テスト勉強 #2
豪勢な昼ご飯の後、しばらくの間休憩時間がはさまれた。そんなことをしなくても充分な休憩時間はあったのだが、皆が食べ過ぎた為、織原先輩が。
「皆も食べ過ぎでしばらくは勉強しても眠たくなるだけだから、休憩時間を長くするから〜」
と言って、二時間の休憩がとられることになった。
まぁ、長すぎだとは思ったものの、織原先輩はそれを言った後すぐに寝てしまったので、反論のしようもなかった。
そして、それにつられたのか、その他の先輩がたも、心愛たちも寝始めしまったので、俺は仕方なく部屋から出ることになった。
〇
和室からでてキッチンへと向かうと、葵の母と鉢合わせた。
「宮永くんだったかしら。どうしたの? 」
「皆が寝てしまったので、部屋から出ていようと思いまして」
「あら、そうなの? ということは、うちの葵も寝てるのかしら? 」
「えぇ、まぁ」
「部屋に戻れないというなら、その隣にもう一つ部屋があるからそこの部屋を使ってくれてもいいわよ」
それはこっちとしても良い話だった。どこで時間を潰そうか迷っていたところだ。
「本当ですか!?」
「うん。いいわよ」
「ありがとうございます」
葵の母に礼をして、俺は皆が寝てる部屋に一旦戻った。
〇
寝ている人を跨ぐというのはいささか気が引けるのだが、こうもしないと隣の部屋には行けないので仕方が無い。起こさなようにしないといけない。
隣の部屋への障子に手をかけた時、後ろから声がかけられた。
「宮永君?」
渚先輩だった。
「すいません。起こしてしまいましたか?」
「いや、違うよ。私もともとそんなに眠たくなかったの」
「そうなんですか」
俺は寝ている薫たちを見ながら言った。
「皆、気持ち良さそうに寝てますね」
「そうだね。特にお姉ちゃんや杏部長なんかはね」
「成美先輩は沢山食べていましたもんね」
「お姉ちゃんはあんなに沢山食べることは滅多にないんだけど」
「そうなんですか?」
知らなかった。無理してあんなに食べてくれたのだろうか。それにしても謎である。
「うん。多分……、意地を張っていたんじゃないかな?」
「意地を、ですか?」
「そう。お姉ちゃんは負けず嫌いなところもあるから、護くんに負けるのが嫌だったんだと思います」
さりげなく、俺の呼び方が宮永くんから護くんに変わっている。まぁ、高坂先輩にも下の名前で呼ばれたので、もうその辺りのことに関しては気にしない。
「さすがに食べる量に関しては男には勝てないと思いますよ」
「それはそうですけど、まぁそれでもなんじゃないですか」
以外と可愛らしいところがある。
「それにしても護くんはこの部活に入って良かったんですか? 」
「良かった、というと?」
「護くん、見た感じ力とかありそうだし、運動系の部活に入ったほうが良かったんじゃないの?」
「それはそうかもしれませんけど、あまりハンドボール以外は得意ではないんです」
これは事実であった。
「そうなの?」
「小学校の頃からずっと薫と一緒にハンドボールばかりやってきたので、あまりそれ以外のスポーツをやってこなかったんです」
「へぇ。なるほど」
「渚先輩はスポーツとかやりますか?」
「私ですか? 私は得意ではないです。いつも見ているだけです。お姉ちゃんはかなり出来るんですが」
まぁそこは想像した通りである。
「でもダンスとかはやりますよ。唯一できるのはそれくらいかな」
(ダンス?)
「ダンスですか?」
「あっ! 嘘だと思ってるでしょ? 嘘じゃないんだよ」
「分かってますよ。意外だっただけです」
「それなら一度テストが終わった辺りにダンス見せましょうか?」
「本当ですか。それならぜひお願いします」
ダンスとかもしてこなかった身としては、ダンスが得意という渚先輩のダンスはとても見たい。羚に教えてやると、食いついてくるかもしれない。いや、確実に食いついてくるだろう。渚先輩が了解してくれるのなら教えてやりたい。
「ダンス見せてくれるんだとしたら皆の前でやってくれるんですよね?」
「そうだよ。それがどうしたの?」
「俺の友達の中で渚先輩のダンスを見せたいやつがいるんですけど……、そいつも呼んで良いですかね?」
「うーん。別に良いんだけどね……」
少し歯切れ悪そうに渚先輩は答えた。
「やっぱり嫌ですかね?」
嫌なら無理にはお願いしないつもりだ。
「嫌っていうわけでは無いんだよ。見せたいと思ったのは護くんたちだから、なんだよね。やっぱり……、あった事も無い人に見せるのはちょっと恥ずかしいからね」
「そうですよね。別に良いですよ。駄目もとで聞いただけですから」
「本当、ごめんね」
「良いですよ。気にしないでください」
〇
「もうすぐで部長が言っていた休憩時間が終わります」
渚先輩は、自分の腕につけている時計を俺に見せてくれる。
「それなら皆起こしましょうか」
まだ幸せそうに寝ている皆を見ながら言う。
「そうだね。私はお姉ちゃんたちを起こすから、護君は心愛ちゃん達を起こしてもらっていい?」
「はい。わかりました」
俺は心愛達の元に寄る。
心愛は本当によく寝ていると思う。頑張っていたからもう少し休ませてあげたい気もしないでもないけど、時間は時間なので仕方が無い。
「心愛。起きろ。もう時間だ」
声をかけてみるものの、返事はやってこない。体を少しゆさゆさと動かしつつ、もう一度呼んでみる。
「こ〜こ〜あ〜」
「んっ…………」
少しではあったが反応があった。もう一度呼びかけてみる。
「心愛。起きろ」
「ん……。護?」
「そうだ。護だ」
「どうしたの? もう時間なの?」
「そうだ。まだ皆寝てるから起こすの手伝ってもらっていいか?」
心愛は眠たそうに目をこすりつつ。
「わかった。んじゃ、あたしは葵を起こすから」
「おう。分かった」
今度は、心愛が寝ていた場所とは反対側に寝ている薫の元に向かった。その横では高坂先輩も寝ているので高坂先輩も起こしてあげよう。
「薫、起きて。 高坂先輩も起きてください」
「…………」
やはりというべきであろうか。薫も一回声をかけただけでは起きないらしい。
しかし、高坂先輩は。
「ん」
一発で起きた。実は最初から起きていたんじゃないかというほどに、すぐに体を起こしていたので少し驚いた。
「起こしくれて、ありがとう」
「いえいえ」
薫を起こさなくてはならない。
そんなに寝起きは悪く無かったはずだ。
「薫。休憩時間終わるぞー」
「………………すぅ」
反応はない。
こんなに起きなかったかと記憶を探ってみるも、そんな事は無かった。起こす方法を考えていると、高坂先輩は寝ている薫の側に座り。
「私に任せて」
「わかりました」
〇
高坂先輩がどの様にして薫を起こしたのかは、秘密にしておこう。
一つヒントを出すとするならば薫はしばらくの間、お腹を痛そうに抑えていた。