夏だ!海だ!合宿だ! #1
暑い。眠い。朝から疲れるような天気と気分。時計を見てみても、まだ六時。目覚ましをセットしたのが六時半。後三十分ある。だけど、一度起きてしまったから寝れそうにはない。というか、ここでもう一回寝てしまうと、次起きるのがもっと辛くなる。
ベッドから出、着替えを。早く起きたんだから、行動も早目に。
「護ーーっ!! 」
ノックもなく、突然扉が開かれる。
「っと……、あぶねっ」
降ろそうとしてスボンにかけた手を止める。いや、まぁ、相手は姉ちゃんなんだけど。
「なんだ。もう起きてたの」
「今起きたとこ」
「つまんない。お姉ちゃんが起こそうとしたのに」
何をされるか分かったもんじゃない。危険を察知して、身体が勝手に起きた。うん。そういうことにしておこう。
「今日からだっけ? 旅行」
姉ちゃんがいるから着替えられない。
「あぁ」
旅行。そう。旅行。もちろん、青春部での旅行。当然のことながら、杏発案である。
「漣町に行くんだっけ? 」
「だな。まぁ、めっちゃ範囲広いけど」
漣町。御崎市の端、海に面してる部分をそう呼ぶ。町という言葉が不釣り合いなほどに広いし、かなり活気もある。夏になると、観光客がすごいらしい。そこに行くわけだ。八月に入ったらそれがもっと増すらしい。今、八月。八月一日。入ったところ。
「四日の夜に帰ってくるんだよね? 」
昨日も言ったのに、姉ちゃんはめっちゃ確認してくる。そんなものなのか。まぁ、結構な時間家にいないわけだし、姉ちゃんの気持ちも分からなくはない。
「10時とかそれくらいだと思う」
どこに泊まる、とか、そういうのはさすがに考えたらしいけど、何をするかとかは全くといっていいほど考えてないらしい。さすが杏さん。行き当たりばったり。その方が楽しいこともあるんだけど。
「分かった。お姉ちゃんは起きて待ってるね」
そんなに遅い時間ではないけど、母さんは仕事でいないだろうし、出迎えてくれる。そういう意味だろう。
「朝ご飯作るから、はやくおりてきてよ? 」
「分かった、分かった」
もうすでに母さんは仕事に行っているのか。姉ちゃんが作るということは。
そう言うと、姉ちゃんはすぐに部屋から出ていってしまった。
いつもの姉ちゃんといえば姉ちゃんなんだけど、なんか違和感。気のせいかな。
「こんなことしてる場合じゃないな」
早起きしたんだから、早くご飯を食べて、荷物のチェックも念入りにしておこう。現地で気付いたりしたら手遅れになってしまう。
「旅行かぁ…………」
はやめに準備を済ませて、薫は待つ。護を。家の前で。暑いけれど、それほど苦にはならない。時計は八時をさそうとしている。これから、どんどん気温も上がっていくことだろう。待ち合わせの時間は八時半。後三十分。でも、護のことだからはやめに来る。
「何をしようかな…………」
旅行。何回も行ったことある。だけど、毎回、御崎市の外に出ていた。広い広い御崎市の外に。その中で旅行するというのは、今回が初めてだ。
「楽しみなのは楽しみ」
だって、護がいる。青春部の皆がいる。皆で行く、旅行。それだけで楽しみなのだ。
ガチャ、と扉が開かれる音がする。
「あ、護! 」
「おはよ。薫」
ちょっとだけ、眠たそうにしている。少し小さめのキャリーケースを引きずりながら、護がこちらに手を振る。
「眠い? 」
「いや? 」
……あれ……?
「六時に起きたし」
「そうなの? 」
自分とだいたい同じ時間。自分も眠くはないから護も同じ。そういうことにしておこう。自分の勘違いだと。
「もう行くか? 」
「だねー」
まだ早い。二人ともはやく集まったから、待ち合わせの時間ですらまだ先だ。当然、集合時間もまだまだ。
でも、先に行こう。先に行って、皆を待つことにしよう。
「みんなまだかなー」
八時。まだ、八時。杏は、すでに到着していた。集合場所の学校に。ここが集まりやすい。
木陰による。日にあたる場所で後三十分待ち続けるというのは、護がくるといっても、少し不毛なものであろう。
「護と合宿かぁ」
青春部の皆、とだけど。そういうのは気にしない。結局のところ、目当てはそこなのだ。そこは、誰も変わらない。一緒なはずなのだ。むしろ、一緒だ。一緒じゃないと困る。
空を見上げる。雲ひとつない、綺麗な青空だ。暑い。太陽がジリジリと。
「んー……………………」
合宿だ。どこまでやろうか。どこまでやれるのだろうか。自分は、どこまでしたいと思っているのだろうか。
……護と……。
難しいところだ。前から考えているけれど、答えなんてでない。
「ふぅ………………」
集合場所までもうすぐ。佳奈は、泊まる先に連絡を終えた。杏が考えたことを、佳奈が、出来るだけそれを実現出来るように動く。いつもの二人。
「漣町には初めて行くことになるのか」
初めて行く場所だから何も知らない。携帯やパソコンの検索履歴に漣町というワードが増えた。あっちでの行程なども考えてある。それはもちろん皆に伝えてはいない。杏がそうしてほしいといったから。
……最後だもんな……。
最後。高校生最後の夏。護と一緒にいられる最後の夏。
「私は………………」
自分から何もしていない。杏が動いている。それを支えているだけ。
自分から。これが少ないのだ。
自覚している。自覚しないといけない。分かっている。
三泊四日。
長い時間だ。部室で会ったりして一緒にいる時間はたくさんあった。でも、旅行はそれの比ではない。寝食を共にするのだ。
思うことは、皆同じだ。それを行動に移せるか。そこが問題になるのだ。




