お泊り会 #3
てっきり、織原先輩は俺たちの様子を見てニヤニヤしているのかとも思っていたが、実際はそういうことは無く、佳奈先輩がきちんと止めていてくれたのか、織原先輩自信が見ようと思わなかったのか、それは分からない。だけど、あんなところを見られていたら、どう言った説明をするか迷うところであった。
「で、ちゃんとポッキーゲームやったんでしょうね」
織原先輩はそう言う。
「やりましたよ。それはもう恥ずかしかったですが……」
俺はあまり、成美先輩と目を合わせることが出来なくなっていた。
成美先輩は、俺と目が合っても気にしてないような雰囲気ではある。
俺が気にし過ぎなように思う。気にしなかったら男じゃないように思う。
「まぁ、護の顔を見ればすぐ分かるんだけどね」
「じゃ、何で聞いたんですか?」
「にっしししし」
織原先輩は、どこかで聞いたかのような笑い声をあげながら俺の元から離れ、成美先輩の元に向かった。
「護」
高坂先輩が俺の隣に来てくれ、俺の顔を覗き込むかのように見てくる。
今そんな風に見られてしまうと……。
「な、何ですか」
「護。顔が赤い」
「いやまぁ。あんなことをした後なら誰でもこうなりますよ」
「ポッキーゲームのこと? 」
「はい」
「私とも、する? 」
爆弾発言。
たまに高坂先輩はこう言うことをいうのでそれを聞かされるこっちとしては驚く。
「い、一体何を言ってるんですか……。あんな思いをするのは一回で充分です」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
高坂先輩は何故か寂しそうな顔をして、渚先輩達の輪に戻って行った。
ん? 何でそんな顔をするんですか。
そんなにポッキーゲームがしたいなら、俺とじゃなくても俺以外の人とやってください。俺はもう耐えられません。
「さて、罰ゲームも終わったことだし、次は何やる? 」
「杏。まだやる気か? もう十二時だぞ」
佳奈先輩が十二時と言ったのでまさかと思って時計を見て見ると、本当にそうだった。
一体、トランプだけでどれくらい時間を費やしたのだろうか。もしくはさっきの罰ゲームで時間を使った可能性もあるが……。
「え? そうなの?」
「そうだ。時計を見るといい」
織原先輩は時計を見つつ。
「本当だ。 それならそろそろ寝る? 」
「そうした方が良いだろう。 薫や心愛も含め皆は眠たそうにしている」
台所で食器を洗っていた葵の母が部屋に来て。
「もう寝るのね。 それなら布団を出すから、一度隣の部屋に行ってもらえるかしら」
「はい。分かりました」
隣の部屋に行くと一つ俺は疑問を覚えた。
「俺は……、一体どこで寝れば良いんでしょうかね」
「ん? それはここでしょ」
織原先輩はこの部屋を指差し言う。
「まぁ、それは分かってましたけど。布団とか足りるんでしょうか」
「そんなこと私に言われても分からないよ。葵。どうなの?」
「私も分かりません。お母さんに聞いてみないと」
そう葵が言うと、布団を引き終わったらしい母がこちらの扉を開け。
「大丈夫よ。きちんと布団は足りるから」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ皆おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
葵の母の挨拶を皆で返す。
「じゃ、寝ましょうか。護は私達の部屋を覗かないように」
「そんなことはしませんよ」
「分からないよ。護も男だからね」
「からかわないでくださいよ」
「ごめん。ごめん。じゃ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
〇
「ね、寝れない」
寝床についてから約三時間がたったのだろうか。 時計を見るとその時間を刺しているのだからそうなのだが、体感時間としてはもっと経っているような感じがする。
部屋の扉を一枚挟んだ向こうで先輩たちや薫たちが寝ているとなると、やはりすこし気にはなってしまう。
寝返りをうったりしてみても、寝れやしない。
