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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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希望 #2

でも、それは本心ではない。少しでも護と付き合える、そんな可能性があるのなら、その小さな希望に夢を見てもいいのかもしれない。本当に、小さすぎる希望に。

護を好きになっていいのだろうか。皆の輪の中に入っていいのか。佳奈の家に来てから、より考えるようになった。心の中を占めるようになった。

……護君は……。

今、何を思っているのだろうか。真弓が護のことを好きかもしれない。それを知っているのは、悠樹だけ。

だから、悠樹以外の人には気付かれることなく、護に近づくことが出来る。護に聞くことが出来る。

「護君は誰が好きなの? 」と、聞くことが出来る。

でも、そんなこと出来るわけがない。聞けるわけがない。

少しばかり、楽しみにしている自分がいるのだ。護は誰が好きなのか。知らない立場で、皆のことを 見守っていたいと思っている。

だけど、もし、護のことを想うのなら、想いを伝えるなら、皆のことを気にしてられない。自分のことで精一杯になってしまう。

……どうしよっかなぁ……。

悩む。悩まなければいいのに。自分の想いに真っ直ぐになれればいいのに。


佳奈と杏に挟まれながら、遥は二人の話を聞いていた。一つ上の先輩。自分より圧倒的な存在感を持つ二人に挟まれるというのは、少々憂鬱な気分になってしまう。

……はぁ……。

二人を交互に見てからため息をつく。

「ちっちゃいよね………………」

落胆しなくてもいいかもしれない。だけど、落胆せざるを得ない。特に、二人を見ていると。成美は渚を見ていてもそうだ。悠樹を見ると、ちょっと落ち着く。

……護君は……。

どっちの方が好きなのだろうか。やっぱり、大きい方が好きなのだろうか。もしかして、小さい方が好きなのだろうか。

一般的に、一般的に考えて、大きい方が好きだと、そう考えるのが妥当だ。護だって男の子。夢が詰まってる方がいいだろう。

……むむ……。

護はそんなのを気にしない。優しいから、そんなちっぽけなことは気にしないだろう。でも、簡単に片付けられることではないのだ。

だけど、どれだけ頑張ろうと、一度止まってしまったら、もう成長はしない。少しだけだ。そこには、少しだけの希望しかない。

「はぁ………………」

今度は、ため息がくちに出てしまう。

「どうしたの? 遥? 」

「どうかしたのか? 遥」

「い、いえ……。何でもないです……」

二人に言えることではない。絶対に分かってもらえない。自分が羨む存在なのだから。

「そうか? それならいいんだが……、お前がため息つくのが何か珍しくてな」

「そういえばそうだね」

何が理由でため息をついたのか、とても気にしている。知りたそうにしている。だけど、言えはしない。

「ほ、本当に何もないですって……」

「ほんとー? 遥」

ニヤニヤとした顔つきで、杏が聞いてくる。

「少し……気に当てられたかもしれまけん……」

……そう……。

そういうことにしておこう。気に当てられた。別に嘘ではない。だから、杏も佳奈も信じてくれるだろう。

「そっか」

遥は楽しみにしていた。七夕パーティーを。護と同じ場所にいることが出来るから。

でも、少しだけ、気が滅入ってしまう。

護を好きになった理由。それは、一目惚れだった。背が高く、優しそうだと思った。

実際、護と過ごしてみて分かった。

護は優しい。優しすぎる、と。

それは決して、悪いことではない。むしろ、いいことだ。だから、護には人が集まる。皆、護の優しさを求めているのだ。

「別の料理食べてくるな。せっかく咲夜が作ってくれた料理だ。全部の味を知っておかないともったいない」

「あ、はい。分かりました……」

「んー。了解」

佳奈が動いた。護の隣ではない。雪菜と心愛がいるからか、佳奈はそこを避けた。まだ時間はあるから今はいい、ということなのだろうか。

「ねぇ、遥? 」

「何ですか…………? 」

杏はこちらの目を見ずに、遥を視界に入れず、話しかけてくる。同じように、遥も杏を見ることなく声を返す。

「前にも言ったかもしれないけど、遥は私の背中をおしえくれたよね。護の家に泊まった時に」

「あぁ……。でしたね」

思い出してみる。その時のことを。悠樹と成美が護の部屋に行ってしまった時、遥も行こうとして杏に止められたあの時のこと。

杏はもう三年だから、少し引こうとしていた。付き合ったとしても御崎高校で過ごせる時間が少なくなるから。そんな理由だったような気がする。

だから遥は、そんな杏の背中を押した。諦めたら駄目です、と。

そう人に言っておきながら、今度は自分が諦めようとしている。護に対する想いを。

諦める。それは簡単なことだ。護のことが好きだ、という気持ちを無しにすればいい。無かったことにすればいい。

でも、それでいいのだろうか。

「諦めちゃ駄目だよ」

「杏さん……」

諦めてはいけない。それくらいのことは分かっている。だけど、この状況、諦めたくなってしまう時もある。

だからといって、望みがないわけではない。希望がないわけではない。

