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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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恋の一方通行

昼ご飯を食べ終え、心愛は自分の食器を流し台に片付ける。そして、それを洗う。ついでだから、母の分も。

当たり前のことではあるが、自分の分は自分で片付ける。心愛は常にそうしている。

「あ、心愛」

そんな心愛に、背後から声がかかる。

「何? 母さん」

その声に振り返ることなく、お皿を洗ったまま、母に返事をする。

「今日、夜ご飯はいらないんだっけ? 」

「うん。七夕パーティーだから」

「七夕パーティーねぇ…………」

水道の水を止め、濡れた手をエプロンのすそで拭こうとする。だけど、すぐにそれがダメだということに気付き、近くにあった手で拭く。

「お母さんはしたことあるの? 」

「無いよ? お母さんはお父さん一筋だったし、そんなことする必要も無かったから」

そう。そうなのだ。母さんと父さんは両思いだった。誰も間に割って入れないほどの。

だからこそ、仲を深めるようなことはしなくてよかったのだ。

だけど、自分達の場合はそういかない。恋敵(ライバル)が多すぎる。そして、母さんのように父さんのように両思いではない。

いってしまえば、恋の一方通行。

心愛は護のことが好きだ。大好きだ。これまでにこんな好きになったことはないくらい、護のことが大好きだ。

「一方通行ではないのかなぁ……………………」

母に聞かれないように、ボソッと声をもらす。

想いは伝えてある。護だって、それを考えてくれているだろう。だから、一方通行ではないのかもしれない。片思いではないのかもしれない。

でも、この想いが叶わなかったら意味がない。

護の隣に居続けないといけない。護のことが好きだから。他の人には取られたくないから。

「護君………………だっけ? 」

「何が…………? 」

突然母の口から護の名が出たので、驚きながら母に声を返す。

「とぼけないでよ、もぅ。心愛が好きな男の子でしょ? 護君は」

「………………………………え? 」

「あら? 違う……? 」

違うわけがない。この想いは何があろうとも絶対に変わらない。心愛が疑問に思ったのは違うことだ。

「あってる。でも………………お母さんに言ったことあったっけ? 」

「ないわ。でも、分かっちゃう。お母さんだからね」

……そっか……。

何となく、母の言葉に納得してしまう。母はこうして父と結ばれている。母としての勘が働いた、とも考えられるのだろうか。

「まぁ、それは嘘で……………………」

……嘘なの……?

「だって、心愛。楽しそうに話してるでしょ? 護君のことを。それに、一回お見舞いにもきてくれたわよね」

「そっか………………」

普通に気付かれていた。勘とかそういったものではなかった。自分でヒントを残していたのだ。


「後数時間かぁ……………………」

渚は声を出す。ベットの上で仰向けになりながら。もちろん、自分の部屋にいる。

七夕パーティーはもう少し。もう少しで行われる。

目当ては何か。青春部の皆がもっと仲良くなれるように。

そのために行動する。その行動理念は何も変わっていない。護が青春部に入った時から。

護のことになると、皆はそこに予定を合わせてくる。護の隣にいたいからだ。

渚だってそう。今日の七夕パーティー。昨日に決めて今日。急な話ではあったが、楽しみにしていた。

でも。

「私は……………………護君のことが好きなのかなぁ………………」

分からない。最近は、このことだけが分からない。前から分からなくなっていたかもしれない。だから、余計に護のことが気になっていたのだ。

渚以外の青春部メンバー。薫、葵、心愛、悠樹、成美、佳奈、杏。七人は絶対に好き。護のことが。

……でも、自分は……?

そう自分に問う。

……本当に護君のことが好き……?

