母の思い
「うふふ………………」
護の母は微笑む。護が家に女の子を連れてくることに対して、だ。
何も、今回が初めてなわけではない。小学校の頃から、護は家によく女の子を連れて来た。その点は昔から変わっていない。
変わっている点といえば、護の気持ち、そして家にくる女の子の気持ち。何か、真剣になっているようなそんな気がする。
「誰がくるのかしら…………」
誰がくるのか。護からそれを教えてはもらっていない。でも、誰が来ても、同じものがある。それは、護に対しての想い。
「お父さん。護はやっぱりあなたに似てます」
お父さんもそうだった。女の子が周りに集まっていることが多かった。物理的に、クラスや学年の中に男子が少なかった、という理由もある。
今でもそれはあんまり変わっていないのだろうが、数は増えている。それでも、護は男の子の友達より女の子の友達を家に連れてくる。
そんな自分の息子の護の姿を、自分が一生付き添うと決めた夫と重ねる。似ているから。
そして、護の隣にいようとしている女の子達は、昔の自分だ。自分だって、お父さんに選んでもらえるように頑張った。ちゃんと結果に結びついた。
「護も大変ねぇ………………」
お父さんも言っていた。選ぶのは大変だった、と。でも、この人だって決めたらすぐに気持ちが固まった、と。
今の護は、そんな昔のお父さんと同じなのだ。同じ苦労をしている。同じように選ぼうとしている。
なら、母さんは。
「お手伝い、しましょうか……」
またしても、母さんは微笑む。もちろん、手伝うのは、護の方ではない。護のことを好きだという女の子の方だ。
昔の自分と同じなのだ。だから、アドバイスが出来る。アドバイスをした方がいいのだろう。
それが、自分の役目だ。
「お昼ご飯ね」
私が作らない方が良いのかしら、と母さんは思う。
それぞれの想いを護に伝えようとするのなら、母さんは作らない方が良い。それこそ、アドバイス、手伝うだけで良い。
「他の準備しましょうか。護にも手伝ってもらわないと」
一緒に机を囲んでお昼ご飯を食べようとするなら、今ある食卓だけではいけない。もう一つ、持ってこないといけない。
心配しなくても、予備はある。こういう時のために、ちゃんとあるのだ。リビングに置いてある大きいソファだって、そういう時のため。
護には来客用のため、と言ってある。もちろん、その来客ってのは、護の友達だ。それしかない。
「母さん。何か手伝うことある? 」
今から呼びにいこうと思っていたところ。護からこちらに来てくれた。
「机運びたいから、手伝ってもらえる? お母さん一人じゃ持てないから」
「了解」
護は嫌な顔一つせず、頷いてくれる。これでこそ、護だ。自慢の息子だ。