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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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チャンス #3

成美は考える。この場に来た意味を。自分から七夕パーティーを提案した意味を。

何かしなければならない。しなければ、ここに来た意味がない。何をしに来たのか分からなくなってしまう。

……はぁ……。

もう一度、ラタトゥイユを、ラタトゥイユの具である赤ピーマンを、口に運ぶ。

……美味しい……。

ここまでの料理を、成美は作ることが出来ない。いくら護のことを思っても、これほどまでの完成度を誇る料理は作れないだろう。これは、咲夜だから出来るものだ。

……羨ましいなぁ……。

純粋にそう思う。自分もこれだけ料理ができればなぁ、と思う。

料理をしないわけではない。それなりにする。護にも一度食べてもらったこともある。美味しいと言ってもらえた。その時は、とても嬉しかった。

咲夜も、護からその言葉が聞きたかったのだろう。だから、ここまで頑張ったのだろう。わざわざフランス料理を作ったのにも関係しているのかもしれない。

……不知火さんの……。

気持ちはどうなのだろう。杏と話している咲夜に目をやる。楽しそうに、本当に楽しそうな、笑顔がそこにあった。

護のことが好きだということはないだろう。異性として好きだということはないだろう。年が離れすぎている。一回りも。

恋愛に、人を好きになるのに、年は関係ない。そう思っている。だけど、咲夜においては、大丈夫だ。そういう変な自信があった。

……だって……。

咲夜は佳奈の執事だ。佳奈は護のことが好きだ。もちろん、そのことを咲夜は知っているだろう。簡単に分かってしまうだろう。分かってしまったのなら、咲夜は佳奈の応援をするはずだ。するに決まっている。

……あぁ……。

成美は再び自覚する。本当に護のことが好きなのだと。今も、護のことしか考えていない。護を通してでしか、他の人を見ていない。

「届いて欲しいな。この想い……………………」

そう、つぶやく。誰にも聞かれないように。聞かれても困るわけではないけれど。

こんなにも護のことを想っているのだ。だけど、この想い。どこまで護に伝わっているのだろうか。どこまで護に伝えられているのだろうか。

想っていても、その想いが伝わらないと意味がない。好きだと、告白している。だから、一応、気持ちは伝わっている。成美の気持ちを護は知っている。

……もう戻ってくるかな……。

そろそろ、だろう。護が戻ってくる。渚と一緒に。二人きりで何をしていたのだろう。渚は自分の気持ちを伝えたのだろうか。

せっかくのチャンスだ。二人きりになれるチャンスだ。いくら、渚でも、これをいかさないといけないということくらいは知っているだろう。

……頑張ってよ……。

自分の恋敵(ライバル)になる。それは分かってる。でも、それでもいい。

自分の気持ちを伝えない。そのことが一番駄目だから。




「護君。お待たせ」

どれくらい時間が経ったのだろう。話をしている時間の方が長かったかもしれない。別に、二人きりじゃないと出来なかったような話はしていない。こんな場所でする話ではなかったかもしれない。

でも、渚にとって、場所は関係なかった。護とゆっくりと話せる、それだけで良かったのだ。

「それじゃ、戻りましょうか」

「そうだね」

戻らないといけない。皆のもとに。少しだけ、戻りたくない。でも、戻らないといけない。やっぱり、不審がられる。嫌だけど。

ここの洗面所から出て、中庭に戻ると、この時が終わる。楽しい時間が終わる。


「あ…………………………」

咲夜はふいに、空を見上げた。七夕の空。もう空は暗くなっており、星が疎らに見える。

天の川が見えるはず。なのに、疎らにしか、星が見えない。

「どうしたんですか? 咲夜さん」

「空、暗くなってきたかもしれません」

「………………? 」

咲夜と同じように、杏も空を見上げる。そして、少し、残念そうな顔になる。

「雨が降るかもしれません」

日中は晴れていたのに。天気では雨が降るなんて言ってなかったのに。

「そうなってしまったら………………嫌、ですね」

「そうですね。杏様」

少なくとも、雨が降ってしまうとこの場にいられなくなる。外にはいられなくなる。家の中に戻らないといけない。

わざわざ、この中庭で、花がいたるところに飾られているこの中庭で、七夕パーティーをしているのだ。雨が降ったら、意味がなくなる。

「降ってほしくないですね…………。雨」

「はい……………………」

皆、そう思っているに決まっている。咲夜が思っているのだから。

それに、まだ護が戻ってきていない。まだ、渚と二人きり。満足していない人も、たくさんいる。いるだろう。

……シャリオを戻さないほうが良かったかもしれない……。

邪魔になるだろうと思ったから、シャリオは厨房に戻してしまった。こうなることが分かっていたら、戻しはしなかった。

シャリオに乗せて料理を運んできたということはもちろん、直す時もシャリオの乗せないといけない。皆の手を煩わせるわけにはいかない。

咲夜の気持ちが、杏の気持ちが、空の色と同じように暗くなる。本当に、雨が降りそうだ。


……あ……?

麻依も空を見上げる。咲夜と杏がそうしていたから。そして、麻依も同じようにがっかりする。

「雨が……………………」

降りそうだ。

雨が降ってしまったら、どうなるのだろうか。打ち切りになってしまうのだろうか。

……いや……。

そんなことはしないだろう。この七夕パーティーを、皆が楽しみにしていた。

もちろん、麻依だって、だ。

皆がどんな行動を取るのか。麻依は、それが少しだけ楽しみだった。麻依は見物人だから。気は楽。護のことを考えて一喜一憂しなくてもいい。

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