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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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風邪を引いた #2

ララとランは護と仲が良い。そして、羚とも仲が良い。

羚が栞と付き合うようになってから話す機会はちょっと減ってしまったが、仲が良いことに変わりはない。

……護君は……。

誰を選ぶのだろうか。あんなに沢山の女の子から好かれていて、ちゃんと一人を選ぶことが出来るのだろうか。

いらぬ心配なのかもしれない。自分が心配するのはお門違いなのかもしれない。でも、ランは心配だった。

ランはもちろんララを押す。双子だから。一番ララのことを知ってるから。

でも、いくらララが護のことを好きだといっても、難しいものがある。

時間の差。それは、どうにも出来ないものである。ララがその輪の中に加わる前に、ララ以外の女の子は、護と一緒に時間を過ごしていた。

ララはかなり遅れている。でも、その差を少しでも埋められるもの。

それが。

……七夕パーティー……。

だからこそ、ララは頼んだのだろう。そんなララを見守るために、ランも参加することになった。

だけど、ララの熱は下がらない。ララは参加出来ない。なら、ランも七夕パーティーに行く必要はない。

護にとっても、それは良い方向に動くだろう。二人減るのだ。優しさを向ける対象が。

護といると、自然と優しくされる。護は、自然に他者に対して気を配ることが出来る。

それは、自然に、なのだ。

何か、下心でやっているわけではない。まして、見返りを求めてやっているわけではない。

本当に、自然に、護は周りに優しさを振りまいているのだ。

そんな優しさを求めて、皆集まる。それだけではないかもしれないが、護の周りには人が集まる。そして、護はそれを苦としない。

……羨ましいです……。

護が羨ましい。人に頼られる護が。そして、それを快く引き受けることが出来る護が。

誰にでも、苦手な人はいるもの。相性が合わない人はいるもの。でも、護にはそんな人がいないように見える。

見えないだけで、本当はいるのだと思う。だけど、護はそれを表に出さない。本当は辛かったとしても、嫌いだったとしても、それをおくびにも出さない。

護は、皆に同じように接しているのだ。誰かに特別待遇をするわけでもなく平等に。

護はそれを簡単にやってみせている。でも、難しいこと。普通に出来るものではない。ランだって出来ない。

だから、護が羨ましい。

……なるほど……。

ランは納得した。護の周りに女の子が集まる理由を。

皆、ランと同じような気持ちを抱えているのだ。

護を羨むと同時に、特別に接して欲しいのだ。

そのための七夕パーティーなのだろう。

「ラン…………………………? 電話しないの…………? 」

「あ……、ぼーっとしてました……。今からしますよ」

ララは身体を起こして、自分を見ている。


「ねぇ。ラン…………? 」

「どうかしましたか……? 」

熱で身体が重かったが、ララは自分の身体を無理矢理起こし、ランに向かって手を伸ばす。

「僕が…………羚に電話していいかな……」

ララは、そう提案する。だって、何かを渋っているような感じがしたから。

「熱を引いちゃったのは僕だし…………、僕が電話するべきだと思うんだ…………」

ランは首を傾げていたので、すかさずララは言葉を続けた。

その言葉でランも理解できたようで。

「大丈夫? 」

「大丈夫だよ。電話くらいなら…………」

頭はくらくらするし、考えもうまくまとまらない。でも、自分で伝えないといけない。羚に伝えてもらう形になってしまうけど、自分ですることが必要なのだ。

自分の失態だから。他人には任せられない。

「分かりました……」

ランは、ふぅ、とため息をもらすと自身の携帯を机の上に戻し、その隣にあるララの携帯を手に取る。

ララはベットの外に足を放り出してバタバタとさせ、携帯を受け取る。

……えと、羚の電話番号は……。

フォルダの中から、羚の電話番号を探し出す。

「あった。あった」

