我慢
「ん……………………っ。ん……ふぁぁ…………。僕……寝ちゃってたのか………………」
どれくらい寝ていただろうか。護に七夕パーティーに参加できないことを伝え、それからお昼ご飯を少しだけ食べ、その後のことはよく覚えていない。ということは、寝落ちという感じで、数時間寝ていたということになる。
天井を見る。何の変哲もない、普通の天井。暇つぶしにもならない。
「ランはいないか………………」
ララ一人。ランにだって用事があるだろう。ララ一人にかまっている時間もない。
……少し寂しいかな……。
風邪を引いているからか、少し弱気になってしまっている。あまり回らない頭で、ララはそう考える。まだ、熱は下がっていないようだ。
「行きたかったなぁ…………」
誰かに伝えるわけでもなく、誰かに聞いてもらうわけでもなく、ララはただ、心のうちを声に出す。
行きたい。どれだけその想いが強いものだとしても、行けない。風邪を引いてしまったから。
熱が低かったら、隠してでも参加しようとしていただろう。しかし、隠しきれないほどの高熱だった。諦めるしかなかった。
「どんな感じなんだろう…………」
部屋の時計に目をやってみると、時計の針は六時を示している。
……始まる時間……。
当たり前だけど、その七夕パーティーの場に、男の子は護しかいない。後は全部女の子。その全員がとまでは言わないが、そこに参加するほとんどの女の子が自分のライバルになる。
そこには、葵もいる。
……やばいなぁ……。
明らかに、風邪を引いてしまったのは自分のミスだ。浮かれ過ぎていて、自分の身体の不調に気付けていなかった。
もっと自分のことを気にかけていたなら、今、護の隣にいれたかもしれない。
「はぁ…………」
今日参加出来なかった。この差は、あとあと響いてくるだろう。遅れてのスタートだったララには、致命的なほどに。
護との距離をもっと縮めるために参加しようと思っていた。もっともっと護のことを好きになるために参加しようと思っていた。
だけど、それは叶わない。その道は、少し遠ざかっていくだろう。
それほどの差が、自分と他の人の間にある。
「どうしてるのかなぁ……」
護は優しい。誰にでも優しい。もちろん、ララにも。皆、護に惹かれる。
……修羅場になってたりするのかな……。
「あはは……」
そんな風に思っている自分に、笑ってしまう。乾いた笑がこぼれてしまう。
我慢。我慢だ。もう起きてしまった事実は変えられない。だから、この後どうするかを考えないといけない。
今日は、自分にツキが回ってこなかった。だけど、いつか、回ってくる時がくるだろう。
だから、我慢する。
「護……………………」
護の名を声に出してみる。大好きな男の子の名前を。
皆、目指してるところは同じ。その上で自分が一番になることが出来たら、それはどれだけ気持ちいいだろう。嬉しいだろう。
考えただけでワクワクしてくる。