表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
20/384

お泊り会 #1

 葵の提案に織原先輩が乗った形で成立したお泊り会であったが、俺は、織原先輩がもともとそうしようと思っていたのではないかと思っていた。


 昼ご飯を食べ過ぎたのは皆一緒ではあるが、あそこの二時間の休憩は必要なかったのではと思う。例えこれが織原先輩の策略であったとしても、葵の家に泊まれるのであるから嫌な気はしない。


 もし、ここに羚がいたら飛んで喜ぶだろう。


 ふと外の方に目を向けて見ると、麻枝先輩がぼーっとしていた。


 「麻枝先輩……?」

 「ん? どうしたんだ?」

 「どうした、というわけではないんですけど……。麻枝先輩がぼーっとしていたものですから」


 そう言うと麻枝先輩は。


 「そうか……。自分ではそういうつもりはなかったんだが…………。あ、そうだ。きちんと親御さんには電話したのか?」

 「はい。さっきしておきました。電話越しでも、母が喜んでるのがわかるくらいテンションは高かったですが……」

 「それはそうと、宮永は…………、どう思う?」

 「どう思う? と言いますと?」

 「この、お泊まり会のことだ。私には、杏がそうしようとしていたとしか思えなくてな」

 「麻枝先輩もそう思っていたんですか?」

 「そうだ。宮永もそう思っていたんだな」

 「えぇ。まぁ、織原先輩のテンションを見てればそのくらいは分かって当然かなって。他の皆は分かっていないみたいですが……」

 「そうみたいだな。悪いな。宮永。杏の付き合わせて」

 「いえ。そんなことは気にしてませんよ。楽しいですから」

 「そうか。それなら良かった」


 聞きたいことがあったんだった。


 「それにしても、麻枝先輩は小さい頃から織原先輩と一緒にいたんですよね? 大変じゃなかったですか?」


 麻枝先輩は首を降りながら答える。


「そんなことはない。一度もそう思ったことがないと言うと嘘になるがな。私も宮永と一緒で楽しいから、ずっと一緒にいるんだ。それは杏も同じはずだ」


 お互い固い絆で結ばれていることが分かった。


 麻枝先輩が織原先輩の暴走を止めているところを、部室でもよく見る。


 「宮永もいるだろう? そういう風に思える友達が」

 「薫や心愛、葵がそうですね。あ、呼び方、下の名前で呼んで良いですよ。皆、俺の事は護って呼びますから」

 「そうか。少しそう呼んで良いものかと思っていたんだ。それなら次からはそう呼ばせてもらう。私の事も佳奈と呼んでくれてもいい」

 「わかりました」


 後ろから声がかけられる。


 「二人ともそんな所でなにしてるんだ〜? トランプをするからこっちに来て」


 織原先輩と葵がいないと思っていたら、どうやらそれを探していたかららしい。


 丁度、佳奈先輩との話も一段落ついたところだったし、薫達もこっちに来て欲しそうな顔をしていたので、俺たち二人はそこに向かった。


 「じゃ、行きますか」

 「そうだな。トランプなんて久しぶりでもあるしな」


 そう言われるとそうである。


 昔に薫とよくした覚えがある。


 「トランプをするのは良いんですが、一体何をするんですか?」


 俺は織原先輩にたずねる。


 「うーん……。人数が多いから七並べにしようと思うんだけどそれでいい?」

 「良いですよ。それが一番この人数に合うと思いますし」

 「それじゃ、私が皆に配るから適当に座って」


 この時、俺の横に誰が座るかで揉めたのはまたいずれ話す事にしよう。



 さんざん揉めた後、織原先輩がじゃんけんで決めたら? と言ったため、それからはすぐ決まった。


 それなら早く言ってください、と俺は思った。


 なぜなら、薫達が揉めているところを、織原先輩は楽しそうに眺めていたからである。


 まぁ、そんな事があり、俺の横には葵と心愛が座る事になった。


 「じゃ、それじゃ始めるよ〜」


