友達の想い
「来てしまった……………………」
もうすぐ5時。夏だから、日が沈むのは遅い。まだ暑いし、夜になっても暑いままだと思うと、気が滅入ってしまう。
「何してんだか………………」
心愛はため息をつく。バイトを終え、気がつけばここまで来ていた。
護の家。のすぐそこまで来ていた。もうすぐ、着く。護と会える。
「まぁ……………………」
そうとも限らない。どこかに出かけていて、まだ帰ってきてないかもしれない。
「悠樹先輩の誕生日」
今日は、そういう日。心愛は当日に祝ってもらえなかった。また、そんなことを思ってしまう。自分の行動力の無さに嫌気がさしてしまう。
「はぁ………………」
いろんな意味でため息が漏れる。自分の気持ちもそうだし、色々と。
「あっついなー、もぅ………………」
冷房の効いていた電車から降りると、すぐ暑苦しい風が吹いてきた。温度差が激しかった。
暑かったから、バイトもあったから、上は白色の、そんなに柄が入ってないTシャツ。下は、かなり短めのパンツだ。バイトの時は上から制服着るし、そのため。
「着替えるべきだった…………………………」
本当は、来るつもりなんてなかった。でも、来たくなってしまった。護に会いたくなってしまった。
「数時間前、教室で話してたけどねぇ……」
心愛の口から笑いが漏れる。
「心愛……? どうしたの。こんなところで」
「え…………? 」
突然の声。薫がそこにいた。驚いた顔で、こっちを見ている。
「薫こそなんで………………って、お隣さんだから不思議じゃないね」
「そりゃそうよ」
心愛を見た瞬間、少し切なそうにしていた薫だったが、心愛の言葉で笑った薫。一瞬にして雰囲気が変わった。
「で、どーしたの? 」
「なんとなく来たくなって」
護に会いたくなって。そう言わなくても、薫には伝わる。
「護家にいるけど、部屋、上がるの? 」
「いや……………………」
否定。そこまでしにきたわけではない。なんとなく、顔が見たかっただけ。それだけ。
「じゃぁさ、ちょっと歩こうよ? 二人で」
「今から!? 」
「そそ、気分転換にね」
……気分転換……。
「なるほどね……………………」
何かが分かってしまった。あんまり、知りたくはないことだけれど。
薫の家から見て、護の家は左。薫が歩いた方向は、逆だ。
「ふぅん………………」
「さっきからどうしたの?心愛。何か意味深」
苦笑しながら、薫が目を合わせてくる。
「何もないわ」
薫は分かっている。分かっていて、聞いたんだ。
質問を仕返そう。
「薫の方こそ、何かあった? 」
「どーなんだろ………………」
歯切れの悪い薫。もちろん、そんながはあまり見ない。付き合いが浅いのもあるかもしれないが。
「ねぇ、心愛」
「何? 」
「例えばの話だよ……………………? 」
「なんなのよ」
なかなか話を切り出そうとしない。薫の口は開かず、足だけが動いていく。心愛もそれについていく。ついていくだけだ。
「護が…………」
「護がどうかしたの? 」
「………………………………っ! 」
何か迷っている。そんな風に取れる。
……いや……。
迷っているのだろうか。言ってしまえばどうなるか。もしかしたら、怖いのかもしれない。
「今話す必要のあること? 」
心愛は待つ。薫が自分の意思で話してくれるまで。
「じゃないなら、薫が言いたい時でいいんじゃない? 」
護のことで苦しんでる。それだけは分かる。
「………………ん」
心愛は薫を見上げる。十五センチの身長差。俯いてる薫の顔を、心愛は普通に見ることができる。
……どうしようかなぁ……。
この薫の雰囲気。ある程度の推測は可能か。
自分は何なのか。友達だ。薫の友達。護の友達。青春部のみんなと友達。
友達が多いことにこしたことはない。だけど、それだけなのだ。友達。幼馴染とかではない。友達だから、それより上の存在がいたら、友達は後回しにされる。そういうものなのだ。
……んー……。
だからこそ、心愛は、その先を願っていた。護との関係性を向上させるために。
友達。
もうすでに、友達以上の関係にはなっているかもしれない。だって、告白もしたし。でも、それは皆一緒なのだ。
夏休み。予定はある。もちろん、護との予定だ。でも、二人きりではない。雪菜がそこにいる。咲夜がいる。いってしまえば、邪魔が入るわけだ。
二人きりの空間ではないのだから。
薫は、まだ足を前に動かし続けている。散歩は、まだまだ終わらないみたいだ