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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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七夕パーティー #4

「えっとね……………………」

迷ってしまう。本当に聞いてもいいことなのか。部外者の、今日初めて顔を合わせた麻依が聞いてしまっていいことなのか。それが、分からないから。

今更、と、前置きしたのにも意味がある。

麻依は今日が初めてだから分からないことだらけ。ほぼ、初対面に近い。だけど、それ以外の人達はそれなりに面識があって、今麻依が思っている疑問が当たり前のことなのかもしれない。周知の事実かもしれないから、そう前置きした。

周りに聞かれて、もし間違っていたりしたら困るから、麻依は耳打ちの合図をする。

「…………? 」

幸い、麻依と葵の身長差はほぼない。距離を詰めるだけで耳打ちが可能だ。

不思議そうな表情を浮かべながらも、葵は応じてくれる。

「葵ちゃんは……護君のこと…………好き? 」

「はい」

迷いのない答えが返ってきた。

「じゃ…………。もう一つ……」

本当に聞きたいのはこっちの方。さっきのは、確認したかっただけ。これからする質問をすれば葵のことを確認出来るのだけど。

「私を除いて…………ここにいる皆は……護君のことが………………好きなの…………? 」

「えぇ。そうだと思います」

……モテモテだねぇ、護君……。

「そう………………」

こうなってしまえば、麻依は完璧に蚊帳の外。皆の目的は、護なのだ。護との距離を詰めることにあるのだ。

「気になったりしたりするの…………? やっぱり……」

「気になるとは? 」

「えっと、こんなにいるんだから…………自分だけが隣にはいれる……わけではないわけでしょ……。自分以外の女の子が護君の隣にいたら、やっぱり、気になるんじゃないかな…………って」

恋愛を、恋を、男の子を好きになったことがないから、恋をしている女の子の気持ちは分からない。でも、これから恋をした時、その男の子を好きな女の子が自分以外にもいた時、その女の子がその男の子の隣にいたりしたら、やっぱり気になってしまう。自分だけが、その男の子の隣にいたいと思ってしまう。

いわゆる、ヤキモチ。

「それは……気になりますよ」

「やっぱり…………? 」

「はい。でも……」

「………………でも……? 」

「気にしないようにしようとは思ってます」

「何で……………………? 」

「気になりますけど……、毎回毎回気にしていたら気が持たないですから。自分だけに振り向いてもらうのが無理なことが分かってますし、それに順番です」

……順番かぁ……。

「なるほど………………」

麻依は納得する。その葵の考え方に。

順番ということは、護は色々な女の子にアプローチをかけられるということなのだろう。この七夕パーティーだって、そういう場になるのだろう。






……何の話をしているのかなぁ……。

渚は気になっていた。渚の左手側にいる葵が麻依と何を話しているのかが。

何も聞こえない。でも、護の話をしているのだろう、と、そう考えることは容易に出来る。

気になるから。護のことが。護に関する話が。

意識し始めてしまったからだろうか。よく分からない。自分の気持ちがはっきりとしていないかもしれはい。

……お姉ちゃんははっきりしてるもんね……。

成美だけではない。葵も薫も心愛も悠樹も佳奈も杏も、気持ちの整理はついているのだろう。

「自分だけかな…………」

ボソッと口に出してしまう。誰にも気付かれていないようだ。

この場にいる皆という括りではない。青春部での括り。

おそらく、いや、絶対に、気持ちが固まってないのは自分だけだ。ここにきて、それを感じることが出来る。感じてしまった。

……私は……。

自分の気持ちが分からない。本当に自分は護のことが好きなのだろうか。

好き、というその気持ちはある。でもその気持ちは、異性として好きな気持ちなのか、後輩として好きという気持ちなのか、友達として好きだと思っているのか。それが分からない。

周りの皆が護のことが好きだから、その雰囲気に流されているだけなのかもしれない。その可能性が高いかもしれない。

表立って、皆はそういう話はしない。でも、その感情を胸には秘めている。好きだと口に出さなくても、その気持ちがだだ漏れになっているのだ。

皆を見ていて、渚はそう感じていた。

だからこそ、分からない。自分の気持ちがそこまで達していないかもしれないから。

それほどまでの気持ちがあったときても、今護のことが本当に好きだと気付いても、勝てることが出来るのだろうか。皆より上に登ることが出来るのだろうか。それも分からない。