そして、答える。

ずっと皆を見ているから、お姉ちゃんである成美を見ているから、勝手に好きだと勘違いしているだけかもしれない。

好きだといえば、好きだ。護のことを嫌いになれるわけがない。何故か。そう聞かれると、答えに困ってしまう。

護は優しい。しかし、その優しさを直接受けたことは少ない。他の皆と比べて。

護は誰が好きなのだろう。誰が護に告白しているのだろう。

自分が知っている限りでは、薫、葵、心愛の三人。同級生組だ。

でも、それだけではないはずだ。

護の隣にいるためにはどうすればいいか。それは告白。告白しかないのだろう。

護に告白をし、自分の存在を認めさせる。その上で好きになってもらう。

……好きになってもらうのが難しいんだよね、きっと……。

だからこそ、頑張っているのだろう。

あの勉強会やお泊まり。佳奈がいなかったりはしたが、色んなところを探索してみたりもした。それに、護に水着を選んでもらったりもした。

この全部が、護の気を惹くために行われていたものだとしたら?

もし、そうだとしたならば、今回のだってそうだ。

護に好きになってもらうため。そのためだけ。

いつもは、杏が発案者。しかし、今度は成美。そこが、いつもと違うところ。

この違いが何を生み出すのか。それは分からない。

分かるのは。

……お姉ちゃんは本気だ……。

自分から仕掛けている。

なら、自分は下がるべきなのだろうか。

曖昧な気持ちで護と向き合えるのか。

護のことを好きになったとしても、仮に、この気持ちに整理がついたとしても、勝つことが出来るのか。

好きになったとしても、想いが伝わらなかったら何の意味もない。相手のことを想っていた時間が無駄になってしまう。

……どうしたら、良いの……?


「はぁ……………………」

成美は、ゆっくりと壁にもてれかかる。顔を伏せながら。

七夕パーティーは今日。数時間後には始まる。

「はぁ………………」

携帯の画面を見ながら、また、成美はため息をつく。その画面には、護からのメール。

「五時半までに風見駅……」

さっき来たばっかりのメール。護からのメールにはそう書かれていた。

佳奈の家に行ったことがないから、どうやって行くべきなのかと考えていた。護からこういったメールが来たということは、護は佳奈の家に行ったことがあるのだろう。そして、皆を佳奈の家まで案内してくれるのだろう。

「護は佳奈の家に行ったことがあるんだ………………」

確認していないが、それはもう事実だろう。

その点では、佳奈に先を越されたことになる。それも、自分が知らない間にだ。

佳奈に変化は無かった。目に見える変化は無かった。だから、気付かなかったのだろう。

「私は……………………」

どうすればいいのだろうか。

自分が護といたいがために、杏に連絡した。七夕パーティーのことを。それは承諾され、佳奈の家で行われることになった。それだけ、佳奈の家が広いということなのだろう。

楽しくなる。それは分かる。でも、誤算だったのかもしれない。護と二人きり。もしくは、渚も合わせて三人で七夕を過ごしたほうが良かったのかもしれない。

でも、もう遅い。

今から行けないと連絡するのも悪いし、そんなことをしてしまえば、護に会えなくなる。七夕の日に護と会えなくなる。他の人に、佳奈に、護との時間を与えてしまうことになる。

「嫌」

それは嫌だった。佳奈が成美より優位に立ってるかもしれないのだ。そんな可能性があるのに、自分がそこから離れるなんてことはできない。

「護は……………………私のこと……好き………………? 」

護はいないのに護が隣にいるかのような感じで、成美は声を作る。当然、答えは帰ってこない。誰からの答えも帰ってこない。

たまに、不安になるのだ。この想いは護に届いていないんじゃないかと。

告白はした。護に想いは伝えた。でも、護からの答えは保留。護は、告白した女の子全てに、保留という答えを突きつけている。

選べないからそうしているのか。

「私に対しての保留は…………どういう意味なのかなぁ……………………」

成美が告白をしたのは、葵、心愛、薫、悠樹の後。順番だけなら勝ち目はない。

……もし……。

護は成美のことが好きではないとしたら? 自分より以前の四人が好きで、断る理由を考えるために保留としていたなら?

この護に対する想いをどうすればいいのか分からなくなってしまう。

告白をしてから、成美を気にしてくれる時もある。でも、それは自分だけではない。護は、皆に気を配っているのだ。

「確かめないと………………」

確かめないと。確かめないといけない。護の本当の気持ちを。

いつまでも待つと言った。護が答えを出すまで待つと言った。でも、もう待てない。この想いを自分の中だけに留めておくことは出来ない。

だから、成美は決めた。

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