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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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思い出作り

「それじゃ、準備をしてきます」

佳奈と杏、そして咲夜は三人でいた。佳奈の部屋で、七夕パーティーのことを話していたからだ。後五時間ちょっと、そうすれば、始まる。

「期待してるぞ。咲夜」

「頑張ってくださいね。咲夜さん」

七夕パーティー。いつものように、集まってわいわいするだけではない。わざわざ来てもらうのだ。だから、おもてなしをしないといけない。

本当なら佳奈も手伝いたかったのだが、料理がそこまで出来るわけではない。なら、咲夜に任せるべきだと思ったから、咲夜に頼んであるのだ。

「はい。頑張ります」

一礼すると、咲夜は部屋から出て行く。次に咲夜がこの部屋に顔を出す時は、準備が出来た時。そこまできたら、パーティーはすぐそこだ。


……楽しみだなぁ……。

杏の心の中に、自然とそういう言葉が浮かんでくる。護がいるからだ。

「どうした、杏。ニヤついて」

「楽しみだなって。七夕パーティー」

「そうだな。急に決めたことなのに人も集まったし」

「ね」

そう。昨日決まったことだった。成美の案を受けて、昨日に決めたことだった。珍しく自分から案を出さなかった代わりに、成美がしてくれた。

……どうしよっかなぁ……。

そこがいままでと違うところ。これまでは、杏が出した案の中で、皆は行動していた。水着を買いに行った時もそう。

だけど、今回は違う。それだけ、成美が本気になってきたということなのだろうか。

もし、そうなら。

……のんびりはしてられないねぇ……。

ゆっくりしている場合ではない。それは、前々から思っていたこと。だけど、ここ最近は、特にそう思う時が多くなってきている。

……焦ってる……?

自分では分からない。でも、そうなのだろう。これだけ勝ちたいと思っているのだから。

何度も考えていたこと。勝ちたいと、その意思だけではどうにもならない。行動で示し、皆より上に立たなければならない。

だからこそ、成美は動いた。

……でも……。

自分に有利な方向に持っていきたいのなら、こんなに大掛かりにする必要はなかった。小さく、護と二人きりでやればよかったのだ。そうすれば、自分だけが護と距離を詰められる。それなのに、成美はそうしなかった。

……遠慮してる……?

その二人きりでの七夕パーティー。もしくは、渚を交えての三人での七夕パーティー。もし、それが他の青春部のメンバーにばれたなら、どうなるか。そのことを、成美は考えたのかもしれない。

だって、それは抜け駆けだから。

そうしないと、いけないときもあるだろう。誰にも知られないところで、護との距離を詰める。一番効果的なのは、おそらくそのやり方。

でも、成美はその選択肢を選ばなかった。

……何か策でもあるの? 成美……。

そうとしか考えられない。

どこか、2人きりになれないかと考えているかもしれない。

……それは難しいよ……?

だって、みんながいる。護のことが好きで好きで仕方が無い女の子が沢山いる。護から片時も離れたくないと思う女の子がいる。そんな中で、二人きりになるのは至難の技。

それに、七夕パーティーは佳奈の家でやる。初めてくる佳奈の家。どの場所に行けば二人きりなれるとか、そういうのは分からない。もしそんなところがあるのなら、そこは杏が知ってる場所だ。佳奈が知ってる場所だ。

……さぁ、成美はどうするのかなぁ……。


……はぁ……。

杏と二人きり。咲夜が準備をしにいったから、後しばらくは杏と二人きり。

別に、嫌なわけではない。というか、嫌なわけがない。ずっと一緒にいたのだから、幼馴染として。どんな時も一緒にいたのだ。

そんな杏を嫌いになるわけがない。嫌いになれるわけがない。

でも、たまに。ほんの少しだけ、杏と二人きりになった時だけ、気まずいと思う。

それは何故か。ちゃんと理由は分かっている。

お互い、護のことが好きだからだ。好き、という気持ちが募り過ぎて、もうどうにかなってしまいそうなほどに。

お互い、その気持ちを知っている。伝えなくても分かる。バレる。だって、幼馴染だから。ちょっとの気持ちの変化でも敏感に感じてしまうのだから。好きな気持ちなら、特に。

だからこそ、気まずい。護が選ぶのは、どちらか。どちらも選ばれない可能性もある。

自分達は、佳奈と杏は、三年生。護は一年生。

後数ヶ月もすれば、卒業してしまう。でも、護は違う。そして、自分達以外の青春部の皆も違う。自分達がいなくなった後も、他の皆は護との仲を深めることになる。

もし、護の彼女になることが出来たとして、それはいつまで続くのだろうか。会えない時間が増えていくのに、どれだけ彼女としていれるのだろうか。

分からなくなってくる。

だからこその、思い出なのかもしれない。自分の中で護を留めておかないといけない。

……そっか……。

時間が経つにつれ、護といられる時間は減ってしまう。夏を越えて秋になってしまえば、青春部に顔を出すことも難しくなる。

受験。どうしても、目の前に立ちはだかる壁がある。どうしようもない壁がある。

だからこそ、今のうちに、護と一緒にいないといけない。それは、杏も思っている。

「なぁ、杏」

「何かな? 」

「私達は……………………………………。いや、何でもない………………」

言葉をグッと飲み込む。今言うことではない。タイミングが悪い。

「そう? 」

不思議そうに首をかしげる杏。

「思い出作らないとな」

別の言葉を繋げる。無言の状況を避けるために。

「思い出……? そりゃそうだね。夏だし。そのための、七夕パーティーじゃないの? 」

「それもそうだな」

思い出を作りたいから、護の隣にいたいから、急な誘いにも皆乗ってきたのだ。

佳奈の気持ちは強い。今日頑張らないと、次に思い出を作れるのがいつになるか分からない。

夏休みになったら、また何かやることになるのだろう。今度は、杏が提案してくれるはずだ。

でも、その時も多くなる。皆、集まる。皆、本気を出してくる。早めに決着つけないといけない。

……勝たないとな……。

時間が経てば経つほど、勝ち目がなくなっていくかもしれない。

なら、今日。自分の家で行われる。自分の家のことは自分が一番知っている。

勝負するなら、ここだ。

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