濡れた鞄からノートを取り出す。
良かった。ノートを始め、鞄の中身は無事だったようだ。
シャープペンシルを手に取り問題文に目を通そうとした時、携帯が鳴った。
画面を見ると羚からであった。
見る前からそんな感じはしていたが。
「出ていい」
「すいません……」
一応、勉強の邪魔にならないように部屋を出る。
「どうした。羚」
「どうしたじゃないだろう。昨日何で出なかったんだよ」
そう言われ朝、羚からの着信があったことを思い出す。
「悪い。 昨日は出れなくてさ」
「何回かけたと思ってんだよ」
「悪かったって」
「それで、勉強会どうだったんだよ。何か良いことあったか?」
羚の声のトーンが一段階上がる。
「良いことって何だよ。そんなもの無いよ」
まぁ、あの二つの出来事を、良いことと言ってしまえばそうなるのかもしれないが……。
「その話は後で聞くとして、今からお前の家行くけど、大丈夫か?」
「大丈夫かって、まだ雨降ってるだろう。こんな状況できたらずぶ濡れになるぞ」
「雨か? それならいまは止んでるぞ」
「本当か…………? 」
一度部屋に戻り窓の外を見てみる。
羚の言うとおり雨は止んでおり、その雲の隙間からは光が見えていた。
「じゃ、今から来るんだよな? どれくらいでこっちに着きそうだ?」
「多分、十分くらいじゃないか」
「分かった。じゃ、ちゃんと勉強する物は持って来いよ。悠樹先輩もいるから勉強を教えてもらうチャンスだし」
これで俺は羚との電話を終わらせるつもりだったので、
「ん……? 悠樹先輩…………? あぁ、高坂先輩のことか? 何でお前の家にいるんだよ」
おっと、失言である。
電話で話すと長くなりそうだし、家に羚が来てから話せば良いと思ったので、俺は無言で静かに電話を切った。
後で羚には怒られそうな気はしたけど、まぁ、いいか………………。
羚が来る前に、悠樹先輩に説明しておく必要があるだろう。
「悠樹先輩。 今から一人友達がくるんですけど……、大丈夫ですか?」
「護の、友達?」
悠樹先輩は何故か、護、の部分を強調する。
「はい。 羚って言うんですけど。うるさいやつですけど……」
「構わない。 勉強を教えられるのなら、そっちの方がいい」
「ありがとうございます」
悠樹先輩が優しい先輩で良かった。
まぁ、青春部の皆なら、羚みたいなうるさいやつが居ても大丈夫だと思う。
その点に関してはいづれ、羚を青春部に誘ってみても良いかなと思うところだ。
前の時みたいに、断られる可能性もあるわけだが……。
家のチャイムが鳴る。
時間を見るかぎり、本当に十分くらいしかかかっていない。
どんなけ急いで来たんだか。
それは俺に怒って急いだのか、悠樹先輩が見たくて急いで来たのか、それはどうかは分からないけど。
「どうやら来たようですね」
「迎えにいく」
「先輩は待っていてください」
「いや、行く」
悠樹先輩は頑なに羚を迎えに行こうとする。
悠樹先輩は、たまに頑固なところなある。
それはそれで悠樹先輩の良さであるのだけれども……。
チャイムがもう一度鳴る。早く出てやらないと羚もかわいそうだ。
「分かりました。それなら行きますか」
「うん」
「悪い。待たせた」
「どうして、途中で電話切ったんだ」
「な、なんとなく…………」
羚は、俺の隣にいた悠樹先輩に気づいたようで、
「高坂先輩ですか?」
「そう」
羚はいきなり俺の首ねっこを掴み、
「どうして高坂先輩はあんな格好してるんだ………………!?」
「どうしてって、雨に濡れたから」
羚のテンションが、これまでにないというくらい上がっている。
「それでも、妹の服とか親の服とかあるだろ」