さっきから何回かあげている羚であるのなら、この体験を好機と考えて、目をギラギラとしているのかもしれないが、俺はそんなことをする勇気はないし、そんな感情を湧かせてしまうものなら、織原先輩に何を言われるかどうか分からない。
「ト、トイレに行こ……」
と思い扉に手をかけたところで、はたと考える。
この先にあるトイレに行く為には、先輩たちが寝ている部屋に一度入らなければならない。そのせいで起こしてしまったりしたら申し訳ない。
「ま、仕方ない……」
仕方なく寝ている先輩たちを起こさないように静かに跨ぎつつ、台所へと抜ける。
これで一段落である。
扉を締める前に振り返り先輩たちに心の中で謝罪をしつつ、俺はトイレへと向かった。
〇
「ふぅ……」
トイレを終えれば、後は部屋へと戻るだけである。
また静かに扉を開けて部屋へと戻る。
「あ…………っ!」
部屋へと戻る扉に手をかけ開き、部屋に戻った時、その上げていたほうの足を掴まれ、前へと倒れるような形になった。
幸い、布団の上に倒れることになったし、あんまり音も立たなかったので、先輩たちを起こしたということは無いだろう。
しかし、何で俺の足を掴むのだろうか。こんなことをするのは俺が知っている中で一人しかいない。
「織原先輩……。何してるんですか」
「それはこっちのセリフだよ。護こそ、この部屋で何してたのかなぁ?」
「何もしてませんよ。トイレに行ったその帰りですよ」
「つまんない。夜這いをしようと思ったとかそれくらい答えなさいよ」
(何を……)
「そんなこと俺はしませんよ。この状況を第三者が見たら、どう考えても夜這いをしようとしているのは先輩。あなたですよ。というか、つまんないって何なんですか」
織原先輩は俺の足首を掴んだまま。
「言ってみただけ?」
「はぁ…………」
(やはりなんというかこの先輩は)
「あ、何でそこで溜息をつく? 」
「なんか、織原先輩らしいなって思っただけです」
「私らしい?」
「はい。今みたいになんかこう直感で行動してるところとかは特に」
「何か昔に、佳奈からも同じことを言われた気がするな」
「佳奈先輩ですか?」
この俺の何気なく言った質問に織原先輩は。
「佳奈先輩? 下の名前で呼ぶなんて何があったのかなぁ」
笑いながら聞いてくる。ちょっとした失態である。
「な、なんでも無いですよ」
すこし声が上擦ってしまう。ここで普通に答えることができれば良かったのかもしれないが。
「本当かな〜」
織原先輩はさっきからずっと掴んでいた俺の足首を離したかと思うと、そのまま登るようにして俺の背中の上へとやって来た。
「せ、先輩! 何やってるんですか! こんなところを皆に見られたりでもしたら」
「別に良いじゃない。そんなことより佳奈と何があったのかなぁ」
「何も無いですよ。ただトランプをする前に少し話をしただけです」
俺は、わざと自分の背中の上に乗っている織原先輩と目を合わせないようにしていたのだが、先輩は無理矢理目線を合わそうとしてくる。
そうして見た織原先輩の顔は、いつもと違うような感じがした。
「話?」
「はい。先輩を見ていると、なんかこっちまで楽しくなってくるとかそういった話です」
そう言うと俺の顔を掴んでいた力は緩み。
「そんな話をしてたの? 佳奈と?」
「はい。 そこでちょっと話が盛り上がったというだけです」
「へぇ。護も私と居て楽しいということだよね」
「もちろん。そうではなかったらこの部活には入ってなかったですよ」
「へぇ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
織原先輩は照れ隠しのつもりだろうか、俺の頭をわしゃわしゃとしてくる。
そんなことをしてくれるのなら、もう少し弱くしてくださいと思ったりもしたがそんなことは言わないことにしておいた。
「私のこともさ、佳奈みたいに名前で呼んでくれて良いよ」
「そうさせていただきますよ。そっちの方が気も楽ですから」
と良い感じで終わろうとしていたところ…………。
「二人とも。そんなところで何をしている?」
俺たちの背後から、怒りにくるった佳奈先輩の声が聞こえてきたのであった。