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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
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お泊り会 #2

 織原先輩が神経衰弱をする為にトランプを並べている。そうすると、佳奈先輩が、織原先輩の目を盗む様にして耳打ちしてくる。


 「杏は本当に記憶力が良いからな。油断はしない方がいいぞ」

 「そうなんですか? 織原先輩はどちらかと言うと直感とかで物事を考えているイメージがあるんですけど……」

 「護の言う通り、その考えも間違えではない。こういうゲームやらは思い付きでやっているだろうが、勉強とかこういう記憶力を使う物には強い方なんだ。昔から一緒にいるからよく分かる」

 「へぇ。そうだとは知りませんでした。そういう佳奈先輩はどうなんですか?」

 「私か? 私は全然だ。こういうゲームは向かないみたいでな」

 「どちらかと言うと佳奈先輩の方が強そうなイメージがあるんですけど……」


 そうこうしているうちに準備は終わったらしく、織原先輩は。


 「これで負けた人は罰ゲームを用意しているからね。みんな真剣にやるように」


 一瞬、空気が凍る。


 これは神経衰弱とかけたのだろうか……。


 「…………。罰ゲームって何をやるんですか?」

 「ポッキーゲームかな?」

 「自分が負けない自信があるからって……」

 「当たり前じゃないか。私が負けるのならわざわざやらないし、こんな罰ゲームも用意しないしね」


 なんという人だろうか。


 まぁ、そういうところが織原先輩らしいといえばらしいのだが…………。


 やるとするならば、最下位の人とその次の人だからそこの順位にはなりたくない。


 必然的にこの青春部の誰かとやるわけだから、そんなことをしようものなら、羚やその他の男子から攻撃を受けかねない。それだけは避けたい。


 織原先輩だけが余裕な笑みを浮かべて、神経衰弱が始まるのだった。



 序盤は大方の想像通り、織原先輩の独壇場であった。


 俺を含め、他の皆も少しずつは取っているのではあるが、織原先輩が強すぎる。


 「やはり織原先輩。強いですね」


 俺の横に座ることになった佳奈先輩に、喋りかける。


 織原先輩は俺から一番遠いところにいるので、この話は聞かれることはないだろう。


 別に聞かれても困るわけでもないのだが……。


 「そうだろ? 今回は私の予想以上ではあるが」

 「ふぇ…………」


 こんな話をしているうちに、高坂先輩の隣に座っていた渚先輩が感嘆の声を上げた。


 その声につられ高坂先輩の手元のカードを見ると、織原先輩に追いつきそうなほどまでに増えていた。


 いつのまにここまで増やしたのだろうか。


 織原先輩の顔にも、若干余裕の表情がなくなってきている。


 「護。次だぞ」


 佳奈先輩の声で意識を場に戻す。


 場に残っている枚数が少なくなってきており、ほとんどのカードは織原先輩と高坂先輩が所持している。


 他の皆は数ペアくらいで団子の背比べ状況だ。


 あまり油断はしていられない。



 結果は織原先輩が一位で高坂先輩が二位。


 二人が何ペア持っているのを数えるのは面倒なので割愛。


 こう、なんで面倒になったかというとだ。


 俺が最下位から一つ上の順位、八位になってしまったからだ。


 「…………」


 織原先輩がニヤニヤしながら、俺を覗き込んでくる。


 「なんですか。先輩」

 「護。もしかして最下位?」

 「いえ。俺じゃないです……」


 最下位ではないとしても、罰ゲームをするのには変わりないのだが……。


 「あれ? 違うの? この世の終わりみたいな顔をしてるからてっきり」

 「多分、枚数的に下から数えて二番目の順位なので罰ゲームを受けることにはなるんですが」

 「あ、そうなの。じゃ、最下位は誰なの?」


 織原先輩が皆を見渡すなかそろりと手を上げたのは成美先輩だった。


 「あたし……です」


 まさかだった。


 どうも、俺の予想としては渚先輩辺りだとは思っていた。まさか姉の成美先輩の方だとは思っていなかった。どちらかというと、渚先輩の方が苦手かなと思っていたのだが、手札を見る限り三位。


 あんなに苦手だと言っていた佳奈先輩も四位と、俺の予想をある意味裏切る順位にはなった。


 「杏さん! これ本当にやるんですか?」


 成美先輩が反論の言葉をあげた。


 「だって罰ゲームだし。始まる前に真剣にやりなさいとも言ったし……」

 「そうですけど……。あたしは女で護は男ですよ」


 「成美よ。それはそういうのが一番面白いと思うんだよ。私は」


 織原先輩は笑いながら言っている。


 (この先輩。絶対に楽しんでやっている!)


