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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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希望 #1

「あ…………………………」

護が離れていく。さっきまで近くにいてくれたのに、離れていってしまう。心愛と雪菜を連れて。自分の隣から、護が離れていく。

……私も……。

そう言えばいい。そう言えばいいはずなのに、渚は行動に移すことが出来なかった。今、自分がついていけば護の迷惑になってしまうと、そう思ってしまったのだ。

「渚、良いの? 」

「お姉ちゃん……………………」

いいわけがない。護の隣にいたい。そのために、渚はここにいる。頑張ろうと思った。今までの自分を変えようと。

「さっきまで……私が護君を独り占めしてたから………………」

「我慢するの……? 」

「そういうわけじゃ…………」

我慢してるわけではない。渚は自分にそう言い聞かせる。だけど、やっぱり、我慢しているようにしか見えないのだ。成美が言うように。

「渚? 」

「何……? お姉ちゃん」

「想いは、伝えた? 」

渚は横に首を振る。

「そっか」

伝えようと思った。伝えるために二人きりになった。想いを伝えないと、何も始まらない。だから、護に好きだと、言うはずだった。言わなければならなかった。

だけど、無理だった。

「無理だよ……………………」

「諦めるの? 」

「諦めない……。けど……」

「遠慮はしないほうがいいよ? 」

「お姉ちゃん……………………」

成美も護のことが好きなはずなのに、大好きなはずなのに、渚の背中を押してくれる。自分の恋敵(ライバル)が増えるというのに。

「時には遠慮も必要だったりするけどね……」

成美は乾いた笑いをする。

成美は渚のことを下に見ているわけではない。同等に、もしくは成美以上だと見た上で、後押しをしてくれる。

「想いは伝えないと。自分の中に閉まっておくのが一番駄目だよ? 渚」

「うん……。分かってる」

想いを伝えた上での勝負。ガチンコの勝負。それで勝たないと、張り合いが無い、そういうことでもあるのだろう。

……やっぱり……。

伝えないといけない。成美のこともある。

「チャンスあるかな………………」

一度、チャンスを逃してしまった。この場で、皆がいる中で、また二人きりになるのは至難の技だろう。

「渚が頑張るしかないよ」

「そうだよね……」

そうだ。その通りだ。背中を押してくれはする。だけど、頑張るのは自分なのだ。自分が頑張らないと、想いは伝わらない。

「もう一回、頑張ってみる」

どこまで出来るのか分からない。けど、心に決めた。

「うん。頑張れ」



……ちょっと残念……?

せっかくの二人きり。告白出来るチャンスがあったのに、渚は告白をしてこなかった。

決して、告白が全てではない。だけど、想いは伝えないといけない。伝えないと、何も始まらない。

だから、成美は、渚が告白してくると思った。髪型を変えることを勧めたり、背中を押したりもした。ちょっとだけ、残念。

……でも……。

渚は頑張ると言った。なら、成美はそれを応援する。

この応援は、自分が引くという意味ではない。一緒に頑張るための、応援だ。

成美は渚の気持ちを知っている。渚は成美の気持ちを知っている。そして互いに告白したとなれば、遠慮がいらなくなる。

もう、渚に対して遠慮はしたくない。もう、そういう時期は過ぎたと思いたい。

貪欲に。

強欲に。

護の隣にい続けるために、出来ることはいっぱいある。今日の七夕パーティーだって、それの一貫。

そろそろ、皆が本気を出してくるころだろう。なら、成美も本気を出さないといけない。これまで以上に。

「告白………………」

誰にも聞こえないような、成美にだけ聞こえるような、そんな声で渚がつぶやく。

そもそも、渚と成美の二人は、男の子を好きになったことがなかった。護が初めて。ということは、もちろん、告白するのだって初めて。

……かなり恥ずかしかったし……。

成美は思い出してみる。その時のことを。それだけで、顔が真っ赤になってしまう。

初めて男の子を好きになって始めて告白した。それが護。護に出会って変わった。成美も渚も。

自分を変えてくれた、そんな護に感謝したい。ずっと隣にいたい。この大好きだという気持ちを持ち続けていたい。

決して、この想いは無駄にならない。無駄になるはずがない。

「護……………………」

渚から護に視線を移す。

いつも通りの護。今日は七夕だ。この場がなにを意味するのか。もしかしたら分かっているのかもしれない。だけど、護はそれを表に出してはいない。

どちらにせよ、気負ってるのは、自分達だけだ。

護はいつも通り。何も変わらない。女の子に囲まれているのもいつも通り。その人数がいつもよりちょっと多いだけだ。それでも、護はそれに慣れている。

自分達が、護をそういう環境に慣れさせたと言えよう。

……さてと……。

何か、行動を起こそうか。まだまだ時間はある。まだまだ護といれる。まだまだチャンスはある。

待っていてはいけない。自分からいかないと。




……成美……?

