想いの所在 #2
フライパンを手に取りガスコンロの前に。フライパンを上に乗せておき、卵を作る。
もう一回冷蔵庫に戻って卵を三つ取る。
「急いでねぇ。心愛ちゃん」
「はいっ」
……急ぎゃなきゃ……。
走るのはいけないから、少し歩くスピードを上がる。戻る手前で、小さめのボールを取っておく。
「大丈夫だ」
時間短縮のために卵は片手で、少し力を入れないといけないが、出来るようにはなった。たまに失敗してしまうけれど。
殻が中に入ってしまわないように、丁寧に。それでいて、急いでやる。そうしないといけない。
卵をといていく。近くにあった菜箸で。右左と、切るような感じだ。黄身と白身の境界が無くなるように。すばやく混ぜる。急がないと。
「このくらい……」
IHコンロ。温度調節は勝手にやってくれる。ここのバイトでこれを初めて使った時は、びっくりした。家にはないから。使い方が全く分からなかった。元々料理をしないというのもあるけれど。
スイッチを入れる。
「あ、バターだ………………」
忘れ物。もう一度冷蔵庫に戻る。
手際が悪い。自分でやっていて思う。
……護なら……。
護なら、こんなことにはならないだろう。もっと俊敏に、手際良く動くに決まってる。
もちろん、護には、リーダー気質がある。護が引っ張る、というのもあるけれど、こちら側がついていきやすい。それの方が大きい。
少しのバターを熱する。これも勝手にやってくれる。かなり楽。火の調節をしなくていいのだから。
「たまご……」
さっき溶き終えた卵をフライパンに投入。面にまんべんなくなるように。
どれくらいで次の行程に移るのか。時間は決まってない。店長が言っていたのだ。適当にやればいい、と。
感覚。感覚でやる。それでいいらしい。変なとこで真面目で変なとこで抜けている。そんな店長。
少し火が通ってきたら、端から中央に向けて真っ直ぐ菜箸を動かす。フライパンの周りを1周するように。
「心愛ちゃん。ライス置いとくね」
「あ、ありがとうございます」
出すのを忘れていた。卵を作るのに集中していた。
店長が持ってきたくれたケチャップライスの上に、作った卵を滑らすように乗せていく。
これで完成だ。