「なんか先輩に親の服を来せるのはなんか嫌だろ。後、俺妹いないし」
「そうなのか? てっきりいると思ってたんだが…………」
「何でだ?」
「だって、お前。女の子の扱い方が上手いし」
なんだその女の子の扱い方って。
たまに、羚の話にはついていけなくなることがある。
「護? 何をしているの?」
「い、いえ。なんでもないですよ。ほら早く行きましょう」
俺が答える間もなく、羚が答えてしまった。
羚は、俺と悠樹先輩の背中を押しつつ、家の中へと入って行こうとする。
「なんで羚が仕切ってるんだ……」
「いいから、いいから」
そして俺の部屋に。
羚は、俺の部屋に入るとすぐにそわそわとし始め、見ているこっちが落ち着かない。
「羚」
悠樹先輩は羚を呼んだ。
どうやら、悠樹先輩には人のことを下の名前で呼ぶくせがあるらしい。
まぁ、それは羚とってはいいことなのかもしれないが。
「は、はい!」
それみろ。案の定声が裏返っている。
なんとも分かりやすいやつである。
「羚って呼んでいい?」
悠樹先輩は確認をとった。
俺の時は確認なんてことはしなかったのだが、部活の仲間だから、特別視でもされていたのだろうか。
「ぜひ、そう呼んでください!」
羚にとって、女の子に下の名前で呼ばれるのはとても喜ばしいことだろう。
「じゃ、羚はどこが分からないの?」
「?」
「勉強」
そう悠樹先輩に言われて、羚は、ようやくここに来た意味を思い出したようで。
「え、えっと。ここなんですけど……」
羚はゴソゴソと鞄の中をあさりノートを取り出し、悠樹先輩に見せた。
俺は、そんな二人をしばらく見ていた。
羚は悠樹先輩の教え方が上手いのか、楽しそうに問題を解いている。
悠樹先輩は、いつも通りの無表情ではあったものの、嬉しそうに見えた。
「護?」
俺はぼーっとしていたらしく、悠樹先輩が目の前にまで迫ってくるまで、全くといいほど気づかなかった。
「護」
俺は、驚きと恥ずかしさとで後ずさってしまった。
「すいません…………」
「気にしなくていい」
「何か用でしたか? 」
「そういうわけではない。ただ…………」
「ただ?」
「護がぼーっとしていたから、少し心配しただけ」
どうやら悠樹先輩は、俺の体のことを心配してくれたらしい。俺からしてみれば、そう言いながらも頬を少しばかり赤らめている悠樹先輩のほうが心配で気になる。
「心配してくれてありがとうございます。俺は大丈夫ですよ。俺にとったら、先輩の方が心配です。顔も少し赤いですし」
「そんなことはない」
そんなことはないと言われても…………。
「雨に濡れて風邪でも引きました?」
俺は、確認しようと悠樹先輩のおでこへと手を伸ばしたのだが。
「いい」
悠樹先輩は俺の手首を掴み、触らせまいとする。
しかしさっきまでにも増して赤くなっているように思える。
「しかし……」
「いい」
悠樹先輩は頑なに拒否を続ける。
そんな間に羚が割りはいるようにして、
「お二人さん。勉強しましょうよ」
珍しく真面目な事を言った。
「悪い。悠樹先輩もすいません。無理矢理…………」
「別に構わない」
そう言う悠樹先輩の頬の赤らみは無くなっているように思えて、ホッとした。
気を取り直して勉強再開。
しばらくの間は昨日の勉強会のように静寂に包まれ、時々羚が、「分からねぇ」 と叫び、それに対して俺もしくは悠樹先輩が教えるというのが続いた。
その静寂を打ち破ったのは、一つのバイブ音だった。
鞄の奥の方から鳴っているらしく、その音は耳を立てていてようやく聞こえる、といったような微音だった。
「悪い。多分俺だわ」
羚はそう言って、鞄の中から携帯を取り出し部屋の外へと出て行った。