護を目で追いかけていた悠樹。途中、成美の視線とバッティングしてしまう。

成美が微笑んだ。それも、何か含みのある笑みだ。悠樹はそう思った。

……そっか……。

成美だって、護のことが好き。自分と同じ想いを抱いている。護を見るのは当然だと言えよう。

護と出会って、悠樹は結構な頻度で護のことを考えていた。

護の家にも行った。護が家に来てくれた。護の隣で寝た。色々と、護の気持ちを自分の方に寄せようと、頑張っていた。

それらの全てが成功しているのか。それは分からない。護が誰が好きなのか、それも分からない。

「………………護」

今、護の隣にいるのは、心愛、雪菜、咲夜。咲夜が何かを説明している。この位置からは、何を話しているのかは分からない。

護の隣にいれたのは最初だけ。七夕パーティー終了まで二時間くらい。この後、何が出来るだろうか。何をしなければならないのだろうか。

……ん……。

しなければならない。そう考えるのが駄目なのだろうか。自分の中で強制にしてしまっているのが駄目なのだろうか。

何が起こるのか。分からない。だから、柔軟に対処することが必要。ひたむきに頑張るだけでは駄目なのかもしれない。

「ねぇ、悠樹ちゃん? 」

「何? 真弓先輩」

近くに佳奈がいる。だからか、真弓は少し声をひそめている。佳奈は遥と杏と話しているから聞こえないとは思うけれど。

「悠樹ちゃんは凄いね。うん……。素直にそう思うよ? 」

「どういうこと…………? 」

真弓が何を言いたいのか。悠樹には分からなかった。

「護君のこと、そんなにも想ってるんだね。悠樹ちゃんは」

「うん」

悠樹は頷く。本当のことだから。嘘をつく必要はないから。必要のない嘘は嫌いだ。

「うんうん。見てるだけでも伝わってくるよ。悠樹ちゃんの気持ち」

「そう? 」

「うん」

護を想う気持ち。その気持ちは確かなものだ。大きいものだ。それを、真弓は認めてくれた。そういうことだろう。

「でさぁ、悠樹ちゃん」

「ん? 」

「私が青春部に入る、って言ったらどう思う? 」

……青春部に、入る……?

それはどういうことを示しているのだろうか。真弓のどういう気持ちの変化を表しているのだろうか。分からない。

「どういうこと……? 」

「そのままの意味だよ」

「真弓も、護のことが好き? 」

「うーん……。断言は出来ないかな…………」

「………………? 」

「護君には迷惑…………かけたくないしね……」

真弓の口振りから、もう青春部に入る、そのことは決心しているのだろう。それなのに、真弓は悩んでいる。護を好きになるかどうかを。

「好き。そう解釈していい? 」




……真っ直ぐだね。悠樹ちゃんは……。

本当に、真っ直ぐだ。眩しいくらいに。いや、眩しすぎるくらいに。

もちろん、真弓にここまでの気持ちはない。

護のことが好きだという気持ちは、心のどこかにあるかもしれない。探せば見つかるかもしれない。

「好き、と解釈していい?」と、悠樹は言った。おそらく、「うん」という答えを求めているのだろう。そうじゃなければ、そんな質問はしない。

真弓がその輪の中に入ってしまえば、恋敵

ライバルが増えることになる。それなのに、今でも大変だろうに、悠樹はそのことを気にしてないようにみえる。

「護君を好きになっていいの? 」

「構わない」

……悠樹ちゃんにはかなわないなぁ……。

瞬時に返ってくる答えに対して、真弓はそう思った。

「本当に……、いいの? 」

「うん」

悠樹はブレていない。

悠樹はずっと、思い続けているのだろう。強くなり続ける想いを。

「悠樹ちゃんは負けず嫌いだったりする? 」

「分からない。急に何で……? 」

「そう思ったから」

「見える? 負けず嫌いに」

「ちょっとだけ」

口に出したのは嘘だ。本当は、かなり負けず嫌いにみえる。護のこととなると。

この七夕パーティー然り、護と喋るようになってから、真弓は皆のことを、青春部のことを見ていた。

その中で、嘘偽りなしに、護への気持ちが一番大きいのは悠樹だと、真弓は思った。杏でも佳奈でもない。この七夕パーティーで、それが確信に変わろうとしている。

なにも、悠樹以外の皆、杏、佳奈、成美、渚、葵、心愛、薫の想いが足りないとかそういうわけではない。上から目線になってしまうけど、見ている限り、皆頑張っている。

だけど、悠樹が群を抜いている。真弓の目にはそう映っている。

「護君に告白はしたんだよね? 」

「もちろん」

護は誰にも返事をしていない。そりゃ、選べるわけがない。もし、真弓が今の護の立場だったら、同じ境遇になっているだろうと思う。

……こりゃ、どっちも大変か……。

これから、悠樹を含め皆のアプローチは強く勢いを増していくことだろう。この七夕パーティーだって、その始まりにすぎない。

そして、皆が頑張れば頑張るほど、護は迷うことになる。誰を選べばいいのか分からなくなってしまうだろう。誰かに相談したいとか、そんなことを思うかもしれない。

……なら……。

真弓はどの立場に立つべきなのだろうか。護への気持ちを抑えながら皆のことを応援し、護がもし困っていたら支える。

そんな立場が自分にとって相応しいのではないか。

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