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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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苦しみ

……すごい、この味……。

心愛はレベルの違いを感じていた。自分が料理をしたとしても、ここまでの味は絶対に出すことが出来ない。出来るはずがない。そもそも、自信がないから。

野菜の味が口の中を支配するわけではない、ほどよい感じで口の中に広がっていくのだ。ここにいる全員の好みを知らないにしろ、なるべく合うように作ったんだろうなぁ、と思わせられる味だ。

隣で、護が美味しそうにラタトゥイユの一つの具である赤ピーマンを口に運んだ。

咲夜の口振りから、ここに来てからの護を見ていて、やっぱり護はここに来たことがあるんだなぁ、と実感させられる。

……不知火さん……。

その美味しさからか、護の表情に満足の色がつく。こんな表情、あまり見れない。

咲夜は、それを引き出した。心愛が知らない護を、咲夜は知っている。

……もしかしたら……。

いや、そんなことはない。自分で出した答えをすぐに否定する。

護は誰にでも好かれる。その優しさ故だ。

その優しさに惹かれた。でも、その優しさは当然他の人にも向けられる。心愛だけに向けられるものではない。

分かっている。分かっていること。

咲夜も、そんな優しさに触れただけなのだろう。護が喜んでくれるから、これほどまでに料理を頑張ったのだろうか。

……大丈夫……。

自分に言い聞かせる。まだ、これからだと。まだ、先はあると。

護を好きになって、青春部に入って、かなりの時間が経ったかのようなそんな気がしてしまうが、実際はそんなことはない。まだ、七月。護と出会ってから、三ヶ月しか経っていない。

護はまだ決めてないだろう。告白を受けた中から、誰と付き合うのか。まだ、迷っているはずだ。迷っていてほしい。

本命が心愛なら問題ない。でも、そうではない可能性もある。そっちの可能性の方が高いかもしれない。自分以外の女の子に護が惹かれている可能性の方が高い。

自分を卑下しているわけではない。この場にきて、少し感じた。

同じクラスだということにあぐらをかいて、これまであまり頑張ってこれなかった。

のんびりしていても良いと思っていたのだ。今でも、少しだけ、この関係を続けていたいと願う気持ちもある。青春部のメンバーで楽しくわいわいしたいという気持ちが。

だって、それは楽しいから。落ち着くから。皆、そこは同じ気持ちだと思う。

だけど、その楽しさは、護を苦しめてしまうかもしれない。

こちらがアプローチをかければかけるほど、護は真剣に考えてくれるだろう。そしてそれは、護を悩ませてしまうことに直結する。

護は優しいから。優しすぎるから。

きっと、全員のことを考えて行動している。護はそういう男の子なのだ。他人のことを第一に考える。自分のことを後回しにする。

皆が皆、その護の優しさに甘えているのかもしれない。護が待ってくれると信じて。

心愛だって、護が答えを出すのを待ってくれていると思っている。だって、いつまでも待ってると言ったから。その答えがどちらであるとしても、護の中で決まるまで待つと言ってしまっているから。

一見、その言葉は良いように聞こえる。だけど、その言葉は、相手に自分は気がある、そう伝えているだけなのだ。

そして、相手からの答えを期待している。自分の思いを知ってどう答えるのかに期待している。

……うわぁ……。

そんな風に考えてしまったら、告白してからずっと、護のことを苦しめていたかもしれない。自分の近くに縛り付けていたかもしれない。

護の隣にいたい。護が好き。それは大切な気持ち。一生持っていたい気持ち。何があっても絶対に忘れたくない気持ち。

「あ…………」

咲夜さんが動いた。

「他の皆さんにも、料理の出来栄えがどうなのかを聞いてきますね」

「あ、はい……」

「分かりました」

心愛が返事をした後に、護の声が続く。

当たり前だ。護のためだけに作った料理ではない。当然、ここにいる皆のことを思って作られている。一番は護だとしても。

……あ……。

護の視線が咲夜から料理にへと移る時、その視線に心愛の視線がバッティングする。

一瞬だけ。一瞬だけだったが目があった。そして、護が微笑んだ。

……いつもの護だ……。

今日は特別な日だ。そして、この場も、色んな意味で特別な場所だ。

男一人というこの空間にいながら、護は平生を保っている。いつもで慣れているからなのか。

いつも通りの護が、そこにいた。

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