……分からないことばかり……。

本当に、分からないことだらけだ。

こんな気持ちになったのも初めて。護と会ってから、そんなことを考えるようになった。護のことをよく考えることになった。

……これが……。

気が付けば、護の事を考えていることもあった。

これが、好きだという気持ちなのだろうか。

おそらく、この答えは、自分じゃないと出せない答え。他の人に聞いたところで、納得出来るような答えは返ってこないだろう。

だって、これは渚の問題だから。渚の気持ちの問題だから。

自分についての答えは、自分でしか導けない。



……うーん……。

ちょっと残念。いや、ちょっとだけではないかもしれない。

何が残念か。護の隣にいれないことが、残念。

だって、いくら佳奈の家で開かれているといえども、発案者は成美なのだ。

だから、隣にいれるだろうと、期待を抱いていた。その期待はすぐに打ち砕かれた。隣に佳奈がいるのなら、なんとなく分かる。でも、今、護の隣にいるのは悠樹と心愛。その二人なのだ。

……どうにかして……。

護の隣に。

今のこの場所じゃ、距離を詰めようと思っても出来ない。物理的な距離が遠い。前より心の距離が近くなっているとしても、やっぱり、護の近くにいたい。隣にいたい。

だって、好きだから。好きだから、ずっと近くにいたいと思う。護のことを近くで感じていたいと思う。

この距離からじゃ話をすることも出来ない。だって今は心愛と話しているから。心愛と話していなかったとしても、少しだけ距離が遠い。

……どうしよっかなぁ……。

もうじき、咲夜が料理を運んできてくれるだろう。佳奈からちょっと話を聞く限り、それはすごい料理らしい。護にも伏せている点からも、その凄さがうかがえる。

その時になったら、場所移動が出来るだろうか。あの料理が取れないから護の隣に移動するとか。

でもそれは、成美だけが考えていることではないだろう。

……皆も同じこと考えてるだろうねぇ……。

皆、護のことが好きだから。いや、真弓と遥はちょっと分からない部分があるけど、それ以外の皆は確定だ。これは、事実。

……雪菜ちゃんも……。

今日初めて会った。初めて、雪菜を見た。護と仲良くしている雪菜を、初めて見た。詳しくは知らないけれど、仲が良いことに変わりはない。

護も大変だなぁ、と成美は思う。そうさせているのは自分達だ、とも思う。

皆、護に惹かれてしまった。好きになってしまった。それは、ある意味必然だったのだろうか。偶然だったのだろうか。

好きになったのは偶然だったのかもしれない。でも、好きだと気付いてしまった以上、護のことを好きになったのは必然だとも考えてしまう。

元は、偶然だ。護に出会ったのも、護が青春部に入ってくれたのも。護が青春部に入っていなかったら、これほどまでに仲良くはなっていなかったかもしれない。全然、繋がり自体も無かったかもしれない。

……そう考えたら……。

すごい御縁である。すごい偶然である。



「ねぇ、薫ちゃん。薫ちゃん」

「何ですか? 」

護のほうに視線を送っていた薫であったが、すぐに真弓の方に視線を移す。護は後で眺めることにしよう。

「薫ちゃんってハンドボールやってたんだよね? 」

それほど気になっているのか、猫耳髪飾りが可愛らしく動いている。

「そうですよ」

やってた。もちろん、過去形での問いだ。当たり前のこと。青春部に入ったことにより、ハンドボール部をやめてしまったから。

兼部することだってできた。だけど、薫はそうしなかった。葵と心愛の二人が護を好きでいる、ということを知っていたから。

二人に負ける、とは思ってはいなかった。だけど、ずっと護と一緒にいて、護が他の女の子と仲良くするのがちょっとだけ嫌だった。自分が見てないところで。

自分もそこにいるなら、護がどんな女の子と仲良くしていようと大丈夫だった。

「もう一回ハンドボールやろうとは思わないの? 部活で」

「今はしようと思ってます」

そう決めたのだ。朝、久しぶりにハンドボールをした時に。護をマネージャーに誘ってみたりもした。まぁ、それは実現しないだろう。

「どうして? 」

一回やめたのに戻るとなると、そらなりの理由があるはず。そう思っているから、真弓は理由を聞いてきているのだろう。自分が逆の立場だったら、真弓と同じように質問をしていたと思う。気になってしまうから。

