役目
でも、悠樹は見ているだけだ。護を見ているだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
悠樹から視線を外した麻依は、ぐるっと周りを見渡してみる。
本当に静かだ。いや、今だけかもしれない。時を狙っているだけなのかもしれない。
「「はぁ……………………」」
ため息が聞こえた。それも二つ。両サイドから。葵と薫から。
護と同じ学級委員長。青春部の中の一年メンバーの中では一番賢い。それが葵。護の幼馴染で、自分達にとって護との仲の良さが強力だと悠樹は言っていた。それが薫。
心愛が護の隣にいるから、葵と薫はちょっと取り残された感じだろうか。だから、二人はため息をついているのだろうか。
葵は頭の良さを生かしたりして今までやってきたのだろうか。どうすれば良いのか。感情を頼りには動いていなさそうだ。
薫は確実に、幼馴染という立場を使ってきているだろう。四人が青春部に入ったのも、薫がハンドボール部を辞めたからだと、悠樹から聞いていた。
幼馴染だから、薫は昔の護を知っている。それは大きなアドバンテージになるだろう。タイミングさえよければ、護と薫が付き合っていたとしても何ら不思議ではない。だけど、付き合えていない。
……難しい……。
客観的に考えただけなのに、一体護は誰が好きなのか。誰の想いが一番強いのか。分からない。
咲夜さんと麻依。この場で客観的に見れるのは二人だけだろうか。麻依が見てる感じ、他の皆は護のことが好きなように思える。本当のことは分からないけれど。
これが本当のことだと仮定すると、これからも麻依は客観視し続けることが出来る。
誰の邪魔もしない。邪魔をしようとも思わない。出来るのは応援だけ。もちろん、麻依は悠樹を応援する。一番の親友だから。
……頑張って欲しいなぁ……。
悠樹が悩み事を打ち明けてくれたりすることはあまりないけれど、今後、そういうことがあるかもしれない。そういう時は、力になりたい。
恋をしたことがないから、恋をした人の気持ちを完璧に理解することは出来ない。
どこまで力になれるか分からないけれど、応援したい。
それが、親友としての役目だ。




