表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
185/384

集合

……いた、まーくん……。

浴衣を着ているから躓かないようにしながら、階段を降りた先、少し周りを見渡しただけだ、すぐに、護の姿を見つけることが出来た。

でも、そこにいるのは、護だけではない。自分の知らない護の友達。おそらく、護のことが好きであろう女の子達。今、護の周りを囲んでいるのは、四人だけ。まだまだ、増えることになるのだろう。

その四人だけでも厳しいかもしれない。だけど、雪菜は頑張らないといけない。頑張るために、こうして七夕パーティーに参加しようと決めたのだ。

一人、雪菜だけ、蚊帳の外。同じ高校ではないから。その分、こうやって会える時に、どうにかしないといけない。

……まーくん……。


「麻依ちゃん。自己紹介」

「あ……そうだね」

葵と俺が待っていて、その次に来たのは、遥、悠樹。そして、悠樹の友達であろう女の子。まぁ、女の子しか集まらんよなぁ。

もう慣れたものではあるが……。

……麻依っていうのか……。

悠樹とは違って髪は長く、三つ編みがよく似合ってると思う。悠樹の友達だからだろうか。雰囲気が、どことなく悠樹と似ている。

「えっと…………。芹沢麻依です……。他に何をいえばいいのかなぁ。あ、悠樹ちゃんのお友達。もちろん……。遥ちゃんとも…………。君は……、護君だよね…………? 」

「はい。宮永護です」

何となく、麻依先輩が、どういう人なのか分かったような気がする。うん、何となく。

今更だけど、自己紹介ってのも難しいものだな。

「うんうん……。私も、護君って呼んでいいかな? 悠樹ちゃんも遥ちゃんも名前で呼んでるから…………」

「構いませんよ」

逆に、苗字で呼んでくれるより、名前で呼んでくれるほうがいい。これも、慣れてしまったからかな。うん。慣れって怖い。

「じゃ……。私のことも名前で呼んで…………? 悠樹ちゃんも遥ちゃんも別に良いよね……? 」

「別に構わない」

「別に良いと思うわ」

何でか知らないが、二人の許可も取れた。ん? この許可は必要だったのだろうか。まぁ、いいや。気にしないでおこう。

「じゃ、麻依先輩で」

「うん。…………よろしく」

「はい」

悠樹ほどではないだろうが、麻依先輩も少し口数は少ないほうなのだろう。だから、悠樹と似ていると感じたのかもしれない。仲良くなれると思う。

「今更だけど………………、私が参加しても良かったのかなぁ…………」

「大丈夫。楽しめるんだから、そんなことは気にしなくていい」

うん。悠樹の言う通り。

「それに、杏先輩とかは普通に歓迎してくれると思いますし」

「そうだね。マイマイも馴染めると思う」

誰か人を選ぶということはしない。杏先輩は、皆に対して優しい。それは、別に杏先輩だけではないのだけど。

「ありがと」

そう言って、ニッコリと微笑む麻依先輩。うん、やっぱり似ている。雰囲気だけが。


「護。後ろ」

「え? 後ろ…………ですか? 」

悠樹と遥と麻依先輩の三人の仲の良さを微笑ましいなぁ、とか思って見ていたら、俺の前にいる悠樹が、いきなり俺の後ろを指差して言った。

「あ…………雪ちゃん……」

「まーくん。こんにちは……」

水玉模様の浴衣を着ている雪ちゃんがそこにいた。恥ずかしいのか、顔を赤くしている。自分の意思で着たわけではないのかな? お姉ちゃんか、もしくは魅散さんかに、唆されたか。

「似合ってるよ。雪ちゃん」

「あ……、ありがと…………」

何というか、やっぱり、雪ちゃんはこういう雰囲気のものは似合う。白と水色系の服。悠樹もこういうのが似合うタイプ。

あ、三人の紹介しないと。

「護」

「何ですか? 」

「女同士の話するから、護はちょっと離れてて」

「え………………? 」

どういうこと? 女同士の話? まぁ、そういうことなら仕方ないかな……。何を話すのか気になるけど、俺は聞いちゃいけないのだろう。気になるけど。

自己紹介の時間でも、と思ったけど、まぁ、後でもいいかな。


……ふぅ……。

護にはちょっと自分達から離れてもらった。別に、護に聞かれて困るわけではない。

ただ、護が雪ちゃんと呼んだこの女の子にその気がない場合、気はあるがまだ気持ちを伝えてないとしたら、それは事態を拗らせることになる。

そんな面倒なことはしてられない。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、自分のことを考えるので手一杯なのだ。

