三通の手紙
俺、宮永 護は自分の下駄箱の前で固まっていた。
(……………………)
自分の出席番号と照らし合わせてみて、もう一度下駄箱を開ける。やはりそこには三通の手紙があった。
(ラブレター……?)
いやいやいやいやいや。そんな事はないはず。まだ入学してから一ヶ月しか経っていないし。しかも、俺に?
そんなことを考えていると左隣から声がかかった。
「おっはよー!護!」
この少女は安田薫。小学生の時からの付き合いで男子女子関係無く一番仲がいい。いわゆる幼馴染ってやつだ。
俺はその三通の手紙を瞬時に鞄に入れ、普通を装いながら対応する。
「おはよ。薫は決めたか? 部活」
「決めたよ。ハンドボール部に入るつもり」
「やっぱりそうか。薫、強いもんな」
薫は小学生の時からハンドボールをしていて、中学の時には全国大会にも出ていて、かなり実力がある。昔から一緒にいたおかげで、俺も人並み以上にはハンドボールができる。が、やはり薫にはかなわない。
「そんなことないよ」
と言いながら薫は照れ隠しのためか俺をバシバシと叩いてくる。痛い、痛い。止めてくれ。お前力強いんだから。
バシッ!
ハンドボールで鍛えられた強烈な打撃が俺の鳩尾に命中し悶絶する。
「お前、なんてことするんだ」
「いや、なんか護が失礼なことを考えていたような気がして」
「そんなことはないぞ」
変なところで察しの良いやつである。
「そんなことより、護はどうするの? 」
「俺? 俺は帰宅部に……………………」
「また入らないの? 中学の時もそうだったじゃない。あたしがせっかくハンドボール部に入らない?、って誘ったのに」
薫が言うことは事実であった。 小学六年のときにはすでに俺達が住んでいた町内ではすでに薫のことは有名になっており、俺と薫の差はかなり開いてしまっていた。そのため俺はハンドボール部に入ることを辞めたのだった。これ以上続けていても薫には追いつけないと思ったから。
「別にいいじゃん。俺の事は。練習だったらまた付き合ってやるからさ」
「そうならいいんだけどね……」
そう言いながら薫は自分の下駄箱から上履きをとり履き替える。俺も上履きに履き替え、教室に向かった。
〇
「おっす。護。安田さん」
教室に入ると羚が話しかけてくる。
「おっす。羚。今日はどうした? いつもより早いじゃないか」
「なんだその俺が遅刻の常習犯みたいな言い方は」
羚が口を尖らせながら言う。
「いや、お前。遅刻の常習犯だろ。この一ヶ月で何回遅刻してるんだよ」
「うん、うん」
ほら見ろ。薫も頷いている。
「八回だけが……、それがどうかしたか? 」
「どうかしたか? じゃないだろ。週二のペースで遅刻してるじゃないか」
「気にしたら駄目だぜ。そんなこと」
気にしろよ。
さすがに高校生にもなって遅刻していたら駄目だろ、なんてことは口には出さない。言ったところで治るものではない。気持ちの問題だい。
「でも吉田君。少しは気をつけた方が良いんじゃない? さすがに多いし先生だって怒ると思うんだけど」
薫の温かいお言葉である。
「以後、気を付けます! 」
俺が薫と一緒のことを羚に言ったとしても、羚は耳を傾けすらしないだろう。こいつは薫だからこういう反応を示したのである。いや、薫だけではない。女子に言われるとこいつはなんでも従う。単純で分かりやすいやつである。
キーンコーンカーンコーン。
ホームルームの始まりを告げる音がなる。
「皆さん。席に着いてください」
そう声をあげるのは担任の山田先生である。その可愛らしい雰囲気と愛嬌で女子や一部の男子からの人気が高い。
先生に従い皆が席につく。
「そろそろ皆さんが入学してから一ヶ月が経ちます。学校にも慣れてきたこととは思いますがあまり気を抜かないようにしてくださいね」
先生の話の途中であったが、俺は鞄を取り出して三通の手紙を確認する。
(うーん……)
やはりこれってラブレターなのだろうか。しかし、まだ入学して一ヶ月しか経ってない。普通であればこの時期に好意を寄せてくれる人がいるとは思い難い。普通であれば。
「では、これで今日のホームルームを終わります」
気がつくとホームルームはすでに終わっていた。ヤバイ。先生が何を言っていたのか思い出せない。
〇
放課後。
俺は、教室近くのトイレの個室にいた。
羚の「途中まで一緒に帰ろうぜ」っていう誘いを断りここまできていた。ラブレターかもしれない手紙を羚に見せたら、何を言われるか分からない。
もう一度手紙を取り出す。その三通の手紙の裏には、宮永護さんへ、という六文字。差出人の名前も無かった。手紙を開け中身を確認する。
「…………」
その三通の手紙の全てには、屋上に来てください、という文字が書かれていた。しかし好都合なことに指定された時間はすべて違うものだった。
とにもかくにも俺は屋上に向かうことにした。