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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
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テスト勉強 #1

 ふと時計を見ると、時刻は七時を差していた。集合時間は八時半なので、まだまだ時間はある。こんなに早く起きる必要があったのだろうか。


 「薫達は、一体何時から俺の家にいたんだ?」

 「あたしは五時からいたよ。護のお母さんが家を出る時にはもういたし、心愛はそれから三十分くらい後だけどね」

 「そんな早くから来てくれていたのか」

 「ま、まぁね」

 「まだ時間あるけどどうするんだ? このまま家にいるのか?」


 心愛は部屋の時計を見ずに、自分の腕につけている腕時計を見ながら。


 「あたしは一度戻るよ。勉強道具とか持って来てないから」

 「そうか。薫は?」

 「あたしも一回戻るよ。すぐ戻ってくるけど」

 「てことは、ここにもう一回集まってから葵の家に行くんだな?」

 「そうだね」

 「心愛もここに戻ってくるんだよな?」

 「うん。ここまでは定期でくることができるし、お金はかからないからね」


 と、いうことがあり、今に至るのである。


 隣の薫と心愛の二人はずっと元気で、途中で落ちていくのかとも思ったがそんなことは無く、電車の中でもその調子はずっと続いていた。どうしたらそんな元気になるのだろうか。教えて欲しいものである。



 葵が集合場所に指定した御崎駅に着くと、もうすでに織原先輩と麻枝先輩、さらには高坂先輩も来ていた。


 「「「おはようございます! 」」」


 俺たち三人は声を合わせて挨拶した。


 「おはよー」

 「うん。おはよう」

 「おはよう」


 現時間、八時十五分。集合時間まで後で十五分。六人一列で駅のホームで他の三人を待っている。


 「座りませんか? 立って待っているのもなんですから」

 「そうだね」


 近くにベンチを見つけたが、六人一緒に座れるベンチなんてものがあるわけが無く、三人掛けのベンチしかなかった。もし六人掛けのベンチなんてものがあったりしたら、座る位置でまた揉めることがあるので良かったのかもしれない。


 紆余曲折があり、ベンチに座ったのは、薫、心愛、高坂先輩になった。俺は元々座るつもりは無かったが、織原先輩がにやにやしつつ俺をベンチに座らせようとするので大変だった。


 織原先輩といろいろ言い合っている間に高坂先輩が何も言わずにすわってくれて良かった。あのまま座らされていたたらどうなっていたのだろうか。考えないことにしておこう。高坂先輩に感謝、感謝である。


 まぁ、こんなことをしているうちに時間はどんどんと過ぎていき、あっという間に成美先輩も渚先輩も合流し葵の家に向かうことになった。


 葵は俺だけにしか住所を教えていなかったらしく、俺が先頭で先輩達を葵の家へと誘導することになった。


 織原先輩、成美先輩、薫、心愛の四人を葵の家まで案内するのは、骨が折れそうになった。麻枝先輩、渚先輩、高坂先輩はちゃんと俺について来てくれるのだが、後の四人は目を離すとふらっと別の店に勝手に入ってしまったりしていたからだ。


 葵の家に到着するころには、予定の九時の到着時間を一時間を過ぎた十時になっていた。


 (疲れたぁ……)


 「へぇ〜」


 葵の家に着くと、皆その大きさに声を上げた。


 ここら一帯の家はどれもでかい家ばかりなのだが、葵の家はその中でも一際目立っていた。世界が違うぞ、これは。


 チャイムを鳴らすと、葵はすぐに出て来てくれた。


 「予定より遅かったですけどどうしたんですか?」


 そう言われたので、俺は織原先輩に目を向けた。


 「いや、ちょっと寄り道をね」

 「ちょっとどころでないでしょう……」

 「まぁ、何かがあったわけではないんですね。良かったです」

 「それにしても葵の家は大きいな」


 俺は家を見渡しつつ言う。


 「あまり良いことは無いですよ。私の家は三人暮しですし、後掃除が大変です」

 「それもそうだよな」


 織原先輩は悪びれた様子も無く。


 「こんな所で話すのもなんだから、早く入りましょ」


織原先輩。あなたが言うことではないです。主に、先輩のせいでここに到着するのが遅れたんです。


 「えぇ。分かりました。案内するのでついて来てください」


 葵は皆を引き連れ、部屋へと案内する。案内された部屋はとてつもなく広い和室だった。


 おい。この部屋、俺の家のリビングより広いんじゃないか?

