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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜七章〜
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修羅場のはじまり #2

さっきおんぶしてもらっていたり、触れ合うような距離で隣に座っていたりしたのに、そんなことを思うのは少しおかしいのかもしれない。

でも、これから行くのは保健室ではないし、もう頭もクラクラしない。

護の家に行くのだ。初めて、護の家に行くのだ。なら、もっと別の格好の方がいい。体操服姿じゃないほうがいい。

「服か………………」

「服ならあたしが貸すよ? 護の家の隣があたしの家だし、すぐに取りにいけるし」

「良いんですか…………? 」

「気にしない気にしない。胡桃はあたしの練習に付き合ってくれるんだから、そのお礼に、ね? 」

「じゃ…………すいませんが……お願いするです」

そう言われたら断れない。別に、薫に迷惑をかけるわけではない。薫は、親切心からそう言ってくれてるのだ。それに乗らないほうが、迷惑をかけることになってしまう。それは避けないといけないこと。

「ささ、皆護の家に行くってことで。じゃ、出発だよ。ほら、護。先頭を歩いた歩いた」


「あ、沙耶(さや)さん」

時を同じくして、鳥宮家。雪菜(雪菜)、沙耶、魅散(みちる)の三人は、何かをするわけでもなくリビングに集まってボーッとしていた。

雪菜の右手には、携帯が握られている。朝起きた時から、雪菜はずっと携帯に着信が入らないかを確認している。

昨日護と電話をしてから、護から返事が返ってこないからだ。青春部、そしてそれぞれのお友達などで集まる七夕パーティーについての連絡が何もこないからだ。

「どうしたの? 雪菜ちゃん」

「あ、いえ…………。やっぱりいいです………………。ごめんなさい……………………………」

護から返事が来ない。そんなことを沙耶に言ったところで、どうすることも出来ない。

「雪菜。さっきからというか、朝からずっとそわそわしてるけど、何かあるの? 護君と会う約束してるとか? 」

……何でバレるの……。

今回は自分が悪い。魅散の言う通り、そわそわしていなのには間違いないからだ。

「まぁ……間違ってはいない……」

「護からまだ返事来ないの……? 」

「そういうわけではなくて…………ですね」

七夕パーティーへの参加の許可がおりたのかどうか。それに伴い、集合時間やら何やらについて。返事がこないことを、雪菜は口にする。

「ありゃりゃ………………」

「護のやつ。忘れてるかも……」

……そっか……。

用事があると言っていた。だから、それに追われていて、こっちまでに気が回らないのかもしれない。単に忘れられている。それだけは考えたくなかった。

「こっちからメールしておこうか? 」

「いえ………………。もう少し待ってみます…………」

「そう? 」

まだ時間はある。まだ七夕パーティーは始まってないだろう。なら、大丈夫。

ちょっとだけでも良い。護の側にいれる機会があるなら、そのチャンスをちゃんと使いたいだけなのだ。

……まーくん……。


何か……、何かを忘れているような気がする。

ん? 勉強をするのを忘れている? そういうことではないし、それくらいのことは重々承知している。そんな些細なことではなく、もっとだいじな何かを忘れている気がするのだ。

……。

…………。

………………。

……………………ダメだ。思い出せない……………………。

「ねぇ、護。一つだけ気になることがあるんだけど……」

「なんだ? 」

俺の後ろを、胡桃(くるみ)ちゃんと並んで歩いている薫が声をかけてくる。ちなみに、俺の横を歩いているのは咲。

学校に繋がる一本道だといっても、他の道にもつながっていたりするわけで、日曜日だからそこそこのひとがこの道を使っている。

中学校に向かう時はまた人も少なく(あい)ちゃん達と横並びであるけたわけだが、帰りはそうはいかなかった。

「今日の七夕パーティー。参加する人数が一四人だ、って佳奈先輩が言ってたんだけど………」

あれ? 一四人だったけか……。俺の勘違いだったか。一三人だったような気がするんだが。

昨日の夜に、佳奈からメールが送られてきていた。どれだけの人数が今日の七夕パーティーに参加するのか、というメールだ。

佳奈は真面目で、参加する全員の名前が書かれていて、律儀にも誰の友達なのか、それまでも明記されていたような気がする。

「七夕パーティーするんだ。もち、青春部の皆は参加するんでしょ? 一四人もいるってことは」

「そうそう。それでね、護。雪菜(ゆきな)って女の子……って一体誰………………? 」

そうそう。雪ちゃんも参加するんだった。

……ん……? 雪ちゃん……?

