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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜プロローグ〜
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ふたりきり #3

また、護との予定が出来た。青春部は関係ない。自分と護と、そして時雨と氷雨。気を使うことは一切ない。逆に、時雨と氷雨が気を使ってくれるかもしれない。

これが、普通に家で遊ぶ、となればそれはとてもありがたいものだが、次は時雨と氷雨。二人なのだ。

……言っておかないと……。

ちゃんと、言っておかないといけない。ちゃんと護に勉強を見てもらって、と。

おそらく、いや、絶対に、二人はそれを是とはしないだろう。もちろん、この護に対する気持ちを二人は知っているから。今日のように、どうにかして悠樹と護を二人きりにしようと、そう画策してくるはすだ。

二人の気持ちを受け取った上で、二人を否定しないといけない。今日は二人のため、と。

二人のためは、いつか自分のためにもなる。自分にも返ってくる。

……八月か……。

七月は、まだ一週間以上残っている。互いの都合が会うのは、早くても二週間は先になるだろう。

……まだまだ……。

先の話。でも、前々から決めておかないといけない。そうじゃないと、取られてしまう。先手を取る。そのことが必要となってくる。

……でも……。

護は、どうして八月になってからにしましょう、と自分から言ってきたのだろうか。早めに宿題を片付ける。そういう話をしていたのにも関わらず、護は残りの七月よりも八月を選択した。いくら青春部で忙しくなるといえども、残りの七月の全てが潰れるわけではない。

それなのに、護は八月を選んだ。

これは、護の優しさだろうか。

八月と言っておくことによって、時雨と氷雨は必然的にある程度先にやっておかなくちゃならなくなる。宿題は、手伝ってもらってばかりではいけない。やはり、自分でやることが必要になってくる。護は、そこを見越していたのだろうか。

それとも、別の理由があったりするのだろうか。

どっちなのかは、分からない。

「もう二時回ってる」

「そうですねぇ」

食べ終えたのが一時。今は二時を十五分ほど回っている。

悠樹はまだ、護にくっついている。もちろん、落ち着くから。どれくらいの時間、こうしているのだろうか。いつまで、こうしていていいのだろうか。

クーラーもきいている。だけど、暑い。暑くて熱い。

「いつまで、こうしていて良い? 」

「え……? 」

……質問が悪かった……。

少し、悠樹は勝負に出てみる。

「質問変える。護は、私といつまでこうしていたい? 」

……強気に……。

強気に出る。今だから、出来る質問。こんなことを聞くつもりはなかったんだけど、何となく、聞きたくなった。

「そ、それは……っ!!? 」

ずるい質問だと、そういうことは分かっている。護がもっと冷静だったら、さっきみたいに「ずるいですよ」と、言われていたことだろう。

だけど、護は冷静ではない。とても動揺している。質問した側、悠樹だって、それは同じ。ずっとくっついていたことによって落ち着きを取り戻していた心臓の鼓動が、またしてもはやくなってきている。

だけど、その質問をしたことによって、護と同じように動揺していることが分かる。護と同じように顔が赤くなっているのも分かる。護と同じ。護と同じだ。

……仕掛ける……。

いや、仕掛けない? いや、仕掛けるべきなのか? 分からない。分からない。

今のこの場所、この時間、二人きり。紛れもなく、二人きりだ。何度でも、何度でも。護と悠樹を邪魔するものはいない。

……なら……。

やっぱり仕掛けるべきなんじゃなからろうか。急いではいけない。焦ってはいけない。そう思っているけれど、ここで然るべき行動に出れば、勝つことが出来るのではなかろうか。

