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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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護を好きになったわけ

「佳奈…………。おーい、佳奈? 」

杏は隣に立っている佳奈に声をかける。腕を組みながら、何かを考えいるような佳奈に。

「佳奈……っ!! 」

再度、声をかける。返事が返ってこなかったからだ。

「え………………あ、あ……。ど、どうした……? そんな近い距離から」

「どうした、じゃないよ。何回も呼んだのに」

「そうだったのか……? それは悪かった……」

「もう……」

杏はため息をつく。

「どうかしたの? 」

佳奈がこんな状態になるのは珍しい。名前を呼ばれても返事をしないなんて。

「いや……。なんでもない……」

「?? 」

ちょっと腑に落ちない。

おそらく、七夕パーティーのことを、護のことを考えているのだろう。だけど、詳しくは分からない。詳しく知りたいのだ。杏は。

だけど、もう一回問うわけにはいかない。

「なぁ、杏」

「んー? 」

「杏は………………どうして護のことを好きになった……? 」

唐突な質問。前にも聞かれたような、聞かれてはいないような、そんな質問。

「どうしたのさ、急に」

「気になってな。どうなんだ? 」

「うーん………………」

難しい質問。

護が好き。それは間違いない。だけど、理由を聞かれると答えられなくなる。

当たり前だ。理由なんてものはないから。いつの間にか、好きになっていたから。

当然、いつから好きになったのかも分からない。もしかしたら、あの時、葵の家で中間テストのお勉強会そしてお泊まり会をした、あの時からかもしれない。

杏、と、名前で呼んでもらうようになったのもあの時から。

「そ、そういう佳奈はどうなの? 」

質問を聞き返す。佳奈の気持ちを知りたかったから。

「私か? 私はだな………………。看病してもらった時くらいからかな。あの時から真剣に想うようになった」

「そうなんだ」

佳奈の気持ちは本当だ。佳奈は嘘をついていない。それは言葉の迫力から、佳奈の目からも判断することが出来る。

……ん……?

「看病って……風邪でも引いてたの? いつ……? 」

護と出会ってから、佳奈が風邪を引いたという記憶が、杏の中には無かった。

「杏には言ってなかったか? あぁ、休みの日だったからな」

「そうだったんだ」

自分の知らない出来事。自分が知らないうちに、佳奈と護は距離を縮めていたことになる。

……やっぱり、皆もそうなのかなぁ……。

機会を設けてはいる。青春部の皆で行動して、皆が皆のことを見ていられるようにしている。もちろん、自分が知り得るためでもある。

でも、それだけでは、やっぱりカバーしきれてない。やっぱり、自分が知らないうちに、皆、護との距離を縮めているのだ。


他人の追随を許さず、どうして護との距離を縮めるのか。そんなの簡単。二人きりになればいい。そして、自分以外の女の子のことが考えられなくなるほど、行動を起こせばいい。

ただ。

……それが出来るのなら、もうやってるしねぇ……。

簡単なことだが、出来ない。出来ないからこそ、こうやって、悩んでいるのだ。どうしたら、ずっと護の隣にいることが出来るのかを。

杏は、杏と佳奈は、三年生。嫌でも、来年、卒業式を迎えてしまうと、毎日のように会えなくなってしまう。

でも、そうならないようにする方法がある。

もちろん、それは護と付き合うということ。

彼氏彼女の関係になってしまえば、としの差なんてものは関係ない。こちらの自由が聞くようになる分、護に迷惑をかけない程度で毎日会いに行くことが出来る。

そんな未来を手に入れるため、杏は頑張っている。

今は、同じ部活仲間という関係。先輩と後輩の関係。横の関係もあるが、やはり縦の関係のほうが強くでている。

護は優しいから、受験のこととか、そういうことを気にしてくれるだろう。後輩であるということを意識しながら接してくれるだろう。

だが、それは嫌なのだ。ずっと隣にいたい。ずっと一緒にいたい。

二人きりではあったものの、ムードもへったくれもなかった、水着を買いに行ったあの時。何か、流れで告白してしまった。護に想いを伝えてしまった。

あの日以降、護に変わった様子はない。心配をかけないように、表に出さないようにしてくれているのだろう。護は優しいから。

……でも……。

護は呼び捨てでは杏のことを呼んでくれない。あの時は呼んでくれた。しかし、時間が経てば戻ってしまっていた。

……佳奈のことは、佳奈って呼んでるのに……。

そうだ。最初に名前で呼んでもらった時も、佳奈にヤキモチを焼いてしまったからだ。名前を呼んでもらうのも、佳奈のほうが速かった。

全てにおいて、佳奈の方が先。自分より一歩前にいる。

……やっぱり、佳奈も変わったんだね……。

昔は違う。おとなしいとか、凛々しいとか、頭がいいとか、そういうところに関しては一切変わっていない。変わってるところは、自分より前にいるということ。小さい時は、杏の後ろについてくるような感じだった。

そりゃ、杏から誘っていたことが多かったから、それは当たり前のことかもしれない。

今は違う。杏が考えたことであっても、先に佳奈がいる。今回の場合なんて、遠慮してしまったために、成美に持っていかれてしまった。

……あれは不覚だったねぇ……。

まさか、成美がそういうことを言ってくるとは思っていなかった。いや、自分以外の誰かが、積極的に皆を絡めて護と会おうとするなんてことを考えるとは、思ってなかったのだ。

だから、しまった、と思ったのだ。

今回は何かが違う。いつもとは違う。自分だけではない。他の皆も、徐々に力をこれまで以上に入れ始めている。

……負けられない……。

絶対に、負けられない。

護を取られたくはない。

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