ちょっとした絶望感を感じる。


 「座る場所、どうしますか? 教える、教えられるの立場で決めたほうが良いと思うんですが」

 「私はどこでも良いよ。 佳奈もそれでいいでしょ」

 「あぁ。私はどこでも良い。どちらかと言うと成美の隣が良いな。目を離すと杏みたいに勉強をしなくなる可能性があるからな」


 成美先輩は渚先輩の肩を抱きつつ。


 「渚に教えてもらうから大丈夫だよ」

 「お、お姉ちゃん。そんなこと言っても昨日もすこしやろうって言ったのに全然やらなかったよ?」

 「尚更心配だな。これで、私の隣は杏と成美で決定だな」


 成美先輩に、拒否権なんてものはなかったようだ。麻枝先輩には逆らえない。


 麻枝先輩の右に織原先輩。左に成美先輩。成美の横には渚先輩。そして高坂先輩。織原先輩の隣に葵。そして心愛、俺、薫の順になった。俺的には薫の隣になることができたし、三人の中では一番勉強が苦手な心愛の隣にもくる事が出来たし、万々歳ということだろうか。


 位置的には織原先輩達に教えてもらうことは出来なさそうだか、大体の分からない所は薫に教えてもらえればカバー出来そうだし、もしそれが無理なら、高坂先輩に教えてくださいと、頼めば良いだけだ。


 それにしても、織原先輩と成美先輩が座る時終始俺を見てにやにや笑っていたのが気になったが……。


 織原先輩は、部屋にある時計をみながら。


 「今は十時半だから、まずは十二時まで。それまでは集中してやるよ。赤点をとったら罰ゲームだからね」


 この言葉を合図に、テスト勉強会朝の部が始まった。



 部長の合図から三十分が経ったとき、麻枝先輩の隣にいた成美先輩と織原先輩が、そわそわとし始めた。


 どうも集中力がもたないらしい。


 やはり、麻枝先輩の隣にしといて良かったなぁとしみじみと思う。部長はこれで成績が良いというので驚きだ。まぁ、麻枝先輩が織原先輩を止めていたのだろう。その状況が目に浮かんでくる。


 それに比べ、心愛は大丈夫だ。もしかしたら教えることもしないでいいかもしれない。


 部長と成美先輩の二人は、麻枝先輩からの無言の圧力をくらい、静かに勉強に戻っていった。


 それから数十分後、俺の肘が横から控えめに突かれた。


 「ん? 心愛か」

 「ここ教えてもらってもいい?」


 と言い、心愛が指した問題は現代文のものだった。


 主人公の気持ちを答えるというもの。


 「この問題はこの行から読んだら分かるようになってるんだ。俺もそこは一度間違っている。後、ヒントを出しておくとこの四つの中の一番最後の選択肢は違うから」

 「ん。分かった。ありがと」

 「うん。それでも分からなかったらもう一回聞いてくれ」

 「分かった」


 俺たちはこうして自分の問題に戻った。


 ふと、目線を前に向けると、またしても織原先輩と成美先輩がこちらを見ている。が、すぐに麻枝先輩に頭を叩かれ、勉強に戻っていった。


 それから十二時までは、成美先輩も織原先輩もきちんと集中していて、さっきまでのはなんだったんだというほどだった。集中できるのなら最初から集中して欲しいものだ。


 「はい。終了!」


 織原先輩は十二時ちょうどになると、片手を高々と上げそのまま後ろに寝るようにして倒れ込んだ。


 「やっと、終わった」


 成美先輩も同じようにして後ろに倒れ込む。


 それを見計らったようにして、キッチンのほうから葵によく似た女性が出てきた。おそらく葵の母だろう。


 「みんな〜。お疲れ様。昼ご飯を用意したから、片付けが終わったらだれでも良いから手伝いに来てね」

 「分かりました!」


 織原先輩は素早く跳ね起き、勉強道具を瞬時に片付け、麻枝先輩を引き連れ葵母がいる方へと行ってしまった。


 とにかく、昼ご飯を食べることが出来るのが良いのだろう。


 「あっ。私も手伝いにいきます」


 渚先輩も、麻枝先輩についていくようにキッチンへと向かった。こんなに行っても意味が無いとは思ったものの、気が付くと薫も心愛も高坂先輩も手伝いにいってしまった。


 本当にそんなに行って邪魔にならないのだろうか。まぁ、そんな事を気にしても仕方が無い気がするが。


 ほぼ皆が部屋から出て行ってしまったため、部屋に残ったのは成美先輩と俺の二人になった。


 「成美先輩は行かないんですか?」

 「行っても仕方ないと思うからね」


 俺と同じ考えである。


 成美先輩は俺をジロジロと見てくる。


 「顔に何か付いてますか?」

 「いや、違うよ。護はさ三人の中で誰が好きなのかなぁって思ってね」

 「……っ! いきなりなんて質問してくるんですか!」


 (二回目……)


