連絡
……あ、そうだ……。
佳奈か、咲夜さんか。そのどちらかに連絡しておいたほうが良いかもしれない。誰かが寄り道をするわけでもなく、ちゃんと、俺と真弓についてきてくれてる。
だから、そろそろ到着しそう。もうちょっとしたら、大きい家が立ち並ぶ住宅街に入る。
「ちょっと電話したいんで、一旦、後ろ下がりますね」
「電話……? 分かったよ」
真弓に一声かけてから、後ろに下がる。喋りながらだと歩くのが遅くなる癖があるもんで。それで前を歩いてると迷惑になる。
そそくさと後ろに回って、携帯を開ける。
佳奈も咲夜さんも、どちらも準備で忙しそう。うーん……。咲夜さんにしよう。
「暑い………………」
あまりの暑さから、咲夜の口からは滅多に出ることないだるそうな声が発せられる。それもこれも、暑いから。
上はカッターシャツ一枚になっているものの、その暑さは変わらない。
花の配置を変えようと一人で頑張っている咲夜を、夏の夜特有のぬるっとした空気が包む。
その額には、汗が浮かんでいる。
「ふぅ…………。もうそろそろ……ですね……」
ベンチに置いていた携帯を手に取り、時間を確認する。予定通りなは、後十五分ほどで、護達は到着するだろう。
「間に合うでしょうか…………」
花壇の並び替えは終わるだろう。だけど、その後お風呂に入りたいと思っている。汗をかいているのだから、当たり前だ。
護が来ないのであればここまで神経質にはなってなかったかもしれないが、護は来る。この家に。
七夕パーティーなんて名を売っているけれど、皆の目当ては護だ。それだけ。護の側にいたい。七夕という、一年に一度の特別な日、というのも関係しているのだろう。
……佳奈お嬢様も杏様も本気のようですし……。
二人の姿を見る限り、咲夜の目にはそう映る。二人だけではない。他に来る人達もそうなのだろう。だからこそ、こんなにも人が集まった。
「護様が人を引き寄せた……」
そうとしか考えられない。それ以外に適切な答えが見当たらない。
「………………着信……」
手に持っている携帯が震える。着信音は設定していない。マナーモードだから、手の中で小刻みに震えるだけ。
「もしもし? 護様? どうかしましたか? 」
護のことを考えいたからか、このタイミングで護からメールが来たことに嬉しいと思ってしまう。
「咲夜さん。こんばんは」
「はい。こんばんは」
「準備で忙しかったならすいません」
謝りから入る護。そこまで気にしなくても、と咲夜は思う。護の優しさを感じる。
「大丈夫ですよ。私に電話してきたということは、何か要件ですよね? 」
「あ、はい。後数分もすれば到着すると思うんですけど、あの玄関の大きい門があったじゃないですか」
「ありますよ。なるほど、その門を開けておいてほしい。そういうことですね」
「はい。頼めますか? 」
護はちゃんと分かっている。家の入り口の門が、来客側からは開けられないことを。専用のリモコンが無いと開けられないということを。
到着した時にそのまま敷地内に入れるようにしたい。他の皆を待たせたくない。そういうことなのだろう。
「分かりました。今すぐ開けておきますね」
「ありがとうございます」
手元にそのリモコンはない。部屋に戻らないとない。
「いえ。それじゃ、皆さんが来るのを、心待ちにしておきますね」
「はい。すぐ向かいます」