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!! 」

「い、いきなりどうしたの……っ!? 護………………」

「忘れてた……………………」

「何を………………? 」

「その雪ちゃんに時間とか連絡すんのを……………………」

「何やってんのよ…………っ!? そんな大切なこと忘れてたの? その雪菜ちゃんって娘……ずっと護の連絡を待ってるんじゃないの!? 」

「そ、そうだよな……。悪い……」

「謝るならあたしじゃなくて雪菜ちゃんにでしょ? ほら、さっさと家帰って連絡しなさい。あたしが護の家まで案内するから」

「あ、ありがとうな。ごめん………………」

俺と薫だけで話が進んでしまい、咲と胡桃ちゃんは何のことだかさっぱりだと思うが、後で説明しよう。今はのんびり説明なんてしてる場合じゃないし、俺がする必要もない。薫がしてくれるだろう。

てか、雪ちゃんへの連絡を忘れるとか最悪だ。言い訳のしようがない。

雪ちゃんと一緒に姉ちゃんもいるし、七夕パーティーが終わって帰って来たあと、ちょっと怒られるかもしれない。

考えることより足を動かそう。はやく家に戻る。それが先決だ。



「た、ただいま………………っ!! 」

勢いよく家の扉を開けて、玄関に駆け込む。良かった。鍵がしまってなくて良かった。閉まっていたら、走ってきた勢いのまま扉に衝突していたかもしれない。

いつもならちゃんと靴を並べるのだが、そんなことをしてる暇はない。

「ちょっと、護。帰ってきたの? 静かにしないさいっ!!!! 」

階段をドッドっと駆け上がっていると、階段の下から母さんの声が響く。

「あ、母さん! 」

雪ちゃんにはやいとこ連絡しないといけないが、その前に母さんに言っておかないといけないことがある。忘れたらダメだ。

「どうしたの。そんなに急いで」

「母さんは………………っ、もう昼ご飯食べた…………っ? 」

「まだだけど…………どうかしたの? 誰か連れてきてるの? 」

「そ、そうなんだ…………っ。だから、一緒にいいかな、って」

「別にいいわよ。料理は何でもいいわよね? 」

「うん。頼む……っ。ありがと…………っ!! 」

にっこりとして、母さんは階段の下から消えていく。

OKしてくれたようでなにより。良かった。まぁ、OKしてくれると思ってた。

「さてと……………………」

こっちは大丈夫。今度は雪ちゃん。怒ってないだろうか…………。雪ちゃんだから、そんなことはないと思いたい……………………。

葵の家に持っていた鞄の中から携帯を取り出して、慌てて雪ちゃんに連絡する。

「あ、雪ちゃん…………っ! ごめんっっ!! 」

一コールで繋がった。だから、すぐ謝る。謝らないといけない。


「え………………え……え………………………………? 」

いきなりの謝罪だった。ようやく護から連絡が来たと思ったら、護の第一声は謝罪の言葉だった。

「ど、どうしたの…………? まーくん…………………? 」

護に謝られるような、そんなことをされた覚えは、雪菜ゆきなにはない。

「ごめん。連絡すんの忘れてた…………。今日のパーティーのこと……………………」

……あ……。

なるほど。そのことか。

「別に謝らないで………………。まーくん。まーくんも忙しかったんでしょ? 」

「そんなのは言い訳にならねぇよ。本当にごめん………………」

「いいよ。ずっとまーくんのこと待ってた。それで、何時集合? 」

「あぁ、そうだよな……。えっと………………。六時から。早めに到着した方がいいかもな。それに、雪ちゃんの家から風見駅までは遠いけど……大丈夫か? 」

「うん。大丈夫」

護といることが出来るなら、それがどこであろうと雪菜は行く。自分にできることはそれしかない。

「それに……時間も調べてある………………。五時半くらいに駅につければ良い? 」