「誰からでしょうね」
「親からだと思う」
「どうしてですか?」
「羚、一瞬だけど嫌な顔をした」
俺にはそんな風には見えなかったが、悠樹先輩にはそういう風に見えていたのだろう。
「そういうのって分かるものなんですか?」
「分かる。護も人の事を気にかけて、表情をよく見ていれば分かるようになる」
話を終え勉強を始めてから数十分、今度は羚が誰が見ても分かるほどに嫌な顔をして部屋に戻ってきた。
「どうした?」
羚は歯切れが悪そうに。
「母さんからの電話でさ、実家に行くから帰って来いってさ……」
「今からなのか?」
「そういうことになるな。悪いな」
「いいよ。お前だってこの時間は有意義なものだっただろう?」
「そうだな」
羚は悠樹先輩に目をやり。
「高坂先輩もすいません」
「気にしなくていい」
「はい。それじゃ失礼します。護もまた火曜日」
「おう」
羚は挨拶をし、物寂しいそうに部屋を後にした。
「またしても二人になりましたね」
そんなことは気にせず、勉強を再開すれば良かったのかもしれない。だけど、何故か俺は、悠樹先輩に声をかけたいという衝動にかられた。
「うん」
やはり、悠樹先輩とは会話が続かない。
しかし、俺は喋りかけている。
「悠樹先輩は手芸以外に趣味は無いんですか?」
「無い、というわけではない」
良かった。これでもしかしたら共通点が見つかるかもしれない。
「それは何なんですか?」
俺は少し食い気味に聞き返した。
「読書。護は本当読む?」
「本ですか? 読むには読むんですけど…………」
「あまり読まない?」
「そうですね……」
俺はなんとしても悠樹先輩との会話を長引かせるため、自分の趣味や得意分野を思い出してみる。
得意とはいえないのかもしれないが、ハンドボールが俺の趣味であり得意分野なのかもしれない。
小さい頃からよく薫と一緒にいたため、自然と薫とやることが一緒になり今に至るのだ。
「悠樹先輩はスポーツとか得意ですか?」
「得意ではない。特に球技は」
その時俺は.さぞ嫌な顔をしていたのだろう。だから悠樹先輩は付け加えるように、言葉を続けた。
「走るのなら得意」
悠樹先輩はそう言ってくれたものの、球技が駄目だということは当然、ハンドボールも苦手だということになる。
「苦手なんですか?」
「うん。そういう護はどうなの?」
「先輩が苦手だといった球技ですね。ハンドボールが好きだったりします」
「そう……」
悠樹先輩は、心底残念そうな顔をした。
俺はそんな悠樹先輩を見るのが嫌だった。
「…………、なら教えますよ。ハンドボール」
そう言った時の悠樹先輩の表情は、いつもの無表情ではなく、とても喜んでいるように見えたし、雰囲気からもそう伝わってきた。
「護が、教えてくれるの?」
「ええ。一応はそのつもりですよ。薫にもてつだってはもらう予定ですが」
「薫も?」
「はい。昔のころから一緒にしていましたし、薫の方が上手いですからね」
「なら、テスト終わってから教えてもらっていい?」
「はい。いいですよ」
これで良かった。しばらくの間、悠樹先輩との会話で困ることは無いだろう。
俺の顔には、そういう安堵の表情が表れていたのだろう。
「護。うれしそうな顔してる」
「そうですか?」
「うん。 私にはそう見える」
「多分それは、こうやって悠樹先輩と話すことが出来たからだと思います」
「私と? でも、前から喋ってる」
「それはそうですけど、こんなにしゃべることは無かったじゃないですか」
「そうだった?」
悠樹先輩の口調が少しばかり変わったような気がした。
ん……? 何故俺はそう思ったのだろうか?