 織原先輩のテンションに俺と佳奈先輩はこの先のことを思いつつ、苦笑いをするのであった。



 織原先輩の発案で始まった七並べは、白熱の試合であった。

全部を伝えても良いのだが、それは面白いのかどうかは分からないので、終盤だけをお伝えしよう。


 「織原先輩。ハートの八を止めてますね」


 もう皆の手札が一枚辺りから三枚くらいになっているのにもかかわらず、ハートの七の次の八がでていないために、俺はラスト一枚となったハートの十を出せないでいる。


 「そうだよ。そんな心配しないでも私が上がれる時に出してあげるから」


 そうなると、当たり前の事だが織原先輩が一位になる確率が高い。


 「杏。あまりいじめるものではないぞ」

 「そんなことを言いつつ、佳奈だって止めてるカードあるでしょ」


 佳奈先輩は痛いところをつかれたようで。


 「そ、そんなとこはない……」


 と否定していた。


 佳奈先輩。口ではそう言っていても、先輩の態度で分かります。


 しかし、場を見る限り佳奈先輩が止めているのはおそらくスペードの六だろう。


 佳奈先輩がそれを止めている限り織原先輩は上がれないだろう。そして、俺もあがれない。


 (なんということでしょう)


 「護君。次です」


 葵が声をかけてくれる。


 「織原先輩がハートの八を止めているのでパスです」

 「あたしもパスです」


 心愛もパスらしい。


 心愛も残り一枚であるから、俺と同じくハートの八以降のカードを持っていて出せないでいるパターンと、佳奈先輩が止めていて出せないというパターン。


 織原先輩の番も過ぎ、佳奈先輩の番も過ぎ、高坂先輩に移った時、高坂先輩が出したカードに織原先輩のその悠々としていた表情は一気に崩れ去った。


 「杏部長」


 高坂先輩が淡々と告げる。


 高坂先輩が出したのはジョーカーのカード。いわゆる、それを出されたらその位置のカードを出さなければならないというやつである。


 「うっ……」


 織原先輩は今まで大切にしてきたものを手放すかのようにして、場にハートの八を出した。


 高坂先輩は俺の方を見つめてくる。


 それは無言ではあったが、その目線は、これで上がれる?と言っているように思えた。


 ありがたい。これで誰かがハートの九を出してくれれば上がることが出来る。


 「私。これで上がりです」


 そう言い葵が出したのはハートの九。


 これで俺も上がることが出来る。


 「俺も上がりです」


 これに続き心愛がハートの十を。渚先輩がハートの十一を。成美先輩がハートの十二。高坂先輩がハートの十三を出し上がった。


 織原先輩がカードを出したことによって6人が上がれた。


 場に出てないのは佳奈先輩が止めていると思われるスペードの六より前のカード。佳奈先輩の手札はそれだけなので、先輩が出して上がらないと織原先輩、薫は上がれない。


 「はぁ、これは仕方ない。杏を上がらさない為にずっと出していなかったんだが、私はこれを出さないと上がれないし、薫も上がれないだろう?」

 「はい」


 薫は首を縦にふる。


 よほど織原先輩を最下位に陥れたいらしい。


 ここで佳奈先輩はスペードの六を出した。


 残る手札は薫が二枚。織原先輩が三枚。


 持っているカードにもよるが普通なら薫の方がら先に上がるだろう。


 案の定、先に上がったのは薫だった。


 織原先輩の、自分の目論みを砕かれその表情は、いつもの先輩ではなく少しさみしいものではあったが、その隣にいる佳奈先輩が嬉しそうな顔をしているので、なんだがそんな先輩を見ているのも良いかなと思えてくるのであった。


 そう思ったのも束の間、織原先輩の顔から寂しそうな表情はすぐに消え、その表情はまたしても何かを企んでいるかの様な表情へと一転した。


 「よし! これは負けたけど神経衰弱なら負けないよ。これでも私、記憶力良い方だからね」


 こう高らかと宣言するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