護は誰が好きなのか。誰に惹かれているのか。もちろん、そのことは誰も知らない。だから、こうして皆頑張っている。

「護のこと、好きなんでしょ? 」

「は、はい……」

直球な質問。もちろん、はい、と答える。

どれほど好きなのか、それは分からないけれど、好きだという気持ちに嘘はないから





……やっばいな……。

薫は心の中でため息をつく。ここに来てから、佳奈の家に来てから、七夕パーティーが始まってから、何も出来ていない。

頑張ろうと、そう決めたはずだった。それなのに、護の隣にすらいられてない。

これは誤算だ。よもや、こうなるとは思っていなかった。いや、考えていなかっただけかもしれない。自分の隣に護がいない、というそんな状況を。

青春部に入るまでは、ずっと護と一緒にいたといっても過言ではない。

幼馴染として、一緒の時を過ごしてきた。部活の時もだ。家族ぐるみで旅行したり、子供の時は一緒にお風呂に入ったり。思い出を数えればキリがない。数え切れないほどの思い出が、絆が、薫と護との間にあった。

幼馴染。この関係はとてもいいものだった。何か噂が立ったとしても、幼馴染だからと言えばそれだけで良かった。

でも、薫は、そんな関係を変えようと思った。だから、あの時、葵と心愛の気持ちに勘付いていながらも、護に告白したのだ。

ハンドボール部をやめて青春部に入った。

その選択が良かったのか。それは分からない。護といれる時間が減ってしまったようなそんな気がするけど、分からない。自分が分からないのなら誰にも分かることが出来ない。

小学校の時中学校の時、中学校の時は咲がいたけれど、薫が護を占領していたといってもいい。薫の存在が、他の女の子達を抑制していたといってもいい。

だけど、今はそんなことない。それぞれが、自分の信念を持って行動している。そんなの見てるだけで分かる。皆、同じ想いを持っているのだから。

……どうすればいいのかなぁ……。

護の隣に居続けたい。ずっと永遠に。それは希望だ。叶えたい望みだ。一番、護との絆が深いのは薫だ。

それが心の支えになっていた。落ち込みそうになった時、いつもそう思っていた。

……護と一番仲が良いのは私だ……。

と。

そうだ。そうなのだ。今からを築くためには過去が必要だ。過去ばかりに囚われていてはいけないが、昔のことを考えないといけない。

過去があっていまがある。そして未来に繋がる。

護との過去が一番深いのは薫だ。

「………………頑張ろ」

くよくよしていてはいけない。今出来ることをやらないといけない。何かをするためにここにいる。

何が出来るのかを考える。考えてそれを実行に移す方法も考える。

……考えることばかり……。



「はぁぅ………………」

誰にも気付かれないように、葵は息を吐いた。

……昨日から……。

護と一緒にいた。葵と護は昨日からここまでの間、ほぼずっと一緒にいた。

二人きりになるために勉強という理由で護を家に呼び出して、同じ時を過ごそうとした。

計画は完璧だった。完璧なはずだった。それなのに、壊れてしまってこうなってしまった。

言い方は悪くなってしまうが、勉強を餌に護を呼んだ。

護、葵、薫、心愛。この四人を比べると、もちろん一番勉強出来るのは葵だ。そして、護と薫がそんなに変わらないとして、心愛がちょっと二人より下。

護は勉強を教えてほしいと言っていた。葵は勉強を教えるのが好きだ。お互いの利害が一致した上で、自分のために護を呼び寄せた。

勉強は出来た。教えることが出来た。ララとランの邪魔があったものの、その目的は達成出来たであろう。

でも、葵にとって、そんなことはどうでも良かった。護と二人きりで過ごしたかったのだ。そのために、皆に、他の青春部のメンバーに気付かれないように行動をしてきた。

結局、気付かれはしなかった。だけど、当初の目的は破綻した。この場にいる限り、二人きりになるのは難しいだろう。よほどのひらめきが必要と思われる。

……護君と……。

一緒にいたい。隣にいたい。そのことだけを考えていた。そのことだけに頭を回していたこの二日間。

それは無駄だったのだろうか。

いや、無駄じゃなかったと思いたい。この時間もいずれ報われる時がくると思う。

そのためには自分が頑張らなければならない。

頑張ってきたはずだ。護が薫の手伝いとしてハンドボールをしにいこうとした時も、葵はついていった。自分の知らない護を知るために。護の頑張っているところを見たかったから。

そこは成功した。護のプレーも見られたし、護の優しさにも触れられたし、護にはハンドボールを教えてもらうことも出来た。また教えてくれる、という約束を取り付けた。

七夕パーティーが始まるまではそれまでに頑張った。だけど、始まってからは何も出来ていない。

時間はあと半分。半分も残されているとも考えられるし、半分しか残ってないとも考えられる。

これはもう、自分の心の持ちようだ。自分がどう思うかによって変わってくる。

……恋も……。

そうなのだろうか。

叶うと思えば叶う。叶わないと思えば叶わない。護の気持ちもあるけれど、自分の気持ちが大切なのだろう。この場に来て、それをより実感した、実感してしまったような、そんな気がする。

……頑張りましょうか……。

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