恋は戦争
葵は見ていた。聞いていた。
何を?
護が電話するのを。護が電話している声を。
……そうですか……。
盗み聞きみたいになってしまったが、そんなことをするつもりはこれっぽっちもなかった。廊下に出ようとしたら、階段の下で電話をしている護を見ただけなのだ。
さっきは羚に電話をかけていたようだったが、今は違うかった。羚に話している時の口調ではなかったし、護はララと言っていた。
……二人はこないんですか……。
あんなに頼んでいたのに、結局は来れなくなった。風邪だから仕方ないが、葵の行動が変わる。七夕パーティーの時の行動が変わる。
二人が来る予定で、葵は考えていた。それを必要とはしなくなった。
……二人には悪いですが……。
これは好機だ。自分にとって。だって、恋敵が二人減るのだから。護が気にかけることになる女の子が二人減るのだから。
この恋は戦争だ。勝ち残れるのは一人だけ。残りは敗北者となる。簡単な戦争。だけど、難しい戦争。結果が中々出ない戦争だ。
のんきなことは言ってられない。のんびりはしてられない。頑張らないといけない。そのための七夕パーティー。
「あわわ……」
護が動いた。こっちに向かってきている。慌てて、葵は咲と護の母がいるリビングにへとさっさと戻る。
「どうしたの? 葵ちゃん? 」
「いえ……。何でもないですよ」
「そう? あ、護」
自分の後に続くように、護が来る。
「連絡ついたんですか? 」
どうなったのかは知っている。そして、ここに来たということ連絡がついたということ。それを分かっていながら、葵は護に問うた。
「おぅ……」
少しだけ、護は残念そうだ。当たり前だ。ララとランが来ないのだから。そして、護から聞かなくても、葵は知っている。
「ララとランが来れなくなったみたいでな」
「そう……なんですか」
「風邪だから仕方ないけどな」
そう言いながら、また護は携帯を開いている。
「佳奈先輩に連絡するんですか? 」
「そうだな」
準備のこともあるだろうし、はやめに連絡しておこうということなのだろう。
何回もいっているが、行われる場所は佳奈の家。
先月の水着を買いに行った時、その時は杏がひっぱってくれた。今回は佳奈。
三年生が自分達をひっぱってくれている。自分のためもあるだろうが、護との機会を作ってくれている。
二人も必死なのだろうか。だって、三年生だ。どう頑張っても、佳奈と杏の二人は今年で卒業になる。二人が護と関わっていられる時間も残り短くなっていく。だからこそ、頑張らないといけないのだろう。
護と付き合ったとして、その後どれだけこの高校で一緒に、青春部の部員として過ごせるか。そこも重要。
護がそこを重視しているとするなら、二人のチャンスは極端に減ってしまうことになる。
……どうするんですか……? 先輩達は……。