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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜プロローグ〜
220/384

ふたりきり #1

だけど、好きという気持ちは、大好きだという言葉は、このお礼のようにたくさん言うことはない。

本当に大好きだから言いたいけれど、その気持ちを抑える。だって、もう伝えているから。それに、何度も言ってしまうと、護が困ってしまうことになる。

護を困らせたくはない。護のことが好きだから。護と付き合えれば、付き合うことが出来たら、いくらでも好きだと気持ちを伝えることが出来る。

だから、それまで待つ。

アプローチもするけれど、待つ。行きすぎても駄目。待ちすぎていても駄目。難しいところがある。

恋をしたのが初めてだから、悠樹は迷う。どちらがいいのか。

敵はたくさんいる。仲間だけど敵。

駆け引きが大事。そのことを学んだ。どうすれば自分のアプローチが効果的になるのか。それも考えないといけない。

そのための誕生日会。今までの嫌いだった誕生日を好きになる。そういう目的もあるけれど、護と二人きりのこのチャンス。無駄にはしない。ずっと思っていることだけど。

ぬいぐるみを、護が買ってきてくれた白猫のぬいぐるみを、もう一度見る。

これは自分だけのもの。ふわふわのもふもふ。抱いて寝たりも出来るだろうか。これを護と思ってもいいだろうか。

……何を……。

一体何を考えているのだろうか。

護に出会ってから、思考が変わった。人のことをよく考えるようになった。昔からそうだったけれど、余計にだ。

護はよく、人のことを見て行動している。そんな護の真似をしてみようと、そう思ったから、それを続けているだけ。

護に視線を移す。護もこっちを見ている。

……護……。

護はその姿勢を続けている。悠樹もそのまま。見つめ合う。その時間が続く。目線を外すにも、何か気まずい。お互いがお互いにそらしてくれるのを待っているかのよう。

「ねぇ。護? 隣、座っていい? 」

「え……? ま、まぁ……、構いませんよ」

さっきは対面に座っていた。だけど、護のことをより感じるためには、隣がいい。だから、隣に座る。

「ぴと」

護の隣に座って、護にもたれかかる。本当なら、護の肩の上に頭を乗せたかったけれど、身長の差でそれは出来ない。護の腕にもたれるような形になってしまう。

それで良い。

自分で顔が赤くなっているのが分かる。暑いから。自分の気持ちが高ぶっていることを知っているから。

……ここは……。

この先、何をしようか。何が出来るだろうか。何度でも言うが、ここには悠樹と護しかいない。二人しかいないのだ。



……お、おぅ……。

俺の方にくっついている悠樹。何か、小動物のようにぴったりと。

あぁ、もう、可愛い。可愛いけど、耐えられない。これは耐えられない。いろんな意味で。

肩に頭を乗せる形にはなっていないけど、ふんわりと悠樹の匂いがする。こんなに近づいているのだから、当たり前か。

石鹸の匂い。これは悠樹が使っているシャンプーか。おそらく、しぃも氷雨も同じのを使っているのかな。

「ゆ、悠樹……? 」

「離れない」

「………………え? 」

「護が何を言いたいのか分かる。だから、先に言う。今は護から離れない。離れたくない」

その言葉とともに、悠樹が俺の右手を握ってくる。俺の身体右半分全体が悠樹とくっついてる感じ。

それと、俺の言いたいことはバレてるのか。バレてるというか、このタイミングで言うことがそういうことしかない、ってのもあるが。

「護は離れたいの? 」

……もう……。

「そう言うのはズルいですよ…………。悠樹」

悠樹に握られている手。こちらからも力を込める。悠樹からの力もさらに強くなる。

「分かってる。分かって言ってる」

「もう……………………」

お互いくっついたまま、手を繋ぎあったまま、お互いの体温を確認する感じで、時間がすぎていく。夏だから暑いとか、そんなことを言っている場合ではない。

いろんな意味で上がっている体温を、クーラーの冷房が下げてくれる。ありがたいのか。ありがたくないのか。

時計の針が進む音が聞こえる。自分の心臓の音が聞こえる。いや、もしかしたら悠樹のかもしれない。

悠樹の誕生日会。誕生日会ってのは、本当はどういうことをするものなのだろうか。プレゼントを渡して、その後何をするか。それが分からない。

もっと人数がいたら、もっとワイワイガヤガヤするのだろう。だけど、悠樹の誕生日。悠樹だから、そういうイメージは合わない。静かなイメージ。だからといっても、何も喋らないのが良いわけじゃない。

無理に会話をしなくてもいい。そりゃ、何か話した方がいいだろうけど、悠樹が相手だと、そういうこともしなくてもいいのかな、って思えてくる。悠樹が相手だから、のんびりと気ままでもいいか、って思える。

これが、俺と悠樹の関係かもしれない。

「護の匂いがする」

「そりゃ、くっついてますからね…………」

「私の匂いも、する? 」

「ま、まぁ………………」

「汗臭くは、ない? 」

「だ、大丈夫ですよ。それなら、俺だって…………」

「大丈夫」

学校からの帰り、スーパーまで、スーパーから家に戻る。汗をかくことがたくさんあった。かいた汗が制服に染みたりしてる。もうそれは乾いているが、乾いたらいろいろ臭いが出そうだ。

