ふたりきり #4
……護……。
護から聞いてきた。隠し事を教えてほしい、と。
それは、何を意味してるのか。護から行動に出ている。そのことを意味している。護が仕掛けてきたともいえる。さっきの逆。
「知りたい………………? 」
「……知り……たいです…………」
護の目線は、まっすぐ悠樹を捉える。その目は真剣だ。好奇心からは聞いていない。それに、そこが好奇心があるというのなら、こんな表情はしない。もっと前から聞いてきているはずなのだ。
「…………………………」
「教えては…………もらえないのですか……? 」
「そういうわけでは……ない…………」
教えたくないというわけではない。だって、この先にいかないと、これ以上の関係にはならない。こんな大事なこと、隠してはいられない。どうせ、いつかはバレるもの。彼氏彼女の関係になれば、絶対にバレるだろう。
なら、その時まで待てばいいのではないか。そういう考えもある。だけど、そうではない。バレるということは、必然的に、こちら側は隠していたということになる。
やっぱり、それじゃ駄目。伝えるのは、じぶんのくちからでないと。自分が、心を決めて伝えないといけない。
だけど、怖い。頑張ろうと、そう思っても、恐怖心が先行する。
「悠樹が誕生日を嫌う理由。それと、しぃと氷雨。三人だけで暮らしている理由。その二つは、関係しているんじゃないんですか? 」
「間違ってない………………」
正しい。護の言ってることは合ってる。正解だ。関係があるからこそ、誕生日が嫌いで、三人暮らしをしているのだ。
さっきからも言っているが、親友の麻依にも伝えてないこと。
「ねぇ。護……………………? 」
……もうこれは……。
言うしかないのか。護がそれを望んでいる。護は優しい。優しさ故に、今、護はこうしているのだろう。さっきまで聞かないでいてくれたのも優しさ。今のも優しさ。二つの優しさ。
……もうこれは……。
再び、思う。護の優しさが変わっている。変わっているから、護の気持ちはこうであると判斷してもいいのだろうか。
分からない。やっぱり、分からない。
「護は私のこと………………好き…………? 」
すぐに答えは返ってこない。分かっていたこと。だから、再び。
「質問を質問で返す形になっちゃうのはゴメン……。答えられないなら……今はいい。だけど、私は護が好き。大好き。これだけは、絶対に変わらない」
B
隠しことがあると、悠樹は言った。この暮らしと誕生日が嫌いという二点も関係していると、悠樹は言った。
俺は知りたい。知っておきたい。
前までは知らなくてもいいと思っていた。悠樹が言ってくれるのを待っていようと思った。
だけど、だけど、やっぱり、それじゃだめなのだろう。
少し前、悠樹は言った。「護は、私といつまでこうしてたい? 」と。
その質問に答えることは出来なかった。あまりにも、動揺していたから。
その質問に他意があるとするなら、そこに隠されているのは一つしかない。
「もう一回。護は私のこと、好き……………………? 」
もうこれは、告白だ。何度目かの、悠樹からの告白。
俺は何故、悠樹とふたりきりだけで誕生日会をしようと思ったのだろう。皆でする。それだけで良かったはずなのだ。悠樹の誕生日嫌いを治してほしい。その思いもある。それは当たり前のこと。
だけど、俺はそのために一役を買って出た。
普通に考えれば、俺がしなくてもいいこと。俺がいちいちしようと思わなくてもいいことだ。
それなのに、それなのにも関わらず、俺は今、こうしている。悠樹の家にいる。言葉だけではない。プレゼントも買った。悠樹のことを考えて買った。喜んでもらえたから、凄く嬉しい。喜んでもらうために買ったのだから。
誕生日にプレゼント。部活の先輩へのプレゼント。それはおかしなことではない。普通のことだと言える。
でも、俺は、プレゼントの奥に、悠樹の誕生日嫌いを治す。そういうことを考えていた。考えていたから、普通ではないのだ。普通の後輩だったら、ここまでのことはしない。
それなのに、俺はしている。
何度でも言おう。俺は、悠さんのために頑張ろうとしている。それは、間違いない。
「悠樹………………」
「護は…………どうして私のためにここまでしてくれるの? 誕生日が嫌い。おかしなことだと思う。普通は放っておくはず」
俺は放っておかなかった。
「どうして私のために頑張ってくれるの? 護は優しい。それは知ってる。もちろん知ってる」
優しい。それは何度も言われた言葉。悠樹からだけではない。皆に言われる。優しすぎるとも言われる。その行動は、下心からではない。父さんの言葉もあるし、身体が無意識に動いてしまうのだ。
「けど、もうこれは優しさ以上。護の中にはもっと別の気持ちがある」
別の気持ち。そう言われれば、もうあれしかない。その言葉しか残っていない。
「私は護のことが好き。護は私のこと好き? 」