そう考え始めた俺の思考は悠樹先輩によって止められた。
「護。もう昼」
悠樹先輩が指差す方を見て、
「本当ですね」
「昼、どうする?」
「そうですね。俺が作っても良いんですけど…………」
「護は料理できるの?」
「少しだけですけどね」
「そう。護が料理できるなんて、知らなかった」
「まぁ、珍しいですからね。男で料理できるっていうのは」
「うん。今から作る?」
「そうですね」
キッチンへと向かい冷蔵庫を開けた時、その中身が少ないことに気付いた。
買い物に行こうとも考えたが、お金がない状態であったため、憚られた。
「あまり材料が無いですけど……。どうしますか?」
俺は冷蔵庫を開けたまま、自分の横からひょっこりと顔を出している悠樹先輩に尋ねた。
「野菜と肉が少しあるから、それで作ればいい」
「でも…………」
「護がそういうならそれでもいいけど、私はなんでも良い」
「悠樹先輩がそう思うのなら良いですけど……」
「護」
「なんですか?」
「護は今、お金が無いからそう言ってる?」
「はい……」
悠樹先輩の言っていることは的を射ていた。
「それなら心配しなくていい。私が出す」
「そんなこと、しないでください。申し訳ないです」
「そう思わなくていい。私がそうしたいと言ってる」
こういう時の悠樹先輩は、絶対におりようとしない。
その場合は俺がおりるべきだろう。
「分かりました……。それなら時間ですし今から行きましょうか」
「分かった。でも着替えさせてくれる? この格好では外に出たくない」
悠樹先輩は、自分の身にまとっている服を見ながら恥ずかしそうに言う。
悠樹先輩が言うことはもっともだろう。
たとえ俺が女子だったとしても、今の悠樹先輩の姿で外に出るのは恥ずかしい。
ましてスーパーなどと、人目に付きやすい場所なら尚更だ。
「分かりました。なら、今から取って来ますんで、部屋で待っていてもらえますか?」
「ん」
階段の下で悠樹先輩は階段を上り俺の部屋へ。俺はその先にある洗面所に向かった。
俺は、洗濯機の中から脱水の終えた悠樹先輩の服を取り出して、急ぎ足で部屋へと戻る。
部屋に戻ると丁度、悠樹先輩が、机の上に置きっぱなしになっていた教科書の類を直しているところだった。よく見ると、俺の分まで綺麗に並べられていた。
「すいません。俺の分まで片付けてもらって」
「気にしなくていい」
悠樹先輩は手に持っていたノートを鞄にしまうと。
「服、乾いてる?」
「はい。大丈夫です」
俺は悠樹先輩に服を手渡す。
「じゃ、一回部屋から出てほしい。 着替える終わったら呼ぶから」
「分かりました」
数分後、扉の向こうから声がかかった。
「護。もう大丈夫」
「分かりました。じゃ、行きましょうか」
「うん」
スーパーに行く道の途中、話を始めたのは俺からではなく悠樹先輩からだった。
「何を作るか、決めた?」
「えーっと、焼きそばで良いかなって思ってます。野菜と肉がありましたし、麺を買えば作れますから」
「分かった」
俺は会話を終わらせまいとして話を振った。
「先輩…………。晩御飯も食べていきますか?」
「良いの……?」
「はい。お世話になっていますし、そのお礼です」
「ありがとう」
それから俺たちは、スーパーに着くまで他愛もない話をしていた。
前まではそんな話は出来なかっただろうし、悠樹先輩との距離が近くなったと解釈してもいいのだろうか。
道行く男子高校生数人に、羨ましそうな視線を向けられたが、俺達をカップルか何かと勘違いでもしているのだろうか。
まぁ、これから買い物に行くわけだから、カップルなんてものを通り越して夫婦みたいだなと、俺は少し思った。
悠樹先輩も同じことを思っているのだろうか、とそんな事を考えながら、スーパーの中へと足を踏み入れたのだった。