決意
「ふぅ…………」
自分の部屋に戻って、そうそうにため息をもらす。
何で忘れてしまってたのだろうか。今後は忘れないようにしないといけない。五時半に、風見駅で雪ちゃんと待ち合わせ。忘れてはだめだ。
当たり前だが、今夜の七夕パーティーは、佳奈の家で行われる。それなのに、佳奈の家を知っているのは、青春部の中では俺と杏先輩だけだろう。
となれば、必然的に、皆を佳奈の家まで案内するのは俺の役割ということになる。
真弓は知っているだろうし、もしかしたら遥も知っているかもしれない。知らない可能性もあるわけだから、後で聞いておく方がいいだろう。あ、ランとララにもだ。
「そういえば…………」
俺は二人の、ララとランのメアドを知らない。聞いておけばよかった。こればっかりは仕方ないから、葵に頼むことにしよう。
……連絡しねぇとな……。
薫達が来るまでに、数分くらいはまだある。それまでに、皆に連絡だ。電話をする時間はない。メールで済まそう。
雪ちゃんとの電話を終えて閉じた携帯を、俺はもう一度開いた。
「あと少し……………………」
ボソっと、心愛は呟く。あと少しで、七夕パーティーだ。護の側にいられる。いられないかもしれないが、それは自分で頑張ればいい。他の皆を押しのけてでも、頑張ればいい。
最近、いや、最初から分かっていたことなのかもしれない。そうしないと、護を手に入れることは出来ないということに。
心愛が護のことを好きだと気づいた時には、もうすでに恋敵がいた。薫と葵だ。
二人は強敵だ。しかし、二人だけなら勝てるかもしれない。心愛はひそかにそう思っていた。
でも、今は薫と葵だけではない。青春部の皆、護のことが好きなのだ。
余計に頑張らないといけない。それも、小手先の技だけでは無理だ。がっしりと、護の心を鷲掴みにしないといけない。
……そんなこと出来る? 心愛……。
心愛は自分に問いかける。そこまでの決意があるのかを。護の彼女になるためには、他のものを顧みない決意があるのかを。
……だけど……。
それは無理なのだ。そんな強い思い。心愛は持てない。
護とその先の関係へ。そう望んでいる。そう願っている。
もし、自分がそうなれば、願いが叶えば、他の皆の願いは叶わない。
そうなるのが当たり前なのだ。だけど、心愛はその当たり前が嫌だった。
薫も葵も、自分以外の青春部の皆。友達なのだ。親友なのだ。それも、同じ男の子を好きになった。
「心愛ー。ご飯よー。はやめに降りてきなさい」
部屋の前まで来てくれたであろう母が、扉の向こうから声をかけてくれる。心愛の思考の間に割ってはいるように。
「はぁい。分かった」
……はぁ……。
心愛は考えることをやめる。考えたって仕方ない。恋。考えたことがそのまま上手くいくわけではない。その場その場で考えていく必要がある。
どうなるのか分からない。でも、だからこそ、それが。
……楽しかったりするんだ……。