 「で、でも!」


 それでも成美先輩は引き下がらない。


 そうだ。そうだ。がつんと言ってください。このまま、織原先輩の好きにさせてはならないような気がする。


 というかそんな気しかしない。


 「恥ずかしいのなら私達が見てないところでやる? 私はそれでも良いんだけど」

 「……」


 成美先輩は考えている。


 ん? そこは考えるところなんですか?  違いますよね? 否定するところですよね?


 「まぁ、それなら良いですけど」


 えっ! 良いんですか?


 「よし。決定ね。護もそれでいいでしょ?」

 「成美先輩が言いというのであれば、俺はいいですけど……」

 「分かった。 んじゃ私は今からポッキーを買ってくるから」


 織原先輩はそう言って、嵐の様に飛んで行ってしまった。


 始めて来た場所でコンビニ等の場所は分かるのだろうか。



 それから数分後。


 俺と成美先輩は、さっきの部屋の隣の部屋に来ていた。


 佳奈先輩と葵が、好奇心旺盛の織原先輩を二階へと連れて行ったので、覗かれるという心配は無いわけであるが……。


 「成美先輩。本当にやるんですか?」

 「仕方ないじゃん。こういう結果になってしまったんだし」

 「でも、先輩達も見てないんですしここはやったふりとかで……」

 「女のあたしがこうやってやってやろうって言ってるんだから、男のあんたがそんな怖気付いていてどうすんのよ」

 「そ、そうですよね」

 「それに、杏さんのことだし、バレるよ?」


 俺は少しばかり、成美先輩の剣幕に押されていた。


 「こんなことするのも、相手が護だからなんだよ?」


 成美先輩はボソっと何かを言った。


 「今、何て言いました?」

 「な、何でもない! 別にたいしたことは言ってないんだから。早くやるよ」


 成美先輩は顔を赤らめつつ、ポッキーを一本差し出してくる。


 俺はそのポッキーを一度手に取ってから端を口に咥える。


 「あたしも咥えるからね」


 成美先輩ももう片方を咥える。


 成美先輩の顔をかなり近くで感じる。


 目線を一度合わせ、それを合図にお互い少しずつその一本のポッキーをかじっていく。


 手を握ってやっているからだろうか。お互いの顔が近くにくるにつれて相手の鼓動がわかるほどになっていた。


 二人の間に何とも言えない空気が流れる。


 「ひゃぁっ!」


 お互いの鼻が触れ、成美先輩は声を上げた。もちろん、その衝動でポッキーは割れてしまう。


 そこまでは良かったのだが、お互い手を繋いでいたため成美先輩が盛大にバランスを崩し、こちらに倒れこんできた。


 「成美……先輩」


 成美先輩の顔がすぐ隣にある。


 「ごめんね。 護……」

 「何で謝るんですか。 俺が先輩を受け止められなかったのが悪いんですから」

 「ありがと」


 成美先輩の腕が背中に手を回してきた。


 「成美先輩…………!?」


 驚きのあまり少し声がでかくなってしまった。


 「しっー! 声大きいよ」

 「先輩……」


 時間としては数秒だったのかもしれないが、先輩が口を開くまでにかなりの時間が流れたように感じた。


 「しばらく、このままで良い?」

 「お、俺は構いませんが……」

 「ん。ありがと」


 俺の背中に回されていた手の力が強くなった。


 「成美先輩」

 「別に呼び捨てにしてくれても良いよ」

 「で、でも。一応先輩ですし……」

 「その先輩が良いって言ってるんだよ」

 「でも、皆いるところでは恥ずかしいですよ……」

 「それなら、二人の時とか渚がいる時くらいでも良いからさ」

 「それなら……良いですけど」

 「ありがと」


 それを言うと成美先輩は手を離し。


 「んっ……!」


 成美先輩のその柔らかい唇が俺の頬に触れた。


 「な、成美先輩…………!?」

 「気にしないでっ!」


 と、成美先輩は笑顔でそう言い、部屋から出て行った。


 この時の成美先輩の笑顔は、薫の笑顔に及ぶほどであった。

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