表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜第一章〜悠樹√〜
235/384

幼馴染の想い

「あれ………………? 」

護が部屋に戻ってこない。薫は首をかしげる。

部活を終えてはやめに家に帰った薫は、何もすることがなかったから、護が家に帰ってくるのを待っていた。

で、ようやく、護は帰ってきた。もう夕方。

「んっ…………ふぅ……」

伸びをする。何時間か窓にもたれたままだったから。身体をほぐす。

護は部屋に戻ってこない。カーテンがしまったままであるし、部屋の電気も付いていない。帰ってくるのを確認していたわけだから、すぐに部屋にきてくれると思っていた。

「沙耶さんと何か話してるのかな」

沙耶は護のこととなると何でも知りたがる。姉だからか。それ以上の感情があるのか。

「私も護と話したいことあるんだけどなぁ……」

ちょっと嫉妬。嫉妬というわけではないかもしれないけれど。これを嫉妬としてしまえば、沙耶に対して四六時中そんな感情を抱いていることになってしまう。

「うーん……………………」

夏休み。今日から夏休み。

アドバンテージ。それはこの前の七夕パーティーの時に再確認している。隣に住んでいる。幼馴染。それは、本当に大きなアドバンテージ。他に人には絶対にないもの。

護と話したいことがたくさんある。最近、話せていないから。話せていないといっても、一言も、とかではない。薫の基準で、薫と護の基準で、話せていない。そういうこと。

……だって……。

幼稚園の頃、小学校の頃。二人はずっと一緒にいた。家族同士の付き合いが良すぎたから、尚更だ。

そういった関係は、当然のように変化していくわけだ。いつまでも同じであるわけがない。

……分かっている……。

うん。大丈夫。分かってる。うん。大丈夫。

でも、いつもの関係がよかった。まぁ、自分から変えてしまったのだけれど。

告白はした。した。したいからした。護と付き合いたい。護の彼女になりたいから、告白した。だけど、普通のところはいつも通り、それが良かった。

……無茶だよ……。

自分から関係を壊しにいきながら、普段を願う。それは、ただの自己中。

「はぁ…………………。まもるぅ……」

……護……。

護。護。護。護。

自分の身体を抱きながら、護の名を。護を想う。想い続ける。

「あ………………」

部屋の電気が。護が部屋に戻ってきた。

あわてて体裁を整える。ビシッと。いつも通りの自分を作る。いや、作るわけではない。元に戻す。ただ、それだけのこと。

「まもるぅぅっっ!! 」

大声で、家の前の道には人が何人か歩いている。聞かれるだろう。でも、気にしない。ただ、護を。護のことだけを考える。

「まもるぅぅぅぅ!! 」

二回呼ぶ。ただ、護の名前を呼びたいだけ。


心の中では何回も。声に出すのはたった二回。それで問題ない。護は気付いてくれる。気付いてくれないわけがない。だって、護だから。

「どーしたんだー? 」

ガラガラと窓を開け、いつも通りに護が声を返してくれる。少し、疲れているような気が見てとれる。

「夏休みだねー。護」

「だなー」

二人の間に、夏の風、生ぬるい風が吹く。

「青春部の皆で何か出来るといいね」

「杏先輩のことだしな」

護の予定は他にある。咲夜を含め心愛と雪菜との料理会。そこに、薫は参加しない。

「楽しみだね。今年の夏休みも」

「薫は毎年そう言ってる」

「そう? 」

「で、毎年楽しい夏休みになる」

「ふふ」

毎年、夏休みは護と過ごしていた。二人で遊ぶことが多かった。そのことについて、誰も何も言わない。二人で旅行に出かけたとしても、親は何も言わない。二人の仲の良さを、どちらの両親も知っているからだ。

「今年もさ、ふたりでどっかいこうよ」

提案。去年と同じ提案。

「別に構わないぞ」

「ほんと? 」

「おぅよ」

「二人きりでどこに行く? 」

いつもと同じ展開。何も変わらない関係。

「あ……でも」

「ん? 何? 」

「時間あるか? 」

……時間……?

「あるんじゃない? 」

二人の時間は特別だ。誰にも邪魔されない。二人のための時間。護と薫だけの時間。

「二人だけの時間を合わせればいいんだからさ、問題ないよ? 」

「そうかなぁ……」

問題ない。全く。護の予定がない日。すなわち、薫も暇な日。だから、問題ない。護のことは知っている。把握している。だから、問題ない。

「もうずっと、一緒にいるよな。俺ら」

「幼馴染だからね」


……幼馴染……。

幼馴染。薫は幼馴染。幼馴染だから仲もかなり良いし、互いのことを知っている。こういう時は何を考えているだけとか、そんなことまで分かる。

それは、幼馴染だから。

幼馴染。幼馴染といえば、雪ちゃんだって。雪ちゃんだって、幼馴染。薫より付き合いはかなり浅いわけだけど、幼馴染。

俺にとって、薫の存在は大切なものだった。女の子の友達というか、友人というか、そういう類のものの数は多かった。同年代の男子と比べて多かっただろう。それくらいのことは自覚している。

でも、付き合いが深かったのは、薫。そして、咲。二人だけ。そこに加えて、雪ちゃん。親友と呼べるのはこの三人。

たった三人だった。

自分で言うのもなんだが、人に頼られることが多かった。それは間違いないことだ。

でも、それだけだったのかもしれない。使いやすい。頼みを聞いてもらえるから頼る。ただ、それだけ。

「ねぇ、護? 」

「なんだ? 」

お互いに窓から少し身体を乗り出しての会話、結構距離は近い。そして、心の距離はもっと近い。

「夏休み、私と一緒に何がしたい? 」

「そうだなぁ……………………」

何がしたい?