ケホッ、と一回咳をしながら、ララは羚をコールする。

「もしもし? ララか……? どうした? なんか珍しい気がするんだが…………」

羚の声と共に、ガヤガヤとした声が聞こえてくる。外にいるのだろう。それも、街の中に。

「ちょっと、ね。護に伝えてほしいことがあるんだよ」

「俺にか? それに風邪ひいてるのか? いつもと声違う感じだし」

「まぁ……そんな感じ……」

羚と話していても落ち着く。やっぱり、護と似ているところがある。

「護と何か約束してたってわけか」

「うん。だけど…………。僕、護の電話番号もメアドも知らなくって……。だから、羚に伝えてもらおうと思って」

「そっか……。別に構わんが…………、それは自分で連絡しなくてもいいことなのか? 」

「え……………………? 」

一瞬だけ、ララは羚がどういう意味でそう言ったのかが分からなかった。

「直接言ったほうがいいと思ったんだが」

「それも……そうだね……」

わざわざ、羚を介する必要はない。

「じゃ、護のメアドか電話番号をさ、僕に教えてくれるかな……? 」

最初から、そう言えば良かったのだ。それに、護と話せる。そうすれば、ちょっとは風邪もマシになってくれるかもしれない。

「じゃ、電話番号。メモするもん、あるか? 」

「ちょっと待って」

ララは目だけでランに伝える。それだけで、ランは理解してくれた。

「もう大丈夫だよ。羚」




本文

「わ、おっとと……」

ズボンのポケットに入れていた携帯が突然震え、ちょっと階段から落ちそうになってしまった。ふぅ、危ない危ない。

おそらく、羚が折り返して電話をかけてきてくれたのだろう。

「…………羚じゃねぇ……」

慌てて携帯を開いてみたが、ディスプレイに表示されてるのは羚の名前ではなく、数字の羅列。俺の携帯には登録されていない番号からの電話。

まぁ、だからといって、電話に出なくてもいいわけではないんだけど。

「はい、もしもし……? 」

「護? 僕だよ僕。ララ」

「ララか……!? どうしたんだ? 」

タイミングがいい。こっちからも連絡したかったんだ。

「言わなくちゃ……ならないことがあってね。あ……、番号は羚から聞いたんだ」

なるほど。だから、さっき通話中になってたわけか。

「で、その言わなくちゃいけないことってのは………………」

「ん……? 」

電話越しに聞くララの声は、どことなく苦しそうだ。それに、ちょっと喋り辛そうにしている。風邪か?

「僕……風邪引いちゃってね…………。今日の七夕パーティー行けないや」

「そっか……」

やっぱり風邪か。

ララが、ララとランが、こっちに転校して来てからまだ全然時間が流れてないけど、ララってあんまり風邪引いたことが無いんじゃないか、って思う。

ララの明るさは、周りを元気にしてくれる。言うなれば、心愛と同じ。そういや、心愛も五月くらいに風邪引いてたっけ。

「大丈夫なのか? 熱は……どれくらいだ? 」

結構来たがっていたララ。そのララを止めたのだから、以外と高い熱があったりするかもしれない。

「三十八度超えてる…………。今でもかなり頭クラクラするけどね……」

あはは、とララの乾いた笑い声が聞こえた。

「メールで良かったのに。喋るのも辛いんじゃねぇの? 」

「ちょっとはね………………。でも、直接言おうと思って」

「そっか」

「それに……………………護の声……聞きたかったから」

「何でだ? 」

「だって………………ちょっと元気になれる気がしたから。僕が思った通り、元気になれたよ。ありがと。護」

「俺は何もしてねぇよ」

「んじゃ………………そろそろ切るね」

「おぅ。風邪、ちゃんと治せよ」

「うん。ありがと」

携帯を閉じ、またポケットの中に戻す。

ララのお見舞いに行きたい気持ちはあるが、ララの家の場所知らないし、そもそも言ってる時間がない。

それに、俺が行かなくても、ララにはランがいる。

あ、なら、ランも来れないってことか……。うーん、残念。佳奈に言っておかないと。

咲夜さんの準備のこともあるだろうし、こっちもはやめに連絡しておいたほうが良さそうだ。

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