「今朝、中学のハンドボール部に教えに行ってたんですけど……」

「うんうん。もちろん、護も一緒なんだよね? 」

「あ、はい。葵も一緒でしたけど」

「そうなんだ。それで? 」

「久し振りにやってやっぱり楽しい、面白い、というのもありますけど……………………」

「けど…………? 」

理由はもう一つある。こっちの方が、理由として強いのかもしれない。不純な気持ちかもしれないけれど。

「護が言ってくれたんですよ。薫はハンドボールしてる方が良いって」

「なるほどねぇ」

ニヤニヤとしている真弓。

「ハンドボール、もう一回やるのか? 」

佳奈にも聞こえていたのか。会話に入ってくる。佳奈にも言っておかないといけない。皆にもだ。

言うなら、このタイミングだろうか。皆が揃っているこのタイミングが良いのだろうか。

でも、今じゃなくても良いと思ってしまう。今は、七夕パーティーだ。自分の部活のことは横に置いておかないといけない。今の、七夕パーティーの雰囲気を重視しないといけない。

「もちろん、青春部をやめるつもりはしないです」

「やめられたらこっちだって困るからな。このメンバーの誰かが欠けたら嫌だからな」




……当たり前だ……。

青春部。護、薫、心愛、葵、悠樹、成美、渚、杏、佳奈。この全員で青春部なのだ。誰かがこの部に加入する。それは大歓迎だ。だが、誰かが欠けるのは駄目だ。欠けてはならない。

「杏には、私から言っておこうか? 」

「いや、自分で言います。自分のことですから」

「それもそうだな」

薫の意志は堅いようだ。ここまで薫が決心したのも、護がいてこそなのだろう。

……護は……。

皆の心を動かすことが出来る。こちらとしても、簡単に動かされているわけではない。護のことが好きだから、護の側にいたいと思うから、そういう行動を取ろうと思うのだ。

それは、皆同じ。

だから、皆、こうして参加している。七夕パーティーに参加している。

自分の想いを強くするために、願わくは、その想いを護に伝えるために。

だって、七夕だ。ロマンチックな日だ。告白するなら、ぴったりな日だろう。冬はクリスマス。夏は七夕。

自分にももう一回出来るチャンスがあるなら、しておきたいと思っている。

だけど。

……杏と真弓以外はどうかな……。

この家は広い。広すぎる。自分の家だから、佳奈は熟知している。そして、何度も何度も来ている杏と真弓も同じだ。だけど、その他の皆は、今日が初めて。

……見つけられるかな……。

二人きりになれる場所は沢山ある。もちろん、その場所は佳奈も知ってる場所。

佳奈にバレることなく二人きりになるのは、難しいことなのだ。

……ということは……。

裏を返せば、佳奈は護と二人きりになりやすいということ。皆も、杏をも出し抜けるということ。

……自分側に引き寄せる……。

自分は三年だ。前から思っていたことだが、護といられる時間はもう少ない。到底無理な話ではあるが、もっと前から出会っていたら良かったのになぁ、と思う。

……これからの未来を……。

護と一緒に過ごすことが出来れば、過去のことなんて関係ない。振り返るに値しない。未来のことだけに、期待を馳せていればいい。

そうするためには、今を、頑張らないといけない。

今は未来に繋がるものだ。望む未来に繋げられるように、頑張らないといけない。

……さぁ……。

そろそろ、咲夜が料理を運んできてくれることだろうか。その時、この七夕パーティーが始まることになる。

……頑張ろう……。



……青春部かぁ……。

青春部。青春部。楽しそうな部活だ。佳奈から杏から、よく話を聞くことが多かった。もちろん、護の話も聞いていた。そして、真弓は思っていた。

自分も入ってみたい、と。入ってみたらどんなに楽しいだろうと。

でも、今まで、そういう感情を表に出さないようにしてきた。バレないようにしてきた。

だって、青春部に入ったところで、楽しめるだけでそれ以上の価値が見込めないから。

それだけで十分。そうとも思う。でも、何故、楽しいと思うのか。そこに護がいるからだ。皆、護を基準にしている。

自らその恋の戦いの中に入って、どうすればいいのか。どうなるのか。その甘い空気に耐えられるのか。もし、護が誰かと付き合ってしまった場合でも、その絆は続くのか。いろいろ、分からないことだらけだった。