かなり、直接的な質問だ。こういう風に聞かれたのは、今回が初めてかもしれない。だって、わざわざ決めなくても勝手に身体が動いていた。

何故か。基本軸が薫に当てられていたからだ。

何をするのにも、薫を基準に考えていた。そんなことが多くあった。

薫が何かしているから、俺もする。薫がハンドボールをしていたから、俺もした。

「旅行とか、する? 」

「二人でか? 」

少し驚く。

毎年、旅行は行っている。でも、二人きりではない。当然のことだ。家族同士で行ったから。二人でどこかブラブラとでかける、なんてことはたくさんあったけど。

「二人は嫌? 護」

「そういうわけじゃねぇよ」

語気が荒くなってしまった。

二人きり。二人だけ。何もかも、二人で決める。どこに行くのかも、どうやって行くのかも、どこのホテルに泊まるのかも、部屋をどうするのかとか、もろもろ。全て、二人。

「杏先輩のことだからさ、どこか旅行に行こ?、とか言いだすかもしれないし、もし、そうなって、こっちはこっちで旅行に行くことになったら出費がちょっとな…………」

もう高校生。一年生だけど、そろそろ自立していかないといけない。互いに貯金とかはしてるわけで、まぁ、出費がそこまでキツイ、というわけではないが、二回、二回も一夏ひ旅行に行く、そうなると、やっぱり、大変。貯金が尽きるということも考えられる。

「んー…………」

「いつもみたいな夏休み。それでいいと俺は思う。十分楽しいわけだし」


……いつもみたいな……。

いつもと同じ。何も悪いことではない。むしろ、護は変わってほしくない。ずっと、薫が好きな護でいてほしい。

……でも……。

でも、でも、だ。

そのままでいいのだろうか。

これまでがそうだったから、これからも、こうなってしまうのではないか。

今の関係性。昔から変わった。あたりまえだ。護を取り巻く環境が変わってしまったからだ。護を好きになる女の子が増えたからだ。

有利である。そのことに、変わりはないだろう。

「いつものままでいいのかな……………………」

「ん? 」

「ううん。なんでもない」

首を横に振る。

いつものままがいいか、変わることが必要か。それは、前から考えていたこと。今、初めて思ったわけではない。

「そろそろ戻る? 暑いし」

クーラーは効いている。しかし、こうやって、窓を開けている。護と話している。効き目が下がってきている。護が部屋に戻ってきてすぐに呼んだから、護はクーラーの電源を付けていない。暑いとより思っているのは、護のほうだ。

「おぅ」

メールでも、電話でも、決められることは決められる。少し、これまでとは変わってしまうけれど。

護といられればいい。そこは変えない。変えるつもりはない。




「……………………っ」

薫との話を終え、俺はそのままベットに倒れこむ。カーテンをしめておくことを忘れない。薫から見たら、俺の行動は不自然だったかもしれない。いや、おかしかった。

「どうしたもんかなぁ……………………」

薫との夏休み。いつもなら、何も考えることなく、他の人のことを考える必要もなく、互いの家族同士の旅行に、自分達の予定を詰め込む。それだけでよかった。

「いつものままでいいのかな、か………………………………」

薫はそう言った。聞き逃してはいない。聞き逃してはいけない言葉だ。

いつものままでいいわけがない。

「くそったれが……………………」

自分に対しての嫌悪。何も出来ない。何も変われていない。

「言わないと……………………」

悠樹とのこと。悠樹と付き合うことになったこと。

言いづらい。色んな意味で。一番言わないといけないのは、薫だろう。

一番近くにいたから。ずっと一緒にいたから。一番寄り添っていた時間が長いから。

いつでも言える。それは間違いない。だって、隣同士。幼馴染。他の青春部のみんなより言いやすい。

「はぁ………………………………」

夏休み。明日から夏休み。会う機会は減ってしまう。そんなに減る気がしないってのもあるだけど。

携帯を開く。青春部の皆の連絡先はもちろん、咲夜さんや雪ちゃん、咲、魅散さんの連絡先も入っている。

「早いうちに……………………」

皆が集まった時に言うのが手間が省ける。

「でも………………なぁ…………」

そういう風に伝えてしまってもいいものか。一人一人、順番に伝えたほうがいいんじゃないか。

……どっちが……。

どっちがいいのだろうか。直接、一対一で言う。本来、それが普通なのだろう。


「だめだなぁ。私は……………………………………」

自己嫌悪。

何がだめなのか。それすらも、危うくなってきている。

護のこととなると、周りが見えなくなる。それは薫に限ってのことではないのだろうけど。

「はぁ…………………………」

ため息。

「外行こ……」

散歩だ、散歩。気分転換。たまには必要だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