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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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アドバンテージ

葵とは恋敵(ライバル)である以前に、友達なのだ。自分がされて嫌なことはしないはずだ。薫だって、そういうことはしない。そこに護が関係しているのなら、尚更だ。

護によく見られたい。昔から一緒にいるから、お互いに良いところも悪いところも知っている。お互いのことを知りすぎているけれど、薫は護に新たな一面を見せたい。これからは、良いところだけを見せたい。

なぜなら、もっと護との距離を縮めたいからだ。

今までで十分だと思っていた。十分なはずだった。でもそれは、自分の勘違いだったのだ。全然足りていなかった。

護との距離を完璧に縮められていなかった。薫は解釈する。

解釈した上で、自分に言い聞かせる。まだ護と付き合えていないのは自分が足りないからだと。過去からの積み重ねが足りないからだと。

自分と護との積み重ねがどんどんと壊されていく。そんなことはないのだけれど、そう感じてしまう。

皆がいるから、皆も護のことが好きだから。中学の時も咲を含め護に向けられる視線は多かったけれど、こういう風にして行動に出す人は少なかった。自分も含めて。

だから、高校に入ったら自分を変えようと思った。葵と心愛の告白を先に見てしまったから、より頑張らないと、と思った。

ハンドボール部もやめたし、護の隣にいることを努力した。もっと護に好きになってもらおうと努力した。

その努力は、ちゃんと結果に結びつくのだろうか。不安で仕方が無い。

努力したとしても、その結果が自分の望んでいない結果だったら、何の意味もない。自分が招いた結果であっても、それは無意味なものだ。

昔からの努力が無駄になる。それは避けたい。皆より上に行きたい。自分と護の間にある積み重ねが、皆に抜かされようとしている。

抜かされては駄目だ。幼馴染。このアドバンテージを有利に使わないといけない。これは、自分にしかない利点だ。

……そういえば……。

雪菜も幼馴染らしい。そう聞いた。

……でも……。

雪菜には悪いけれど、それはちっぽけなものだ。薫に比べたら微々たるものだ。薫の足元にも及ばない。

結果、幼馴染という利点を生かせるのは薫だけ。

幼馴染を生かして何が出来るか。それを考えなければならない。それを使って、皆より上にいなければならない。もっと護に振り向いてもらわないといけない。




……どうしましょうか……。

考えろ、考えろ。葵は自分に言い聞かせる。

どうすれば護の隣にいれるのか。どうしたら護に振り向いてもらえるのか。どうしたら一番になれるのか。

告白をして青春部に入ってから、そのことばかりを考えていた。考えていないと、他の人に取られてしまうから。

どうすれば自分の希望を叶えられるのか。計算していた。誰にも気づかれない方法で護ともっと仲良くなれる方法を。

今、護は心愛と雪菜の隣にいる。楽しそうにしている。そこには、護の笑顔がある。その笑顔は、自分に向けられる笑顔と同じだ。

……なら……。

笑顔に差が無いということは、葵と雪菜と心愛との間には差が無いということなのだろうか。三人とも、護の中では同じなのだろうか。

……それは嫌……。

一番になりたい。そのために頑張っているのだから、邪魔が入ってしまったが、護との二人きりになったりした。一緒に寝たりした。

昨日一日だけで、少しは距離が縮まっただろう。縮まったはずだ。

だけど、心愛達との差が無いようにみえる。いや、昨日ので並んだということなのだろうか。

ということはだ。昨日まで、葵は昨日より下だったということになる。

護の中ではそういうことはないのかもしれないけれど、自分の考え方でいけばそうなってしまう。

……それも嫌だなぁ……。

心愛のことを、雪菜のことを、下に見ているわけではない。ちゃんと、同等に見ている。

自分と同じだと、そう仮定した上で。

……まぁ、でも……。

アドバンテージがないわけではない。薫には及ばないけれど、葵にも一つある。

そのアドバンテージは青春部のメンバーで最初に告白をしたのは葵だということ。

日は一緒だけれども、心愛よりも薫よりもはやい。最初に伝えたのは葵なのだ。

それがあるから、葵は頑張ってこれた。これがなかったら、諦めていたかもしれない。諦めたくはないけれど、そうしたくなる状態におちいる時もある。

恋敵(ライバル)がたくさんいるのだ。護のことを好きなのは自分だけではない。皆だ、皆。

護の気持ちが自分だけに向くわけではないのだ。皆に向く。





……え……?

心愛は一瞬びっくりした。二つの視線が自分の方に向いたと思ったから。

でもそれは、心愛の勘違いだった。慌てて顔をあげて見たけれど、自分を見ている視線はどれ一つとしてなかった。

視線はあった。護に向けられてる視線だ。二つの視線。それは変わりなかった。

薫と葵の視線。二人の視線。

……そっか……。

自分が護の隣にいるからだ。最初も護の隣にいたけれど、その時は感じなかった。だけど、今は感じる。何故だろうか。時間が経ったからだろうか。この短時間で、より護のことを意識するようになったからだろうか。

薫と葵の気持ちは分かる。逆の立場なら、心愛だって同じことをしているだろうと思うからだ。

青春部の中で一年生は三人。心愛と薫と葵。

薫は幼馴染。葵は最初に三人の中で告白した。

二人には、そういった自分より有利な点がある。

心愛はどうだろうか。二人に勝っていることがあるだろうか。

まだ告白して間もない頃、風邪を引いた心愛を護は心配して家まで来てくれた。

看病をしてもらった。それは自分のことだけにならない。薫とは幼馴染なのだから、互いに看病したり看病されたりしているはず。

家に来てもらった。それはもっと有利にはならない。薫にとってはそんなこと日常茶飯事だし、葵の家にはテスト勉強をしに青春部の皆で行った。護のことだから、それ以降も葵の家に足を運んでいることだろう。