勝つというのは、もちろん、護の彼女になれるということ。護の特別になれるということ。一番になれるということ。

それは、悠樹の願い。皆の願い。誰かが勝てば誰か負ける。それは、当たり前のことだ。

仕掛けることは出来る。簡単に。だって、自分で決意すればいいだけだから。

でも、本当にいいのだろうか。

護は、本当に悩んでいる。それは、こちら側からでも見て取れること。

悠樹には自信がある。自信がないとやっていけないから。けして、自分を過大評価しているわけではない。

今回のこれは、傍から見たら抜け駆けだ。もし、自分がそれをされた立場だったらどうだが。悔しい、悲しい、と思うはずだ。思うに決まっている。

護の目を見る。護の目を見つめる。

こんなにも、護のことが好きなのだから。護以外の人を好きになるなんて、そんなことが考えられないほどに。悠樹には、護しかいない。

落ち着くのは護の隣。時雨と氷雨がいるから一番とまでは言えないが、その二人といる時のような安心感がある。

でも、ような、というだけで、完全に一緒ではないのだ。だから、護に一つ隠していることが出てきてしまうのだ。

一つだけではない。それに付随すること全部。護に隠している。教えていない。

教えられないというわけではないのだ。護との仲の良さも普通より上だし、護を想うこの気持ちに嘘はない。

それなのに、教えてない。他の青春部の皆、それと、麻依にも言っていない。

そう。誰にも言っていないのだ。

信用してない。そういうことではない。そういうことではないのだけれど、怖いのだ。

本当のことを伝えた後、今までの関係が壊れてしまうかもしれない。秘密を言わないことによって保ってきた関係が。

そんな関係、偽物の関係かもしれない。それなのに親友だと言えるのか、そんなことを考えてしまうことがある。

それでも、言えないのだ。

……怖い……。

自分から、皆が離れていくことが。護が離れていくことが。

「ごめん。気にしなくていい…………………………」

数秒か数十秒か。本来なら護が破るべきであろう沈黙を、勇気から破る。答えの受け取りを拒否する形で。

こんな状況で答えを聞いても、それに意味があるのだろうか。ふと、そんなことを考えてしまったから。

隠し事。それを言えていない。そこが難点。その先にいかないと、どうにもならない。護と付き合うことが出来たとしても、それは何か思っていたものと違うものになってしまうかもしれない。

それでは困る。かなり、困ってしまう。

今まで積み上げてきた関係を無駄にはしたくない。この関係から一歩先の関係に進まないといけない。

……難しい……。

想いはある。気持ちはある。護が大好きだという気持ちはある。

それだけじゃ駄目だというのだろうか。それだけじゃ足りないというのだろうか。

この秘密を、どうして伝えるべきか。どうしたら伝えられるようになるのか。

……変わらなくちゃ……。

護はそのままでいい。変わる必要があるのは自分だ。自分だけでいい。

秘密を明かせないのは、自分の心が弱いからだ。それ以外、それ以上の理由はない。

だから、変わらないといけない。今より先に進むためにも。

立ち止まってはいられない。常に、まえを向いて、進んでいかないといけない。皆より、前にいかないといけない。

「本当に……気にしなくていい……。ごめん……」

もう一度、誤る。

護の目から、動揺の色は消えていない。



……先輩……。

悠樹が何を言おうとしてるのか。俺に何が求められているのか。それは、もちろん、分かってる。そこまで、俺は人の気持ちに疎いわけではない。それに、悠樹から告白をされているから、尚更だ。

悠樹が握ってくれた手。握ってくれていた手が、離れていく。手だけではない。密着していた。だから、悠樹の全部が俺から離れていく。

悠樹のその問いに、俺は何も答えられなかった。応えられなかった。

悠樹が自分から離れてしまった。自分が出した質問に答えなくてもいい、という形で。

答えられなくて良かった、と考えるべきなのだろうか。いや、違うな。答えられなくて残念だった。そう思うべきなのだろう。

……まぁ……。

でも、うーん。どうしたものか……。えっと……。あ、言葉が見つからん……。

何か、思い詰めてるような悠樹。

……何も出来ない……。

こういう時、俺は何も出来ない。何をするべきなのか分からない。何かやっても、それが相手に取っては煩わしいものになってしまうかもしれない。邪魔になってしまうかもしれない。大きなお世話かもしれない。

無言。その無言はいつものこと。しかし、無言に至るまでの過程が違う。悠樹を目線は下に向いている。俯いている。そこはかとなく、気分も落ち込んでいるようにも見える。

さっきまでの悠樹ではない。いつもの悠樹ではない雰囲気がする。悠樹の自分からした行動によって、悠樹が落ち込んでる。そういうことなのだろうか。本当に、さっきみたいな質問をするつもりはなかったということなのだろう。

「私といつまでこうしていたい? 」

同じことを言うが、何を言おうとしてるのか分かる。

この場だけ、この時間だけ、くっついていたい。そういう意味なら問題はない。しかし、そういうわけではないのだ。

「ゆ、悠樹………………? 」

「な…………に……? 」

「悠樹は……何か…………、隠してることありますよね………………? 」

聞いていいことなのか、分からない質問。おそらく、聞いてはいけない質問。だけど、もし、そこに何かがあるなら、知っておかないといけないような、そんな気がする。そんな気がして仕方がないのだ。

「………………………………ある…………」

「それが何なのか…………、教えてもらうことは……出来ますか……………………? 」

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