 前回は青春部の部室で。そんなに気になるのだろうか。分からない。理解出来ない。


 「やっぱり薫なの?」


 人の言う事を聞かない人だ。まぁ、こんなところで言い訳をしてもすぐ気づかれるだろうから意味はないと思われる。


 「まぁ、あながち間違いではないですけど……」

 「ぼかすんだねぇ……」


 またしても、成美先輩はにやにやとし始めた。


 「成美先輩。一つ良いですか?」

 「ん? 何」

 「いや…………、何でもないです」

 「まぁ……。頑張りなさいよ」

 「一体何をですか……」



 出された昼ご飯は、とても豪勢なものだった。


 しかし、いくら人数が九人いるとしても、この量は多すぎではなかろうか。食べ切れるのか心配である。


 「この量、食べ切れます?」

 「どうだろうね」


 織原先輩も少しこの量に驚いていた。


 「私はこんなに食べられません」

 「渚はもともと少食だもんね。けど大丈夫じゃないかな」


 成美先輩は俺の方を向いた。


 「なんですか……」

 「護が食べてくれるでしょ。たとえあたし達のお腹がいっぱいになったとしても」

 「それは分かりませんよ。俺もそんなにたくさん食べるほうではないですし……」


 俺がそう言うと皆の視線が集中した。その視線はすべて「食べてくれるよね」と言ってるように感じで仕方がなかった。


 「ま、まぁ……、善処はしますよ。けど、本当に食べ切れるかどうかなんて俺にも分からないんですから」

 「本当に無理だったら、皆で分けて持って帰ったりしたら良いんじゃない? ね、葵?」

 「はい。それで構いません」

 「じゃ、そういうことで。皆さん。手を合わせて、いただきまーす!」

 「いただきまーす!!!」



 皆で一緒で食べ始めて食べ終わるまでに、時間はどれくらいだっただろうか。少なくとも、一時間以上は経っていたような気がする。


 最初の方は喋りながら楽しく食べていたのだが、そんなのは最初の二十分くらいであった。それからは全然しゃべることは無く、ただ目の前におかれているご飯を食べる、というこというものに変わってしまっていた。


 最初にダウンしたのは、やはり渚先輩であった。少食と言っていたわりにはかなり食べたのではないだろうか。


 それからすぐに、薫と心愛がダウンした。


 薫って子供の頃は俺よりもよく食べていたような気がするが、成長するうちに俺のほうがよく食べるようになっていたのだろう。というか、逆に、俺よりがつがつ食べていたら驚く。


 それからは葵、織原先輩、麻枝先輩の順に力尽きていった。


 織原先輩たちの二人は、何故がどちらが最後まで食べていられるか、という勝負をしていたようで食べ終わるとすぐにどこかにいってしまった、


 食事も終盤に差し掛かったとき、残っているのは俺と成美先輩と高坂先輩になった。


 成美先輩は自分の取り皿にのこった最後の唐揚げを口へといれ、それを流し込むかのようにお茶を飲み。


 「二人ともごめん……。あたしはこれで終わりにするわ。これ以上はやっぱり食べられないや」


 そう言うと、成美先輩はキッチンへとふらふらと行ってしまった。おそらく水を飲みに行ったのだろう。


 それにしても、高坂先輩がここまで残ってくれるとは思っていなかった。


 高坂先輩はあまり表情を表に出さないので、辛いのか辛くないのかさえ分からない。まぁ、俺も辛いので女の子の高坂先輩が辛くないわけがないのだが。


 「高坂先輩。大丈夫ですか? あまり無理はしないでください。俺が頑張って食べますんで」

 「私は、大丈夫。護のほうこそ心配」

 「俺は大丈夫ですよ」


 今、護って下の名前で呼ばれた?


 「そう」


 高坂先輩はまた、もくもくと食べ始めた。


 そしてこの豪勢でたくさんあった昼ご飯を食べ終えたのは、それからしばらくしてからだった。

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