……ほら……。

そう考えたら、現段階で二人に勝てるところはない。

どこか勝っているところ。ちょっと考えてみる。

……あるのかなぁ、本当に……。

不安だ。今は護の隣にいる。だけど、これは一時的なものでしかない。この場だけのものでしかない。この一時だけのものでしかない。護が他の料理を食べようと動いてしまえば、その瞬間、自分は護の隣にいられなくなってしまう。

心愛が今護の隣にいれるのは、ついてきたからだ。渚と護が戻ってきて、護が移動したからそれに雪菜と一緒についてきただけなのだ。

もう一回、ついていくことは許されないだろう。あまりにも、不自然だろう。順番というものがある。その順番が、今来ているのだ。七夕パーティーの中盤に、それが回ってきてしまったのだ。自分でそうしてしまったのだけれど。

チャンスを生かさないといけない。そう思ったから、心愛はそうした。でもそれは、間違っていたのだろうか。

護の隣にいる。そのことが間違いなのだろうか。このタイミングではまずかったのだろうか。

いや、これであってる。

だって、この場で、誰もが護の隣にいたいと思うこの場で、一度そういう機会が訪れたのなら、それに乗らないといけない。

……うん、これでいい……。

心愛は自分に言い聞かせる。

このタイミングじゃなかったら、夏休み、護と咲夜と心愛と雪菜の四人で料理を作るという約束が成り立っていたかもしれない。

咲夜がいてくれたから、護とも約束が出来たのだ。

……よしっ……。

これがアドバンテージになるだろうか。互いに料理を真剣に作って食べ比べをする。薫と葵はそういうことをしたことがあるのだろうか。

ない。と、心愛は仮定する。

まだ日は決めてないけれど、夏休みのいつの日か。その日が来れば、二人に並んで抜かせるかもしれない。もし、本当に抜かせるのなら、万々歳だ。

最初と同じように、心愛は護との距離を詰める。でもちょっとだけ。ちょっとだけでいい。安心することが出来たから。もっと頑張ってみようと思えたから。

……だって……。

雪菜が頑張っている。

昔から互いのことを知っているといえども、雪菜の立ち位置は少々厳しい。いや、少々だけでは収まり切らないほどかもしれない。

雪菜だけが、御崎高校にいない。この恋の戦いにおいて、そのことは、ものすごく不利になる。

不利としか考えられない。

自分達はこの場で何かをしようとして、たとえそれが失敗したとしても、取り返しが効く。高校でも会えるのだから、その時に回そうと、少し楽観的に考えることが出来る。

……だけど……。

雪菜にはそれが出来ない。

雪菜の家に行ったことはないけれど、護の家からはかなり遠いことが予測される。

そうとなれば、護を呼び出すことも難しくなるだろう。護だから、特別な用事がない限り、電話一本で来てくれる。

だけれども、雪菜はそうしないはずだ。心愛は、雪菜から護に似たような優しさを感じた。雰囲気からそれを感じ取ることが出来た。だから、しないはずだ。

ということは、雪菜にとって護に会える一回一回の全てがチャンスになるということ。頑張らないといけないということ。

……頑張らないとなぁ……。

他人の頑張りを見てると自分も頑張らないと、と思わされる。

護越しに、雪菜の方を見てみる。

本当に、浴衣が似合っている。その雰囲気からしても、心愛とは全く正反対だ。

……そういえば……。

護はどんなタイプが好きなのだろうか。聞いたことがなかった。

聞いたことがなかったというか、聞こうと思ったことが無かった。

それを知ったところで、どうにかなるものでもないからだ。

好みを知った方が、恋の戦いは有利に進むかもしれない。だが、この戦いは違う。

他人に同調するのは危険だ。合わせる必要はあるものの、ぴったり同じだというのは危ない。

ここ三ヶ月、護を見てきて、心愛は一つ分かったことがある。

護は個性を大切にする。その一人一人の個性を見ているような、そんな気がするのだ。

趣味、髪型、服装などなど。人の個性を表すものはたくさんある。

他人と完璧に似ない。というのは無理だ。似ていたとしても、少なからず、そこで違うところを出さないといけない。

「ねぇ。護」

「何だ? 」

「楽しみだね。夏休み」

「あぁ」

料理の件もだし、青春部のことも。どちらにも、護がいる。

夏休みもまた、護を基準に物事が動くだろう。


……夏休みか……。

後二週間もすれば、夏休みに入る。料理を皆で作る。護と咲夜に料理を教えてもらえる。

……会えるのかなぁ……。

今日の段階で、護と会えるのはその予定されてるその日だけ。他の日は、全く予定していない。

……学校が違うからね……。

護達は御崎高校。雪菜は創南高校。前々から思っていたことだけど、これは大きな差だ。大きな不利だ。

雪菜が護と会えるのはこういう機会くらいしかない。夏休みになったら、チャンスも増えるかもしれない。そうだとしても、そこには、今日ここにいる皆がいるかもしれない。

そうなってしまったら、それはチャンスではなくなる可能性がある。

二人きりで会う可能性がある。差を埋めるためには、それくらいのことをしないといけない。そうしないと、護の隣にはい続けられない。

努力が必要だ。自分の努力が。今までは沙耶や魅散に手伝ってもらっていた。

二人の存在が、雪菜にとって必要なものになっていたのだ。雪菜と護とを繋げるものになっていたのだ。

自分だけで頑張るということは、二人の助けを借りないということ。自分にとってのアドバンテージを失うということ。

だけど、この恋は自分のもの。自分の戦いだ。

そろそろ、自立をするとき。頑張りを見せる時。



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