護のことを考えるだけで、その他のことが考えられなくなってしまう。護のことだけを考えていたくなる。

「私は、高坂悠樹。左が芹沢麻依ちゃんで、右が黛遥」

悠樹のぶっきらぼうとも言える紹介の仕方に、二人は何も気にしてない様子で頭を下げる。それに慌てて、少しポカンとしていた雪菜も口を開いた。

「あ……。鳥宮雪菜です…………。えと、まーくんとは昔からのお友達で」

……だから雪ちゃん……。

雪ちゃん。そして、まーくん。

その呼び方からも、二人の仲の良さは窺い知れる。

「そう。雪菜って呼んでいい? 」

「あ、はい…………。じゃ、私も悠樹さんで……。麻依さんも……遥さんも……、そう呼んでくれれば……」

「うん」

「分かった」

「よろしくね」

それぞれの呼び方を決めたところで、本題。遥にもした質問を、雪菜にもする。確認のために。

「質問。いい? 」

「別に……構いませんよ……? 」

「じゃ、質問。雪菜は護のこと好き? 」

直球を投げる。わざわざ、分かりにくい質問はしない。だって、答えは二つしかないから。

そして、悠樹は雪菜からどういう答えが返ってくる返ってくる分かっていた。

「好きですよ………………。もちろん。悠樹さんと同じです……」

……雪菜……。

見透かされている。完全なまでに。

……そっか……。

やっぱり、分かってしまうのだ。同じ相手が好きなのだから。考えていることは似ているということなのだろうか。

「私も護のこと好き。だから、こうしてここにいる」

護に自分のことを常に考えていてもらうために。自分のことを選んでもらえるように。護の側にずっといたい。護の隣から離れたくない。

それは、別に、悠樹だけが思っていることではない。皆、思っていること。

「ところで、雪菜はどこに住んでる? 」

他の二人、麻依と遥が自分から何かを話そうとはしないので、悠樹は言葉を続ける。

「私の家…………実は、神社やってるんです……」

「あ、そうなんだ」

「へぇ……。すごいね」

……神社ってことは……。

わざわざ、聞くようなことではなかった。名前にヒントがあったのだから。

「鳥宮神社」

「はい……。そうです」

鳥宮駅。その近くにある神社。ここ、風見駅からはそれなりに離れた距離にある。もちろん、護の家からも離れている。

……でも……。

護は雪菜のことを雪ちゃんと呼び、雪菜は護のことをまーくんと呼んでいる。小学校も、中学校も、高校も違うだろう。それなのに、仲が良い。

……理由がある……?

物理的な距離は離れているのに、心の距離は近い。何か、二人を結びつけているものがあると考えるのが妥当。

「いつから、護のことを知ってる? 」

今出会ったばかりなのに、根掘り葉掘り聞くのはどうだろうか思うが、気になってしまうから、聞きたくなってしまう。知りたくなってしまう。

「小学校からです。、私にも…………まーくんにも、お姉ちゃんいますから……。それが理由で」

「なるほど……」

……沙耶さんだっけ……?

