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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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お片付け

「そろそろだな」

まだ九時を回ったところ。だけど、咲夜さんが作ってくれた料理のほとんどがなくなってきている。俺が最初に食べたラタトゥイユはもうすでになくなっていて、そのお皿はもう下げられている。

咲夜さんはたくさん作ってくれたけれどここには十三人もいるわけで、始まってから三時間も経てばなくなってしまうだろう。

俺だってそこそこ食べたし、悠樹とかも結構食べたんじゃないかなぁって思う。ずっと悠樹を見ていたわけではないけれど、中間テストの勉強として葵の家で集まった時に出してもらったお昼ご飯は、俺と一緒に最後まで頑張って食べていたし。

「早く終わってしまいそうですね」

咲夜さんは机の周りをグルグルと回って、順にお皿を下げていってくれている。手伝おうとは思っているのだが、咲夜さんの手際が良すぎて、俺達が手伝う余裕がない。自分が使ったお皿とお箸だけは下げることにしよう。

もうすでに、雪ちゃんとか成美とか渚先輩は片付けている。まぁ、基本的にほぼ全員が食べ終えているのだけれど、シャリオの近くにいるのは三人だけ。薫とか心愛とかは、食べ終わっているものの、まだ机のところにいる。

「お皿は重ねて、その上にお箸を並べて……。まーくん」

「ん。さんきゅ」

雪ちゃんに言われた通りにする。

これの後片付けも大変だなぁ。

「ね、護。護は何か願い事とかある? 」

「願い事…………ですか? 」

「うん。七夕だから」

「そうですねぇ……」

あまり考えはしないけれど、七夕だから何か一つくらいは考えてみてもいいか。うむ。何にしようか。

「なかなか思い付きませんねぇ」

「そうかな? 私はすぐに考えたよ」

渚先輩はそう言う。渚先輩の言葉に成美も雪ちゃんも頷いている。

あ、なら、聞いてみてもいいのだろう。でも、願い事は人に言うと叶わなくなるとかいうから、聞かない方がいいかもしれない。別に聞いたところで、何かあるわけじゃないし。

「すぐには考えられない? 」

「はは……。そうですね……」

いやはや、本当に何も。もっと成績を上げたいとか、そんなのしか。

「まぁ、願ったところで叶うかどうかは自分次第だからね」

成美の言う通り。何か、成美は自分に言い聞かせているような、そんな感じがする。成美にはそれほどまでに叶えたい願いがあるのだろうか。

「まーくんはお花……好き? 」

唐突に雪ちゃんが口を開く。周りにいっぱいあるからな。咲夜さんの趣味だ。

佳奈に付き添って風見植物園まで花を見に行ったこともある。その時は、遥も真弓も一緒にだった。二人とも好きだと言っていた。

「まぁ、それなりには好きかな。やっぱり落ち着くし」

「だよね。うん。私も一緒」

雪ちゃんは嬉しそうに笑う。雪ちゃんもそうなのか。

女の子は花が好きだというイメージがある。花柄の服とかもあるし、そこからのイメージ。あ、杏先輩は全然興味ないって佳奈が言ってたな。薫からもそういう話はあまり聞かないし、心愛もそういうイメージが無かったりする。案外、そういうものでもないのかもしれない。

逆に男が花柄の服を着ていたら違和感ありまくりだし、花が好きだなんて人に会ったことはない。羚だって、絶対似合わない。他の男の友達……友達…………いないな。羚ほどまでに仲が良いやつは。あ、自分で言ってて悲しくなってきた。

