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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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意識と無意識

「薫さん……………………」

薫の服に身を包み、そわそわしている胡桃(くるみ)は、少し恥ずかしそうにしながら、薫に声をかける。

胡桃は知りたいことが一つだけあった。聞きたいことがあった。

「何? どうしたの? 」

「薫さんは………………どうして宮永さんのこと好きになったんですか……? 」

「どうして、か……。難しい質問だね……」

……気になる……。

少なからず人のことを好きになるのなら、それなりの理由がある。

胡桃が護のことを尊敬している理由、好きになってしまった理由も、もちろんある。

薫は護と幼馴染だ。昔から一緒にいる。昔から、気の知れた仲だ。

「ずっと隣にいたから、かな………………」


薫は考えてみる。護を好きになった理由を。だけど、分からない。胡桃が納得する答えを出せるかが分からない。

「幼馴染……ですもんね」

「うん。まぁ、もう家族みたいな感じだけどねぇ」

それほど、護との距離は近いのだ。近すぎるのだ。

だから、薫だって自分の気持ちに気付いていない時があった。グラグラしていた時があった。

しかし、今は大丈夫。護のことは大好き。この気持ちは絶対に変わらない。

でも、何故、そういう風に気持ちが変わったのか。それは分からない。

「無意識なのかなぁ…………」

ボソっと、声がもれる。

「無意識…………ですか……? 」

今は、はっきりと意識している。護のことを。護に対する気持ちを。

それまではどうだったのか? 意識する前まではどうだったのか。やっぱり、そこは無意識だったのだろう。無意識のうちに、護のことを考えていたのだろう。

当たり前のことだが、意識をしないと、自分の中で相手は存在しない。護のことを好きだと意識するから、そこでやっと、自分の気持ちを理解するのだ。

でも、違う。薫は違う。前々から護のことが好きだったのだろう。それに気づかなかったのは、無意識(、、、)の内に心に蓋をしていたからなのだろう。

護の側にずっといたから蓋をしていた。今も護の側にいる。でも、その蓋はもう開いている。

それは、護の隣にいる頻度が減ってしまったからかもしれない。自分だけが隣にいられなくなったからかもしれない。

護のことを好きな女の子は、自分だけではないのだ。いっぱいいる。だから、のんびりしてられなくなった。

……だから、なのかなぁ……。

中学の時も、自分以外に咲がいた。でも、自分以外には咲、一人だけだった。今は一人ではない。

だから、その蓋を、これもまた無意識のうちに開け放ったのだろう。その行為が、告白に繋がった。

「うん。無意識。無意識のうちに護のことを好きになる。そして、後からそれを意識(、、)する。だから、護のことしか考えられなくなるんだよ」


胡桃(くるみ)は薫の言葉を聞いていた。心の中で頷きながら、聞いていた。

よく分かる。薫の言いたいことは分かる。自分だって、そうなのだ。

胡桃が護に抱いている感情。それは、尊敬。憧れ。でも今は、それをも超える感情がある。好きだ、という感情だ。

絶対に叶うことのない想い。だけど、この想いを捨てることはない。ずっと、持っていることになるだろう。

何故か。気付いてしまったから。自分の気持ちに。そして、それをより|意識《、、)してしまった。

そうなってしまった以上、この気持ちは変えられない。抱き続けるしかない。

「勝算は…………あるんですか? 」

気になる。ライバルは沢山いる。その中で勝ち目があるのなら、胡桃は応援できる。薫のことを。いや、勝ち目が無かったとしても応援するが。

「どうだろ……。前にも言ったけど…………、幼馴染、いくら護のことを一番知っているとしても、優位には立てないんだよ…………」

「そうでしたね……」

そう。そうだった。

胡桃は昔の護を知っている。昔の薫を知っている。幼馴染だということも知っていた。だから、もう付き合ってるものだと思っていた。

でも、そうではなかった。想いを届けてはいるが、その結果は保留だ。

胡桃はずっと、幼馴染は恋に有利に働くと思っていた。当たり前だ。だって、一番距離が違うのだから。

しかし、最近は、そうではないのかもしれないと思っている。

距離が近いということは、それだけ家族みたいになるということだ。加えて、護と薫はお隣さん。より、家族みたいに一緒に育ってきたのだろう。

だから、恋愛感情で見れないのかもしれない。

だからこそ、薫は告白したのだろう。自分の想いを気付かせるために。他の人に告白されたとしても、自分のことを考えてもらえるように。

それは、功を奏しているのだろうか。それは、胡桃には分からないこと。薫本人にしか分からないことだ。

「負けられないけどね。護と一番一緒にいるのはあたしなんだよ。過ごしてきた時間が違う」

幼馴染が不利に働くわけではない。有利にも働く。お互いのことを知り得ているわけだから、お互い遠慮はいらない。自分達だけの世界にすぐ入ることができる。

「私に何が出来るか分かりませんけど、私…………応援します」

「ありがと」

もし、自分が薫達と同じ高校一年生だったら、こういう発言はしなかっただろう。自分が中学一年生だから、言えたこと。

年のせいにはしたくない。三歳くらい離れているとしても、この気持ちは本物だから。偽物ではない。でも、年のせいにせざるをえない。

自分が中学一年生でなければ、高校生だったら、恋愛対象として見てもらえたから。中学生ではその対象にもならない。悲しいことに。

でもそれは、仕方のないことなのだ。

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