会ったのもたったの二回。それねも、沙耶の気前の良さは分かっているつもり。寛容とでも言うべきかも。

「幼馴染といえばそうなんですが…………、実は……まだ、会ったことあるのって、両手で数えられるくらいなんです…………」

「そうなの? 」

それなのに、この距離の近さ。やはり、沙耶の影響が高いのだろうか。それとも、無意識のうちに、雪菜にそういう想いがあったのか。どっちなのか、それは分からない。

でも、雪菜は護のことが好き。過去は過去として、今が大事。

雪菜が護に好意を寄せているというその事実が、自分、ひいては、青春部の皆にどのような影響を与えるのか、それを考えたりしないといけないかもしれない。

「はい。それでも………………仲の良さでは……負けないつもりです……」

「そう」

護と過ごした時間、護のことを好きだと認識してからの時間は、おそらく雪菜の方が長いだろう。この時間に勝てるのは、薫だけ。

今からどうしていくか。それが重要なのはわかっている。分かっているけど。

……やっぱり、時間も大事……。

どれだけ護といたか。どれだけ互いのことを知ってるか。やっぱり、それらが大事。それを他人より得ていた方が、これからを有利に動かすことが出来る。

でも、過去のことはどうにもならない。護と過ごしてこれなかった時間は過去であるから、その時間は絶対に戻ってこない。

「私だって護のこと好きだから、負けない」


「護ーっ!! 」

悠樹達がどんな話をしているのかがとても気になっていた俺に、背後から声がかけられる。成美の声。ってことは、渚先輩も一緒。

「おはようございます」

「おはよう。護君」

「お、おはよ……。護」

……お……。

予想通り、渚先輩もいた。そして、予想を外すような形で、心愛も。

そして。

「髪型………………」

「どうかな……? お姉ちゃんと一緒だけど……似合ってるかな……? 」

「ど、どうかな………………? 」

おぉ。渚先輩は、先輩が言う通りに成美と一緒の髪型、ハーフツインから下ろした感じ。双子で髪型を一緒にしたとしても、やっぱり雰囲気は違う。

心愛も心愛で、二回目のポニーテール。しかも、サイドテール。いつもとは違う。

七夕パーティーだからなのだろうか。雪ちゃんも含めて気合が入ってるのかなぁ、と思う。その理由は分からないけど。

「似合ってますよ。成美とはどこか違う雰囲気もありますし。心愛はお姉ちゃんみたいで何か良い」


……沙耶さんみたいか……。

心愛は、その護の言葉を受けて考えてみる。

そうだ。護はこの髪型に見られている。毎日見ているもの。沙耶と同じ髪型。同じ、サイドテール。

……似合ってるって言ってくれたのは嬉しいけど……。

沙耶みたいということは、どういうことか……。自分にとってこれから不利になってしまうような方向で考えてしまう。

……でも……。

ここは前向きに考える。

沙耶と似ている。姉と似ている。ということは、それだけ、距離が近くなったと護が思ってくれるということ。そうなら、これから、自分は頑張れる。


……お姉ちゃんとはやっぱり一緒にはなれないのかな……。

お姉ちゃんと一緒。双子だから、見た目ではそんなに変わらない。後ろ姿ならなおさら、分からなくなるだろう。

護は正面から自分達を見てくれているわけだが、護は雰囲気が違うと言った。

ということは、渚と成美を区別しているということ。はっきりと、別の女の子として見てくれているということ。

それはとても嬉しいこと。だけど、お姉ちゃんと、成美と一緒だと一緒だと言ってほしい時だってある。雰囲気も一緒だと言ってほしい時だってある。

でも、本当は、一緒では駄目だ。個性を出さないといけない。だから、この七夕パーティー。頑張ろうと、護にアピール出来れば、と思っている。

どこまで出来るのかは分からない。だが、やらないといけない。やらないと、前には進めない。立ち止まっていてはいけないのだ。





「そろそろ、出発しましょうか」

心愛達が来た後すぐに薫と真弓も到着し、これで全員がそろった。本当ならここにララとランもいるはずだったが、風邪をひいてしまっているのだから、仕方ない。

楽しみにしていただろうし、誘ったこっち側としても来れないのは残念。後で、埋め合わせとかしたほうがいいかもしれない。一応、考えとく。

時間は五時半を少し回ったところ。うん。予定通り。

「そだね。じゃ、皆。私と護の後についてきて」

このメンバーの中で佳奈の家を知ってるのは、もちろん、俺と真弓だけ。だから、二人で先導する。

今回は真弓と一緒になるけど、誰かの家に他の皆を案内する役を買って出たのは、これが二回目。葵の家を案内した時に、続いての二回目。

真弓が足を佳奈の家の方面に向けて動かしたので、俺もついていく。

まぁ、今更な感があるし、別にどうにかしようと思ってもどうにもならないと思うんけど、何処かに出かける時は、ほぼ自分の周りにいるのは女の子だ。

しーちゃん達と買い物とかをした時は羚がいたけど、あれは羚がメインだったわけで。

こう思うと、男の友達が少ない。というか、遠慮せずに話せるのは、羚しかいない。

うーん……。いつの間にこうなってしまったのか。分からん。女の子の友達が多いから男が近寄ってこないのか。

中学の時から男の友達は少なかったから、もう気にしなくはなったのだけど、やっぱり、羚のような友達がほしい。

青春部の皆とも気兼ねなく色々なことを話せるが、やっぱり性別が違うわけで、話すのを躊躇われるものだってある。だけど、羚ならそういうこともない。

でも、これから麻依先輩みたいに新しい友達というか知り合いが増えるのだとしても、その子は女の子なのかもしれない。だって、女の子の友達だから必然的に女の子になる確率が高いわけで。

う……。こうなると、地味な希望はもう絶たれてしまってるのかもしれない。

……よし。考えるのはやめておこう。なんか虚しくなってくる。他の男から羨ましげな目で見られることがあるから、そう思っていたら良いのかもしれない。うん……。

「護君…………。護君……」

隣に来た麻依先輩が、俺の服の裾をちょいちょいと引っ張りながら、声をかけてくる。

「どうしたんですか? 」

「本当に…………私がいても良いのかな……………………」

「大丈夫ですって」

心配になるのも分かる。この場では、麻依先輩はアウェイだ。遥も雪ちゃんも。この三人がちゃんと楽しめるように、七夕パーティーに参加して良かった、と言ってもらえるようにしなくては。

まぁ、その点に関しては俺がどうこうするよりかは、佳奈か咲夜さんのどちらかに頼んでみるしかないだろう。

「そう…………? 」

「はい。気にしなくて大丈夫です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