「遥から聞いたんだけど、護は佳奈先輩と遥と真弓先輩と四人で植物園に言ったことあるんだよね? 」

「そうですね。佳奈から頼まれたんで。文化祭の時とかに校門付近を飾るために必要だって言うもんですから」

あれもまだ一ヶ月ちょっと前の話か。もう少し前だと思ってた。

「遥に会ったのはその時が初めて? 」

「えぇ。花とか一応は好きですけどそういう知識が全く無かったですし、一度図書室でパラパラーっと見とこうかなぁって思って」

「あぁ、遥ちゃんは図書委員長だもんね」

あの時、遥は俺の目当ての本を瞬時に当て、色々と手伝ってくれた。本当なら佳奈と二人きりで見る予定だったものに遥と真弓が加わって、ずいぶん楽になった。

「で、護はその後に佳奈先輩の家に行ったんだよね」

「その時は…………どうだったのかな……? 」

「どう……とは? 」

「私もちょっと気になるかな。護君」

雪ちゃんと渚先輩は一体何がそんなに気になるのやら。

「今日も佳奈先輩のお母さんとお父さんの姿を見かけないけどさ、多分、その時もそうだったんじゃないかなぁって私は思うわけよ」

なるほど。

「そうでしたね。実際会ってませんし、咲夜さんは出かけていると言ってました」

「じゃ、不知火さんと佳奈先輩のとの三人きりだったわけ? 」

「まぁ、そうなりますね」

あの時は、佳奈のお願い事を無下にするわけにもいかなかったし。

その時に咲夜さんの料理を初めて食べて、かなり驚いた覚えがある。その美味しさに。

あ、だから、今日もフランス料理を作ってくれたのだろうか。前回のイメージがあったから今日も食べれてとても良かったと思う。

「まぁ、佳奈が風邪を引いたりしてちょっと大変だったりはしたんですけど…………」

「へぇ、そんなことが…………。てか、佳奈先輩でもやっぱり風邪、引くんだ」

「あまり引かないイメージがありますけどね」

何でも出来る佳奈だし、気合いだけで風邪の菌なんてものを吹き飛ばしてしまいそうだ。杏先輩も、そんなイメージ。病は気から、とも言うし。

「あの時は雨に濡れたのもあれますけどね。その前に植物園で動き回ったりしたのも関係してると思いますし。僕も次の日は風邪、引きましたし」

「水着を買いに行った前の日ね」

「そうです、そうです」

その日からも一ヶ月ほどしか経っていない。

「水着を買った…………の……? 」

「あぁ、雪ちゃんは知らないか」

「うん。知らない………………」

雪ちゃんは少し残念な顔をする。

「あ…………………」

だけど、すぐに何かを思い出したような表情を浮かべ。

「知ってた…………」

俺は雪ちゃんの姿を見かけてはいないが、雪ちゃんは俺の姿を見かけたということだろう。基本的にはあの水着売り場に何時間もいたし、もしそこに雪ちゃんがいたのなら俺の姿を見かけていたとしても何ら不思議はない。