だから、渋っていた。

今でも、渋っている。

……どうしようかなぁ……。

真弓の悩みは絶えない。護の話を聞いてから。護と初めて会ったその日から。他人に優しくする護を見てから。

……好きになってもいいのかなぁ……。

好きになってしまうかもしれない。このまま護と同じ場にいると、好きになってしまいかねない。

……でも……。

好きになったとして、それがどうなるというのだろうか。好きになって告白したとして、それが何になるというのだろうか。

どうにもならない。何かが起こることもない。

護が青春部に入ってからまだ三ヶ月。いや、もう三ヶ月。自分が少しだけ関わるようになったのは最近。それまでに、皆と護との仲は深まっていた。見るだけで、簡単に分かるほどに。

少なからず、皆には護に対する好意がある。何人か、告白もしていることだろう。

そこに自分が混ざったところで、護のことが好きな仲間として混ざったところで、自分に勝ち目はない。

真弓は、自分を卑下しているわけではない。自分に自信がないわけではない。

もう遅いのだ。これまで皆が護と過ごして築いてきた関係を、真弓が短時間で築けるわけがない。今からでは間に合わない。

もしかしたら、護には表に出してないだけで意中の相手がいるかもしれない。

そんな中告白なんてものをしてしまったら、それは護の迷惑になってしまう。護を困らせてしまう。

それだけは、したくない。絶対に。

……まぁ、でも……。

頼んでみても良いのかもしれない。少しばかり、そういう場に身を投じてみてもいいのかもしれない。真弓は、そう思う。

護に思いを寄せることがすべてではない。

寄せることが駄目ではないが、それだけが目的になってはいけない。

護を好きになるのは駄目なことではない。たとえ叶わないものだとしても、駄目ではない。そういう感情は必要なものなのかもしれない。

「ねぇ、佳奈……? 」

「どうした? 」

「青春部は楽しい…………? 」

「今更何を聞く? 楽しいに決まっている」

「うん。そうだよね。前にも聞いてたよね」

「そうだぞ? 」

こういう答えが返ってくることは、容易に分かることだった。これ以外の答えが返ってくることがないということも分かっていた。

楽しくないはずがない。楽しいに決まってる。

もし、真弓が青春部に入ったら、皆はどう思うだろうか。護はどう思うだろうか。

もちろん、護に迷惑はかけたくない。普通はかけてしまうものだけれど、なるべくそれは最小限に抑えておきたい。

皆の中には、護がいる。護のことを考えて行動している。そして、護は皆のことを考えている。触れ合う人それぞれに迷惑をかけないように。自分のことより他人のことを考えて行動している。

自分を顧みず他人のことだけを優先する人間を、真弓はこれまでに見たことがなかった。護が初めてだった。

だからこそ、その限りのない優しさに、惹かれるかもしれない。好きだとまではいかなくても、護といて嫌だという人はいないだろう。クラスの中でも、人気者になっているのだろう。主に女の子に。

男の子には嫉妬の目で見られているかもしれない。うん。聞いてみてもいいかもしれない。

「もしさ………………」

「ん? 」

「もし私が青春部に入ったらどう? 」

「どう? とは? 」

「私が入ってら迷惑? 」

「そんなわけないだろう? 」

……そうだよね。迷惑じゃないよね……。

「真弓先輩も青春部に………………? 」

薫も気になるのだろう。青春部に新しく増えるのだ。気になって当たり前か。それも、自分のライバルになってしまうかもしれないのだから。

「楽しそうだし、面白そうだからね。もちろん、杏には自分で伝えるよ」

決めた。青春部に入ろう。その先どうするかは分からない。でも、入ってみる。青春部に。




「作り過ぎたかもしれません……」

一人で厨房に戻った咲夜は、作った料理をステンレス製のサービスワゴンに乗せて行く。フランス語では、シャリオだ。シャリオがあったからこそ、一人で運ぶことが出来る。

これまでにあまり使ったことがなく少しばかり埃もかぶっていたから、掃除をしておいた。

咲夜は、再度を思う。作り過ぎたかもしれないと。

佳奈と杏と真弓。そして、護。この四人に関してはどれだけ食べるかを知っている。だけど、他の皆は知らない。だから、どれくらい作れば良いのかが分からなかった。足りなくては困るから、沢山作った。

