リヤン・ド・ファミユ #4
「ララ? 扉、開けてもらっていいですか? 」
扉の向こうから、声がする。
「う、うんっ。分かった。ちょっと待って」
慌てて扇風機の電源を落とし、今運んだ風にセットする。別に、扇風機をつけることは悪くないのだけれど、ランがどう言うか分からない。
「ありがとう。ララ」
ランは左腕に二枚タオルをかけていて、両手で洗面器を持っている。洗面器には水が半分ほどしか入ってないが、ランは慎重だから、水が溢れてしまうという可能性を無くしたかったのだろう。
「ねぇ、ラン? 」
「何ですか? 」
「扇風機、つけてもいいよね? 」
「えぇ」
「やった。ありがと」
「さすがに暑いですからね。でも、直截当たらないようにして? それで悪化したら大変だから」
「分かってる。分かってる」
悪化するのは、本当によろしくない。それは、嫌だ。護と会える時間が減ってしまうのは嫌だ。
ララは扇風機の近くに座る。ベットの上でやってもいいことだが、万が一溢してしまった場合、掃除が大変なことになる。床なら、別に溢しても拭くだけで充分だ。
「さぁ、ララ。脱いでください」
「あ、うん。そうだね」
脱ぐのは上だけ。それでいい。上半身だけの汗を拭き取る。それだけのことでも、結構変わるだろう。
前でボタンを留めるタイプのパジャマ。中に一枚シャツを着ているが、それも汗でぐっしょりである。その二つを脱いで、綺麗に畳む。どちらも洗濯機行きだ。これは自分で持っていく。ランに頼むことではない。いくらランでも、汗の染み付いた服を持っていってもらうわけにはいかない。
「じゃ、ララ? 後ろを向いてください」
「い、いいよ。ラン。僕が、自分でちゃんとやるよ」
「私がやりますよ? だって、私がやった方が綺麗にできます。だって、一人では届かないところもあるじゃないですか」
「そ、それはそうだけど…………」
「遠慮しないで? ララ」
「別に、遠慮してるわけじゃ………………。でも……、お願い、しよっかな………………」
「はい」
……なんか、ドキドキするなぁ……。
双子だから、女の子同士だから、何をするのにもほとんど一緒だった。お風呂とかだって一緒に入る。だから、身体を、裸体を見せるのには慣れている。女の子同士なのだから、遠慮することだってない。でも、なんとなく、恥ずかしい。ララは、そう思った。
「それじゃ、はじめますね? 」
「お、お願い………………………………冷たっ…………っ!! 」
急に来る冷たさに、ララは少しビクついてしまう。冷たいとは思っていたけれど、それが予想以上だったから。慣れたら大丈夫。逆にその冷たさが気持ちよくなる。
「そ、そんなに冷たかったですか? 」
「ちょっと驚いただけ。もう、大丈夫だよ」
「分かりました。それじゃ、続きを」
「うん」
「な、なんか……、変な感覚だね」
「こんなこと、したこと……ありませんでしたし」
水の冷たさと、タオルの布が皮膚を擦る感触。その両方が重なって、こそばゆいというか何とも言えない感覚が、ララの身体を走る。
今までなら、お母さんがやってくれていた。風邪を引いた時は看病をしてくれた。お互いがお互いにやっていたわけではない。でも、これからは、自分達で全てしなくてはならない。この場に、この家にいるのは、ララとランだけ。親はいない。
親は、助けてはくれない。
「ねぇ、ララ?」
「なにかな? 」
「ララは髪、伸ばさないんですか? 」
ララとランの決定的な違い。性格の違いとか、そういうのは当然あるものだけれど、そういうことではない。髪の長さの問題。もし、髪の色が一緒だったとしても、本当に見た目が一緒だったとしても、それだけでどっちがララでどっちがランなのかが分かってしまう。
「そりゃ、僕だって一回くらいは伸ばしてみても良いかなぁとか、思ったことあるよ? 憧れたことだってある」
「でも、ララは、ずっとその長さを維持してます」
「まぁ、やっぱり、この方が動きやすい、ってのもあるのかなぁ」
「ララは昔から元気でしたもんね」
「そうそう。やっぱり、身体は動かさないとね」
今だって、何かをしたくてウズウズしている。一日寝込んだから。
「それじゃ、次は、前をしますよ? 」
「うん」
ランの方を向いたララは、ランの頬に少しだけ赤みがさしているのに気付いた。自分と同じだ。ララと同じように、ちょっとは恥ずかしいのだ。
「…………………………っっっっ」
上から下へと、擦られる感覚が移動する。その度に、背中の時とは違う、別の感覚が訪れる。ララの小さな小さな胸をもゆっくりと擦ってしまうから、電撃が走る感覚を得てしまう。
「…………くっ……………………っ! 」
再度、ララは唇を噛みしめる。そのことにランも気付いてるかもしれないが、こうしかする方法がないから、仕方ないということだろう。逆の立場だったら、ということを考える。
「お、終わりましたよ」
「ありがと」
一息つく。ランも同じように。
ランが綺麗にやってくれたから、かなりすっきり。汗のベトベトした感覚も消えている。
でも少し、落ち着かない。それは、上半身裸の状態でいるから。すぐに着替えたらいい話なのだけど。
「洗濯機に、私が持っていきましょうか? 」
「いいよ。自分の分だから、僕がやる」
「洗面器の中の水を流したりするついでですから、遠慮しなくても」
「いいよ。本当に。汗で濡れてるから。さすがに悪いよ」
「そう? 」
「うん。そうだよ」
「でも、一緒に洗面所までは行きましょう? 」
「そだね。ちょっと、待って。すぐ着替えるから」
パジャマの上を選択に出すわけだから、下も出すのが当然だろう。上下で違う種類のパジャマを着るというのは、やはり多少なりとも違和感がある。
パジャマのズボンを脱いで、先に脱いでいた上とシャツに重ねるように置いてから、クローゼットの中を探す。ほぼ全裸に近い状態だけど、もう気にしない。
「ま、これでいいよね」