「雪ちゃんも、あそこにいたのか? 」

「うん……。お姉ちゃんと一緒に…………」

てことは、魅散さんにも見られてたわけだ。うむむ、気付かなかった。

「護君は大変だったね。あの時は」

「ま、まぁ…………」

あんな機会、今後は絶対にないだろう。その時も思ったことだけど。疲れはしないけれど、色んな意味で疲れる。

「まーくんが選んだんだよね…………? 皆の水着を」

「そ、そうだな…………」

「ここにいる皆の水着……………? 」

「いや…………遥のは選んでないな…………」

選んだのは、青春部の皆と真弓。あの場に遥はいなかった。





「し、不知火さん…………っ」

食べ終えた後も杏と佳奈に挟まれていた遥は、急に声を出した。なんとなく。ただ、放っておけば護が言いそうなことを先に言おうと、そう思っただけ。それだけ。

「どうかしましたか? 遥様」

時間的に七夕パーティーはもう終わりだ。終わりだということは、あれが残っている。

「これから…………後片付け…………ですよね? 」

「そうなりますね。すぐに片付けないと汚れが残ってしまったりしまいますし」

「その片付け、私達に手伝わさせてもらえませんか? 」

「手伝い……ですか? 」

「あ、はい……っ。咲夜さんは私達のためにこれほどまでの料理を作ってくださったのですから、片付けくらいは私達がと思いまして」

「なるほど…………」

「ど、どうですか? 」

隣にいる佳奈と杏を見てみると、少しだけびっくりした顔をしている。遥がこういうことを自分から言うとは思っていなかったのだろう。

遥自身、普段の遥なら言っていない。護と出会ったから、こういう機会だから、少し護の真似をしてみたかった。護の優しさの真似をしてみたかった。

……やっぱり……。

護の優しさと自分の優しさは、何かが違う。何が違うのか、それは分からないけれど違う。同じようにしてみようと思っても、何が違う。

「うーん。そうですね…………」

「なぁ、遥? それは全員が手伝うということか? 」

「え、えぇ……。そうですけど……」

だって、その方が咲夜の負担が減る。護なら、出来るだけそうなるように考えるはずだ。

「それは出来ないんじゃないのかなぁ? 」

杏が間に割ってはいる。遥の意見を下げる形で。

「え、どうしてですか…………? 」

「杏様の言う通りですね…………。さすがに、そこまで広くはないですね。ここにいる全員となると……」

「あ……………………」

……そっか……。

ここにいるのは十三人。そんなにもいるんだ。忘れていた。上手くはいかない。

「遥様。お気遣い感謝しますよ」

「い、いえいえ…………」

恐縮だ。気遣いというか、これは下心だ。護に近付くための。

「でも、あれか。全員じゃなくても半分くらいなら出来るな。その人数でも咲夜の負担は減る」

……なるほど……。

それがあった。

「そうかもねぇ。それなら出来そうだね」

「手伝ってくださるなら、私はとてもありがたいですよ。ありがとうございます。佳奈お嬢様、杏様、遥様」



「皆様。集まってもらえますか? 」

咲夜さんの、珍しく少し大きな声が中庭に響く。後二十分もすれば十時になる。七夕パーティーも終わりだ。

約四時間。どんな時でも四時間という時間は四時間であり四時間以外の何物でもない。ただし、今日みたいな楽しい時間を過ごすと、早く感じてしまう。

薫、心愛、葵、悠樹、成美、渚先輩、杏先輩、佳奈。青春部の皆。そして、この場には、麻依先輩、遥、真弓、雪ちゃん、咲夜さんがいる。このメンバーでいるからそうなのだろう。毎回そうだ。

青春部に入ってからの二ヶ月ちょっと。それからの毎日、時間が経つのがものすごく早い。

「まーくん、いこ? 」

「だな。先輩方も」

「そだね」

「うん」

机の近くではなくシャリオの近くにいた俺達。咲夜さんが大きい声を出したのは俺達のためか。他の皆は元々咲夜さんの近くにいたのだから。

咲夜さんを中心に円を作る。十四人で作る円だ。

「さてと、本日の七夕パーティーはもう終わってしまうわけですが、最後に、皆様に手伝っていただきたいことがあります」

「後片付け、ですよね? 咲夜さん」

「さすが護様。その通りです」

皆のために頑張ってくれた咲夜さん。片付けくらいは俺達がしないといけない。それが、最低限の礼儀というものだろう。

「ただし」

咲夜さんは言葉を続ける。

「さすがに厨房はそんなに広くないですから、あの場に十四人が入ることは厳しいです」

後片付け。主に、食器洗いだ。食器洗いにそれだけの人数はいない。必要ない。そこそこの数のお皿があるけれど、半分くらいの人数で捌ける。それに、全員がやれるほど、そんなにシンクの数もないだろうし。

「そこで、じゃんけんで決めることにします。ここに残って手伝っていただける方。残ってしまったらここで解散です」

時間も時間だし、片付けが終わるまで待っているというのは無理だ。明日が学校で無ければ良かったかもしれない。いや、夜も夜だし危ないか。どちらにせよ。

「じゃんけんする前に一つ。時間的に帰らないといけない、という方はいらっしゃいますか? 」

咲夜さんは皆の顔を見回しながら問う。首を横に振って、それに答える。

「大丈夫みたいですね。それじゃ……………」

「皆で一気にやるのか? 」

「あ……そうですね。別れないといけませんね」

さすがに十三人だと決まりにくい。どれくらいあいこが続くのだろうか。まぁ、そんな確率の計算はしたくない。面倒。

「じゃ、私から見て右と左に別れてじゃんけんですね」

「あ……………………」

佳奈がじゃんけんに参加しようとしてるのを見て、俺は思わず声を出してしまった。

「どうかしました? 護様」

もちろん、その俺の声に反応したのは佳奈ではなく、真ん中にいる咲夜さん。

「えっと、佳奈は…………じゃんけんする必要あるのかなぁって」

「ん…………? あ、それもそうか。ここは私の家だしな」

そういうことです。

「なるほど」

「それじゃ、私も参加しなくてもいいかな。私の家、ここから五分くらいだから」

杏先輩が手を挙げる。

そんなに近かったんですか。

「まぁ、お二人がそう言うなら。皆様もそれでOKですか? 」

「えぇ」

「はい」

「それで大丈夫ですよ」

皆、それぞれ同意の意を述べる。

ということは、佳奈と杏先輩が抜けて十一人。

「五人と六人に別れて、ですね。五人側から勝った人二人、六人側から勝った人三人。計五人、佳奈お嬢様と杏様を足して計七人に残ってもらうことにします」

じゃんけんの結果。残ることになったのは、雪菜、心愛、葵、真弓、渚。俺、薫、遥、悠樹、成美、麻依先輩は帰ることになった。

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