「護の匂い、好きだから」





護の何もかもが好き。嫌いなところが見つからない。

今後、もしかしたら嫌いなところが見つかってしまうかもしれない。でも、そうなってしまったら、その嫌いを好きになるように努力すればいい。

全部が好きだなんて、普通はありえない。嫌いなところがあるのも普通だ。

だけど、悠樹は護の全てを好きになる。なっている。

この恋愛観は、おかしなところがあるかもしれない。でも、気にしない。気にしてられない。

これは、自分の恋。自分でどうにかしないといけない。他の人が背中を押してくれたりする時だってある。だとしても、頑張るのは自分だ。自分の恋だから、他人がどうこうすることではない。

……すぅ……。

はぁ……。深呼吸。護の匂いが悠樹を刺激する。悠樹の中に護の匂いが染み渡る。

ふと、護を見上げる。横目で。

護はこっちを向いてくれてはいない。白猫のぬいぐるみだったり、お茶だったり、どこかまっすぐだったり、護の視線は色々と動いている。

護の鼓動が聞こえる。護がドキドキしている、という証拠。いや、もしかしたら、これは自分の鼓動かもしれない。自分もドキドキしているから。

護の隣にいることはたくさんあっても、こうやってくっつくことはあまりない。だから、こういう時を大切にする。いろんな意味で。

「護」

……好きだよ……。

「何ですか? 」

「何でもない」

「そ、そうですか…………」

「しばらく、手は握らせて」

「分かりました」

本心は、自分の心の中だけで。後でいくらでも言うことは出来る。それに、一度は伝えている。だから、無理をしなくてもいい。

頑張らないわけではない。頑張らないと、皆に抜かされる。抜かされるのは嫌。護の一番になりたい。その思いは皆一緒だから。

護も大変だし自分達も大変。だけどやっぱり、大変なのは護だ。皆の想いを知ってどうするのか。

恋をする自分達。恋をされる護。悠樹を含め、女の子側。女の子側は、相手のことだけを考えればいい。今回の場合、それは護のことだけを考えていればいいことになる。

しかし、護はそういかない。告白してくれた相手全員のことを考えないといけない。一人だけ、というわけにはいかない。

護は優しい。優しいから迷っている。そんな護の優しさにつけこんでいる。他の人が告白をしたとしても、少しだけ落ち着ける。護は保留するから。

護が大変なことを知っている。だとしても、諦めるわけにはいけない。諦められない。諦められるわけがない。

初めての気持ち。初めての想い。

絶対に諦めない。




さて……、この部屋に無言が流れてどれくらい経ったのだろうか。あぁ、三十分くらいか。

え? その間、ずっと、悠樹とは手を握り合ったままで寄りかかられているままだけど?

そりゃ、だって、言うことは出来ないし。手汗とかヤバい気がするんだけど、大丈夫かな……。

……手持ち無沙汰というか……。

何もすることがない。何も出来ない。

「ねぇ。護? 」

何度目か分からない問いかけ。悠樹は、こういう風に俺を呼ぶことが多いような、そんな気がする。

「何ですか? 」

優しく返す。悠樹の顔を見るわけでもなく、適当な場所を見ながら。

「夏休みは、楽しみ? 」

「はい。もちろん。高校になって始めての夏休みですからね。宿題は大変でしょうけど」

すごい数の宿題が。消化は出来る量だろうが、どれくらい時間がかかるのだろうか。羚とかには、手伝ってくれ、とか言われそう。

ん? まぁ、俺が手伝う必要はないのか。羚には彼女が、しーちゃんがいるわけだし、凛ちゃんも楓ちゃんも、羚に手を貸してくれるはずだ。うん。俺はいらないだろう。

「大変」

「悠樹は、いつもどれくらいで宿題を終わらせてるんですか? 」

「七月中。八月には残さない」

「本当ですか……っ!? 」

「本当」

俺だってそういう風にしたいと頑張りたいと思ったことがあるが、やっぱり無理だった。出来るはずがなかった。今までにできたことがない。これから先も、出来る気がしない。

「宿題だけに集中すればいい」

「それは分かってますけど、やっぱり難しいですよ」

「うん。結構頑張ってる。だけど、今年は無理そう」

「どうしてです? 」

「青春部がある」

「なるほど…………」

悠樹がどういうことを言おうとしてるのか、分かる気がする。

「杏はまだ何も言ってないけど、七月中に何かやってくるはず」

「ですねぇ……」

合宿とか? 杏先輩のことだ。そういったことを考えていたとしても不思議はない。

だけど、合宿。青春部で合宿。一体何をするのだろうか。

「だけど、楽しみだから問題ない。一回くらいは、八月に宿題をやってみてもいい」

「あはは……」

一回くらい。本当に七月中に終わらせてるのか。小学校の頃から。

「宿題、教えてあげる」

「良いんですか? 」

「構わない。数学とか化学とか、たまに難しい問題があったりするから」

「そうなんですか……」

まだ問題をパラパラとしか見てないから、どういったものがあるかは詳しく分からないが、悠樹が難しいというのだから、それなりの難しさなのだろう。

「しぃとひぃはいつも宿題に時間かかってるから、教えてあげたりしてくれるとありがたい」

「悠樹ははやいのに、二人は遅いのですか? 」

「うん」

それは、悠樹が教えてあげても、ということなのだろう。

「護が教える方が新鮮だから、二人もいつもより解けるかもしれない」

「そういうことなら」

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