「そうだな。それくらいならちょうどいいしな」

「分かった。じゃ、その時間……。ちゃんと待っててよ? まーくん………………」

「おぅ。分かってる。ほんと、忘れててごめんな」

「もう謝らないでよ」

「ごめん……………………」

「ほら、また謝ってる……………………くす」

雪菜はくすっと笑ってしまう。自分達のやり取りに。少し、昔を思い出したような、そんな気がした。

「だな。じゃ、その時間で」

「うんっ。楽しみにしてる」

護との電話を終え、ゆっくりと、携帯を耳元から離す。自分の顔がほころんでいるのが分かった。

自分で思い出してくれた。なら、護の中にまだ自分がいるということだからだ。


……雪菜ゆきなってあの雪菜ちゃん……?

護が急いで家に帰った後、咲達はのんびりと歩いていた。その間、会話は一切ない。

咲は、ずっと考え事をしていた。

それは雪菜のこと。薫の口から発せられた雪菜のこと。咲は、その雪菜という女の子を知っている。本当に、知っているレベルだけど。

「薫は知ってるの? 」

「何を? 」

「何をって、雪菜ちゃんのこと」

「知らないわよ」

あたし、一体誰? って護に聞いてたのに、と薫は付け足す。

そうだったような気がするが、忘れていた。雪菜というのを聞いて、意識がそこに持っていかれてしまったからだ。ずっと、護と雪菜の繋がりを考えてしまっていたからだ。

「そうよね…………」

「そんなに気になるの…………? 」

「まぁ……」

当たり前だ。どこに二人の接点があるのか。全く分からない。それに、いつ知り合えたのか、それさえも分からない。何も分からない。知ることが出来ない。

雪菜のことをもっと知っていれば、すぐに分かったのかもしれない。でも、知らない。クラスメイトでおとなしい女の子、ということしか知らない。話したことも一度か二度。そんな程度なのだ。

「あたしも気になるけどね。詳しいことは……後で聞けばいいんじゃない? 」

「それもそうだねぇ」

……これは気になるねぇ……。

忘れていた。護はそう言っていた。それは、自分達がハンドボールをしようと誘ってしまったからかもしれない。

だけど、護の口振りから察するに、今日誘ったわけではないのだろう。昨日のうちには誘っていたはずだ。

その七夕パーティーとやら。咲はそれには参加しない。誘われてないし、そもそも人数が多い。今は自分の番ではない。

……やっぱり諦められないよねぇ……。

自分の番ではない、と思っているということは、まだ自分にチャンスが巡ってくると考えていること。まだ諦めてないということ。

だって、雪菜にもチャンスがあるのだ。雪菜には悪いが、護に忘れられていた。たとえ、忙しかったとしても。

雪菜にもチャンスがあるのなら、自分にもチャンスがある。そう思える。

……仕掛けないとダメかなぁ……。

七夕パーティーは今夜。おそらく、全員とまではいかないが、何人か、護にアプローチをしかけることだろう。だって、そういうチャンスがあるのだから。

今日を終えてしまうと、チャンスは巡ってこなくなるかもしれない。もし、誰もアプローチをかけなかったとしても、チャンスがこなくなるかもしれない。

なら、どこで自分は仕掛けられるか。それは明確。

この先、護の家。薫と葵がいる。そして胡桃くるみもいる。二人きりになれる時間はないかもしれない。それに、長居するわけでもない。

難しいことは分かってる。でも、本当に護を自分のものにしようと思うのなら、頑張らないといけない。

気を抜いてはいけない。

チャンスは今。この先。護との関係を縮める。それだけでも良い。たったそれだけでいいのだ。少しでも、自分を考えてもらえればいい。



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