料理をするのが好きだから。自分が作った料理を美味しいと言って食べてくれる姿を見たいから、料理を頑張る。美味しいと言ってもらえるように、丹精を込めて作る。

やっぱり、どんなことであろうと、他人に褒めてもらえるというのは嬉しいものだ。

……護様にもまた褒めてもらえます……。

この間、護が家に来た時、その時はフランス料理を作った。それまでも得意料理の内にはいる部類ではあったが、身内にしか出したことがなく、護の好みを知らなかったから合うかどうかも分からなかった。

少し不安があったが、フランス料理は正解だった。美味しいと褒めてもらえた。

その日以降、咲夜はフランス料理をもっとうまく作れるように練習をした。また、護に褒めてもらいたいから。褒めてもらえると、頑張ろうと思えるからだ。

……別に……。

異性として好きだというわけではない。お友達として好き。年齢が十二も離れているのだ。この差は広い。広すぎる。好きにはなれない。

……佳奈お嬢様もいますから……。

佳奈だけではない。あの場にいる皆が、護のことが好きなのだろう。そんな中に、咲夜が入っていけるわけがない。

応援するだけだ。皆のことを。護は誰のことが好きなのか。それは知らないし、聞いても教えてくれないだろう。知ろうとも思わない。知らなくして、応援したい。

「運びましょうか」

皆を待たせている。今日は日曜日。あまりの延長は駄目だ。なるべく、時間内におさめないといけない。

「どんな料理を作ったのか。それは内緒ですよ? もう少しのお楽しみです」

ふぅ、と息を吐く。心を落ち着かせるために。

「さて、どんな七夕パーティーになるのでしょうか。楽しみです」



「お待たせしました。皆様」

ゆっくりと料理を運び、皆が待っている中庭に到着する。

シャリオにのせられている料理を見るなり、皆の反応が変わる。

「わぁ………………!! 」

「手伝えなくて悪いな。咲夜」

「いえいえ。楽しかったですから」

「全部咲夜さんが作ったんですか? 」

護の幼馴染の薫が、驚きの表情を隠せずに、聞いてくる。

「えぇ。そうですよ」

当たり前のこと。少々、いや、かなり大変な部分はあったが、さっきも言った通り、料理を作るのが好きなのだ。好きなものであれば、それは苦にならない。

好きな人ができたら、その人に振り向いてもらうために一生懸命頑張る。それと一緒のことだろう。咲夜には、詳しいことまでは分からないけれど。

「料理を並べますから、手伝ってもらえますか? 」

さすがに、ここまで来たらもう隠す必要はない。それに、この料理を全て自分だけで運ぶのは骨が折れるし、その時にバレるのだから。


「さてさて、立食パーティーということなので、色々説明しましょうか」

「マナー……ですか? 」

そう。そういうこと。

「はい。色々あるのです」

自分と佳奈は、幾度となくそういう場に参加したことがある。

だけど、護達はそうもいかない。知らないことだらけだろう。だって、普通に過ごしていれば、まず、立食パーティーに参加する機会なんてものな訪れない。

「まず、基本的に同じ場所に立ったままというのは駄目です。参加者の親交を深めるためのものでもありますから、積極的に」

……おや……。

なぜだろうか。場の雰囲気が変わった。なぜたろうか。

……あぁ……。

なるほど。咲夜は、皆の変化の理由を理解した。

今、護の隣にいるのは、悠樹と心愛。この二人にしてみれば、護の隣という位置は絶対に死守したいものだろう。タイミングよく、この机を運ぶタイミングで隣にいれた。ここはチャンスなのだろう。

それとは反して、護の隣にいない十人。どうしても、どんな手を使ってでも、護の隣にいたいと思うだろう。

七夕。七夕パーティー。今日だからこそ、出来ることがある。今日だからこその、触れ合いがそこにある。

今日出来ることは、今日のうちに。明日に先延ばしにしてはならない。護の隣にいようと思えば、先延ばしになんてしてられないだろう。

がむしゃらに、頑張らないといけないのだろう。

「まぁ、でも皆さん方はもうすでにとても仲が良いと思いますから、それぞれに任せます」

この中庭は、そんなに広い場所ではない。別に、このマナーは守らなくてもいいものなのかもしれない。



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